連休を利用して群馬県の湯巡りをしている。3日目は草津温泉にやってきた。草津温泉には昨夜に到着し、西の河原露天風呂に入浴した。今日はひたすら共同浴場巡りをしていこうと思う。

2020/3/21 西の河原大露天風呂

現在は朝の5:30、ふくろうの声で目を覚ました。夜のようにホーッ……と時々啼くのでなく、ホッホッホッホッと元気に啼き続けるので単純にうるさかった。

この時間はさすがに草津温泉街と言えども静かなものである。観光客はほぼおらず、たまに通勤と思われる人とすれ違うくらいだ。旅館の朝は早い。

草津町内
↑ 写真: 人気の無い草津温泉街

中心部にもほとんど人がいない。湯畑を呑気に眺めている人など全くいないので、湯畑独り占めである。静かな温泉街に温泉の流れる音だけが響き、動くものは湯気だけである。温泉地は早寝早起きが最良だ。

湯畑
↑ 写真: 人気の無い湯畑

湯畑
↑ 写真: 人気の無い湯畑

湯畑
↑ 写真: 人気の無い湯畑と温泉街

湯畑
↑ 写真: 人気の無い湯畑

草津温泉の源泉と共同浴場

草津温泉には大小あわせて 100 以上もの源泉がある。合計した湧出量は 32,300 ℓ/分 [1] で、日本一の自然湧出量になる。(動力湧出量を加えた場合の湧出量では別府が日本一。) 中でも最大の湧出量をもつ万代鉱 (ばんだいこう) は単独で 6,200 ℓ/分の湯が湧いており、これも全国トップクラスである。

草津温泉の資料に挙げられた主な源泉は7源泉で、湧出量の多い順番に万代、湯畑、西の河原、煮川、白旗、熱の湯、地蔵である。これら源泉は 1986 年より集中管理が行なわれており、草津町内 19 か所の共同浴場は全てこのいずれかを利用している。

源泉名 湧出温度 pH 湧出量 [ℓ/分] 共同浴場
湯畑源泉 52.7 2.10 4,040 千代 (ちよ) の湯、関の湯、翁 (おきな) の湯、瑠璃の湯、白嶺 (しらね) の湯、巽 (たつみ) の湯、長寿の湯、喜美の湯、千歳の湯、睦 (むつみ) の湯
白旗源泉 52.2 2.10 659 白旗 (しらはた) の湯
熱の湯源泉 50.7 2.10 298 地蔵の湯の時間湯
地蔵源泉 49.9 2.20 252 地蔵の湯
西の河原源泉 44.9 2.10 1,072 凪の湯
万代鉱源泉 94.5 1.60 6,200 長栄の湯、躑躅 (つつじ) の湯、恵の湯、こぶしの湯、碧 (みどり) の湯
煮川源泉 48.5 2.10 817 煮川の湯
(上記以外) 3,063
合計 16,402

煮川源泉は旅館に引かれていないため、上記「煮川の湯」か町営浴場「大滝の湯」で入浴できる。熱の湯は千代の湯の時間湯のみで入浴できるらしい。これは知らなかった。

念のため書いておくが、草津温泉観光協会の Web ページで挙げらている共同浴場は「白旗の湯」「千代の湯」「地蔵の湯」だけである [2]。つまり他は観光客向けでないということなので、草津温泉文化への十分な理解をした上で慎しく入浴する必要がある。

上記以外に該当する源泉としては「若乃湯 (草津館の自家源泉)」「君子の湯 (泉水館の自家源泉)」「綿の湯 (貴重と言われる)」「月の井源泉 (洋菓子屋の月乃井が所有?)」「新地蔵の湯 (一田屋旅館の自家源泉)」「大日乃湯 (極楽館の自家源泉)」「ての字屋源泉 (ての字屋の自家源泉)」「みゆき源泉 (ホテルみゆきの自家源泉)」等がある。あと地蔵の湯の時間湯は地蔵の湯源泉と異なる源泉を使うらしい [3]

また上の表以外に未利用源泉からの湧出が 15,898 ℓ/分 あり、合計で 32,300 ℓ/分になる。

白旗源泉
↑ 写真: 白旗源泉

草津温泉周辺の温泉

草津温泉は、数多くの爆裂火口を抱え現在も火山活動を続ける草津白根山の東山麓に位置しており、周辺には万座温泉のような温泉地を始めとし、放置された源泉も含め数多の温泉がある。ここでは実際に入浴できるかはさておき、そのような温泉を探してみる。ちなみにこの記事を書いた現時点でほぼ全て未訪。素人が机上で調べてわかったことしか書いていない。

注意: 場所によっては硫化水素ガス中毒の危険性がありますので、安易な気持ちで近付かないで下さい。特に、風の弱い日、霧の出る日は、普通に立ち入れるような場所でも危険な硫化水素濃度になっている場合があり、濃度が高いと気付く前に死亡します。

自戒も込めて草津町のページより硫化水素ガス毒性基準を引用 [4]

濃度(ppm) 濃度による主な症状
0.03 臭気を感じる
3 強い臭気
10 目に刺激
50~100 鼻・喉に刺激
100~200 1時間~8時間で生命危機
600 30分で致命的な急性中毒肺刺激と呼吸麻痺で生命危機
1,000~1,500 数分間で死亡

なお万座温泉や長野県側の温泉については、調べ始めると時間がかかりすぎるので省略する。
地質の勉強も次回の訪問時に回すことにする。

水釡・湯釜・空釡

白根山は、本白根山 (標高 2171メートル) と白根山 (標高 2160 メートル) により形成されるが、後者の頂上付近には3つの爆裂火口があり、北東から順に水釡・湯釜・涸釜 (あるいは空釡) と呼ばれている。

水釡は1976年に小規模な水蒸気爆発を起こし、一時干上がったらしい。開いた火口に水が流れていったためだそうな。2003年夏時点では最大水深 0.8m、径 40〜50m 程の大きさ。最近も新たに噴気が確認されたりしている。写真を見ると湯釡と同じような青みがかった白色の水を湛えているが、水温は気温と同じくらいなので温かくない。冬には雪に埋もれてしまう。時々高温で酸性 (pH2〜3くらい) の湧泉があるらしい。

湯釜は白根山の活動の中心になっている火口湖で、直近では1983年に水蒸気爆発を起こしている。火口湖は直径 300m、水深 30mの大きさで、青白色に輝く神秘的な湖面は目を魅き付ける。エメラルドグリーンに見えることもあるらしい。pHは1.0〜1.5くらいで世界有数の強酸性泉。当然魚も棲んでいないが、硫黄酸化細菌という奴は棲んでいて硫化水素を粛々と分解しているらしい。湖水の温度は、これも残念ながら温かくはなくて、気温とそれほど変わらない程度である。ただし底には硫黄の泥が数メートルの厚さで沈み、100℃以上に加熱されているとのこと。かつてはここにも硫黄鉱山 (万座鉱山) があったが、閉山している。

涸釡は名前の通りやや濡れているかな?くらいに見えるが、実は湿地状になっていて、水が無いわけではないらしい。

鏡池

鏡池は本白根山の火口湖。草津町の資料を見ると、池南西側に硫化水素ガス中毒の危険地域がある。湯の情報は無し。白根硫黄鉱山跡からの登山道がある。

白根山頂北西

航空写真を見ると、湯釜・水釡と芳ヶ平の中間あたりで噴気があるのがわかる。芳ヶ平を流れる大沢側よりさらに上流の、南側の源流付近である。と言っても水の流れは無いことが多いらしい。噴気が凝縮したできた湯が存在するとのこと。

殺生河原

草津温泉から白根山方面に 3km 離れた辺り、涸れた沢に沿って 300m 程の長さをもつ噴気地帯があり、殺生河原と呼ばれている。地図を見ると、北東の武具脱 (もののぐ) の池、南西の富貴原ノ池と一直線に並んでいるように見えるが、これは偶然ではなく、地下のこの方角に断層があるとされている。地表水が流れていないため湯も無いが、噴気が凝縮してできた酸性 (pH 3.5程度) の湯が溜っているところもあるらしい。

白嶺 (びゃくれい) 鉱山

R292の少し北を流れる入道沢の上流 (青葉山じゃない方) 標高 1650m 付近にあった鉱山。1坑、新盛坑、新坑、第1神風坑、通洞坑があり、うち神風坑内で50.2℃、pH 6.1 の中性に近い温泉が湧出するらしい。外に流れ出している、という情報は見当たらなかった。

なお、下流から登ってくると赤茶けた色の川との合流があり、通行者の目印になっている。その出会い付近にも温泉が湧いている。

石津硫黄鉱山

白根山の南側中腹、標高 1500m 付近の硫黄鉱山跡。1972年に閉山し、現在は当時の建物もほとんど取り壊されている。温泉は鉱坑内に湧出したが、それはさすがに近寄れない。城山鉱床の坑口手前に湯が溜っているところがあるらしい。稼動していた頃は、pH3.0の強酸性の水が坑口内で湧き出し、鉱山設備を腐食させてしまうので集めて排水していたとのこと。61.0℃、pH6.2の中性の温泉が湧出する、という情報も見つけたが、詳細はわからなかった。

他、白根山の近くの硫黄鉱山跡として、白根鉱山 (1933年〜1971年) 、吾妻鉱山 (1914年〜1971年) 、小串鉱山 (1929年〜1971年) 等があるが、いずれも湯は無いようだ。

群馬鉄山 (穴地獄)

今度は鉄鋼山で、群馬鉄山は釜石鉱山に次ぐ国内第2位の鉄鋼産額を誇った群馬鉄山。上流部に酸性の冷鉱泉の湧出口があり穴地獄と呼ばれる。温度は20℃程度、pHは2.5〜3.1ということで温かくない。

酸性の水が流れるところは東アジア最大級のチャツボミゴケ群生地になっており、稀少な生態系が認められ「チャツボミゴケ公園」として2017年、国の天然記念物に登録された。

媼仙 (おうせん、おうぜ) の滝

草津温泉街から南西に約 3km の位置にある落差 25m の滝。中程に地層の境目があり、そこからの湧水が温泉成分を含んでいるため、滝の岩肌が赤茶色になっているらしい。冷たい。

常布 (じょうふ) の滝

草津温泉街から北西に約 4km の位置にある落差 40m の滝。滝の上流付近の窪み数ヶ所から湯が湧いている。
温度は約30℃、pHは2.5程度だが、鉄イオン含有量が 100mg/kg 以上というものすごい数字になっている。(鉄イオンは 5mg/kg も含まれていれば鉄っぽい味を知覚できる)。

常布の滝から下流に少し行くと、落差数メートル程度のやや小さい滝があり、その裏側に小さな湯壺があって入浴できる。常布の滝下温泉と呼ばれている。滝裏というインパクトからか、こちらの方がなぜか有名なようだ。

香草 (かぐさ) 温泉

常布の滝から毒水沢を 1.5 km程遡上した標高 1,750m 付近の山中にあり、沢沿いの岩盤の割れ目から湧出する源泉群。100m 程の区間に10箇所ほどの温泉湧出があって、下流より1号泉〜10号泉の名前もつけられている。pH は上流側が低く、pH 1.1〜1.6 と日本最強の酸性をもつ秋田県の玉川温泉と同等かそれ以上の強酸性泉である。過去の調査を見ると、pH 0.9 と測定されたこともあったようだ。泉温は55℃〜65℃程度、溶存成分量は 10,000mg/kg を大きく上回り地獄スープのような源泉である。

なぜそんなことになっているかと言うと、白根山の頂上からほどよい距離にある温泉地帯のため、火山内部でマグマからガスが分離したあとの熱水 (初期熱水) の影響を強く残したまま湧出している考えられている。麓の温泉は、これに地下水がより希釈された状態で湧き出している。

温泉ファンや沢ファンにはよく知られた温泉だが、到達にはそれなりの危険を伴うため、十分に準備をし装備を整えてから行くべきである。あと自己責任である。

白根三段滝

香草温泉のさらに上流、毒水沢源流に滝が3段で10mの落差になっている滝があり、滝壷が35℃程のぬるい温泉になっている。そのように聞くと到達が大変困難に思えるが、芳ヶ平〜弓池の登山道から沢を高低差にして40m程度下るだけでいいので簡単である。調べると子供連れとか、犬連れで訪れた記録が見つかった。ここから香草温泉に下りるのは簡単ではない。

万座温泉

草津白根山の西麓、標高 1,800m 付近には万座温泉の温泉地がある。
源泉地帯は大きく分けて次の5つがある。

  • 奥万座
  • 万座湯畑
  • 万座空噴 (からぶき)
  • 万座地熱
  • 石楠花 (しゃくなげ)

疲れたので、今回の草津周辺の温泉探しはここまでにする。そういえばこの記事の本題は草津温泉の共同浴場巡りだった。続く。

ここまでの参考資料:

あといくつかの公式発表や、論文、個人の訪問記録をつまみました。


  1. 観光施設事業経営戦略報告書.docx ↩︎

  2. 温泉 | 湯Love草津(草津温泉観光協会ホームページ) ↩︎

  3. 【覆面取材】草津温泉の希少湯 - Yutty!【ユッティ】 ↩︎

  4. 草津白根山の火山ガスについて | 草津町 ↩︎