連休を利用して群馬県の湯巡りをしている。3日目は草津温泉で共同浴場巡りをした。

草津温泉には大小 100 以上の源泉があり、そのうち 7 つの源泉が、19 箇所の共同浴場のいずれかで使われている。詳しくは一つ前の記事に書いた。

2020/3/22 草津温泉 共同浴場巡り その1

この記事では「煮川乃湯」「長栄の湯」について記録する。

お約束だが、草津町の共同浴場は地元の方が生活の場として利用しているものであり、観光客向けに推奨されているのは「白旗の湯」「千代の湯」「地蔵の湯」だけである。それ以外の共同浴場は伝統的な「もらい湯」の精神に則り、地元の好意で入浴を許可されている。草津温泉の文化とマナーを理解した上で慎ましく入浴すること。

煮川乃湯

日帰り 1回目 曇り

煮川乃湯共同浴場にやってきた。

煮川乃湯では、煮川乃湯共同浴場の隣に源泉のある「煮川源泉」を利用している。煮川源泉はここ「煮川乃湯」と町営の日帰り入浴施設「大滝乃湯」でしか利用されておらず、草津の中ではレアな湯である。なお湧出量は 817 ℓ/分もあってかなり多い。まだ余裕がありそうだ。

煮川の湯 外観
↑ 写真: 煮川の湯 外観

扉を開けて入り、階段で少し下る。浴槽が低いところにあるのは、より原始的な形で湯を使っている証。温泉の使い方に期待がもてる。

奥の扉を開けると脱衣場で、その先が浴室。

煮川の湯 入口
↑ 写真: 煮川の湯 入口

煮川の湯 脱衣場から浴室
↑ 写真: 煮川の湯 脱衣場から浴室

浴室はシンプルで浴槽が1つと、湯口の木樋だけある。湯は壁から突き出たパイプから流出し、木樋を流れて浴槽に注がれる。朝から盛況で、2〜3人が常に入れ替わりで入浴している状態だったので、浴槽の写真は無い。

浴槽は草津町内の共同浴場で典型的なもので、浴槽内は白いコンクリート製、縁は木枠。浴槽は3〜4人サイズの長方形。少し青みがかった透明な湯が流れている。湯口からジャバジャバと注がれた湯は、反対側の浴槽切れ目から同量が棄てられている。

浴槽の温度は 44℃ くらい。3月のやや冷えた手足では始め熱いが、十分にかけ湯を行ってウォーミングアップした後ならば普通に入浴できる。一度浸かってしまえばいけるタイプの湯だ。

湯の色は青緑がかった透明で、浴槽の底ははっきりと見える。飲んでみると、レモネード的な味がした。雑味は無く、シンプルな酸性泉の味わい。匂いはあまり無いが、浴室全体的にほのかな卵臭が漂っている。

肌触りは意外とさっぱりしている。ただ日焼けや傷があるとビリビリ痛む。この数日の温泉巡りで日焼けした顔や、(タオルの絞り過ぎで?) 荒れた手が痛かった。

煮川源泉

共同浴場の建物の隣には源泉らしき設備があった。下側は温泉の槽があり、上半分の突き出した部分は煙突のようだ。

煮川の湯 源泉
↑ 写真: 煮川源泉 設備

窓のようになっている穴から中を覗くと、湯が激しく流れている様子が確認できた。

煮川の湯 源泉槽内部
↑ 写真: 煮川源泉 窓を覗く

温泉の成分

煮川の湯 温泉分析書
↑ 写真: 煮川の湯 温泉分析書

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: 草津温泉 (源泉名: 煮川源泉)
湧出地: 群馬県吾妻郡草津町大字草津字滝下343
分析年月日: 平成25年5月15日

湧出量 測定せず (自然湧出)
pH 2.1
泉温: 45 ℃ (調査時における気温 8℃)
泉質 酸性・含硫黄-酸性・アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉 (硫化水素型) (低張性・酸性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1434.37 mg/kg
成分総計 1554.37 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
水素イオン (H+)7.957.8937.11
ナトリウムイオン (Na+)47.702.079.74
カリウムイオン (K+)22.900.592.78
マグネシウムイオン (Mg2+)30.502.5111.81
カルシウムイオン (Ca2+)62.803.1314.72
アルミニウムイオン (Al3+)38.904.3320.37
マンガンイオン (Mn2+)1.590.060.28
鉄 (II) イオン (Fe2+)18.400.663.10
陽イオン計23221.3100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)8.500.452.10
塩素イオン (Cl-)263.007.4234.56
臭素イオン (Br-)1.600.020.09
硫化水素イオン (HS-)------
硫酸水素イオン (HSO4-)154.001.597.41
硫酸イオン (SO42-)576.0011.9955.85
炭酸水素イオン (HCO3-)------
陰イオン計100321.5100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)190.002.43
メタホウ酸 (HBO2)6.400.15
非解離成分計199.502.61
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)110.002.50
遊離硫化水素 (H2S)10.000.29
溶存ガス成分計120.002.79
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.120.00
総水銀 (Hg)検出せず。(0.0005 mg/kg未満)--
銅イオン (Cu)0.05未満--
鉛イオン (Pb)0.010.00

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煮川乃湯 - 湯花草子

万代鉱と比べると、鉄 (II) イオン以外のイオン含有量が減少し、マイルドな成分。酸性泉で多くなる水素イオンの比率が大きく下がったため、相対的に他の陽イオン成分比が大きくなり、アルミニウム、カルシウム、マグネシウムの成分比が大きくなった。溶存ガス量は万代鉱よりもかなり多くなり、匂いなどが楽しみやすい泉質になっている。

長栄の湯

曇り 日帰り 1回目

煮川乃湯に続き、長栄の湯に向かった。「長栄の湯」は湯畑を中心とした草津温泉街から離れた住宅地の中にある共同浴場。以前は「町営の湯」と呼ばれていたらしい。草津町営住宅の中島団地に囲まれているが、各戸に風呂が設けられていないため、住民は大抵この共同浴場を使っているのだろう。ガチな生活の場である。毎日浸かっていたら、身体の髄まで硫黄の香に染まってしまいそうだ。羨ましい…!!でも真夏は普通の冷たい水へ憧れたりもするのだろうか。

施設

煮川乃湯の裏手から坂をグイグイ登っていくと、温泉街の向こうに標高 2,171m の本白根山が見えた。「長栄の湯」と、少し町寄りの「長寿の湯」は少しだけ高いところにあるのだ (高低差 20m くらい)。

草津温泉街
↑ 写真: 道中から本白根山

坂を登り切ると先ほどまでの温泉街とは一転し、草津にもこういうところあるんだ、と言いたくなるような、ごく普通の住宅地。その中を歩いていくと、スキー場のロッジのような三角屋根の建物が見えた。他の共同浴場と異なり、コンクリート製のガッチリした造り。公営感が見た目でわかりやすいので、むしろ入りやすく感じた。

長栄の湯 外観
↑ 写真: 長栄の湯 外観

長栄の湯 正面
↑ 写真: 長栄の湯 正面

正面から見ると、左右がそれぞれ男女の浴場かのように推測されるが、実は男女共に浴場は左手側である。建物の下に入り左側に、男女別の浴場入口ドアがある。

長栄の湯 入口
↑ 写真: 長栄の湯 入口

脱衣場もいい感じのローカル感。観光地らしい華やかな気配は無く、静かで落ち着いた雰囲気で、私はすごく気に入った。草津の湯にまったり浸かれる素晴しい施設である。もっとも早朝に訪れたおかげで貸切になった効果、ということもあるとは思う。先述の通りここはガチ生活の場なので、夕方の時間帯はかなり混みそうだ。

長栄の湯 脱衣場
↑ 写真: 長栄の湯 脱衣場

さっきの写真から振り返ると浴室ドア。

長栄の湯 浴室入口
↑ 写真: 長栄の湯 浴室ドア

その先が浴室。浴室は白いコンクリートが剥き出しの無骨な空間。温泉の酸と湯の花で作られた染みがよい味を出している。

長栄の湯 浴室
↑ 写真: 長栄の湯 浴室

左手は洗い場。シャワー等は無く、小さい湯槽から温泉を汲んで被る方式のようだ。

長栄の湯 洗い場
↑ 写真: 長栄の湯 洗い場

右手には浴槽。

温泉の利用方法と浴感

浴槽は長方形で5人程が一度に入浴できる大きさ。

湯口は、壁についた蛇口から無色透明の湯がジョロジョロと注がれている。ごくシンプルで飾り気の無いものだが、逆に味わいがある。使われているのは万代鉱源泉である。草津温泉町内の源泉では最も成分が濃く、酸性も強い。

隣に水の蛇口もあるが、特に触れなかった。

長栄の湯 湯口
↑ 写真: 長栄の湯 湯口

浴槽の湯は少し離れてみると青白い透明に見えるが、真上から覗くと緑色も交えたように見える。写真左下の黒い四角形は排水口に乗せられたゴム製の蓋。

長栄の湯 湯
↑ 写真: 長栄の湯 湯

浴槽内の温度は43℃くらい。やや熱めだが普通に入浴できる温度。草津温泉の湯は、その強力な泉質から受ける印象とは裏腹に、いったん浸かってしまえば身体に馴染むような気がするので、じっくりと入浴することができる。

飲んでみるとやはり酸味なのだが、煮川源泉より複雑な味で、胃液のような酸味の中に鉱物的な苦味などがあり口に残る。たくさん飲むのは難しいだろう。

匂いはあまりしない。嗅ぎすぎてよくわからなくなっているのもあるとは思うので、平常時なら卵臭がするはず。

肌触りは身体がヒリヒリする。煮川の湯でも痛かった手がさらに痛いので、手は湯にあまり浸けず、上げて入浴した。後から入ってきた地元のおっちゃんの話によると、彼は肌が弱かったらしく、今でこそなんともないが、移り住んだ当時は身体に発疹が出来て大変だったらしい。それだけ強力な湯だと言うことか。

入浴後はかなり温まるばかりか、圧倒的な満足感と疲労感があり「今日の湯めぐりはもういいか」といった気分になった。地元の人は入浴後すぐに寝られて羨しい。

長栄の湯 浴槽
↑ 写真: 長栄の湯 浴槽

温泉の成分

長栄の湯 温泉分析書
↑ 温泉分析書

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: 草津温泉 (源泉名: 万代鉱)
湧出地: 群馬県吾妻郡草津町大字草津字白根国有林63ハ林小班
分析年月日: 平成25年5月15日

湧出量 測定せず (掘削自噴)
pH 1.6
泉温: 96.5 ℃ (調査時における気温6℃)
泉質 酸性-塩化物・硫酸塩温泉 (低張性・酸性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 3309.5 mg/kg
成分総計 3324.2 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
水素イオン (H+)26.0025.8054.86
ナトリウムイオン (Na+)101.004.399.33
カリウムイオン (K+)57.901.483.15
マグネシウムイオン (Mg2+)57.004.699.97
カルシウムイオン (Ca2+)102.005.0910.82
アルミニウムイオン (Al3+)47.105.2411.14
マンガンイオン (Mn2+)2.890.110.23
鉄 (II) イオン (Fe2+)6.310.230.49
陽イオン計40047.0100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)23.201.222.59
塩素イオン (Cl-)742.0020.9344.40
臭素イオン (Br-)2.900.040.08
硫酸水素イオン (HSO4-)732.007.5415.99
硫酸イオン (SO42-)836.0017.4136.93
陰イオン計233647.1100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)501.006.41
メタホウ酸 (HBO2)18.700.43
硫酸 (H2SO4)48.10.49
非解離成分計567.807.33
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)14.700.33
遊離硫化水素 (H2S)0.000.00
溶存ガス成分計14.700.33
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)5.230.07
総水銀 (Hg)検出せず。(0.0005 mg/kg未満)--
鉛イオン (Pb)0.170.00
微量成分計5.400.07

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長栄の湯 - 湯花草子

おまけ

町内へ戻る時も当然坂だが、大小の建物が立体的にひしめく温泉街の景色は良いものだ。

草津温泉 町内
↑ 写真: 長栄の湯 下りの細道