日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中75湯目

ふるさと納税の返礼で貰った鹿児島の宿泊券を使うため、鹿児島にやって来た。初日は自由時間が得られたので空港周辺の温泉をいくつか入浴する。はじめに訪れたのは霧島市の塩浸温泉。空港から15分も車を走らせれば着いてしまう。

200年前、天降川 (あもり) に自噴する温泉を江戸時代の後期に発見され、その後戊辰戦争の頃に坂本龍馬が滞在したこともある。塩浸の由来は、白い析出物が源泉の周辺に付着していたことから。当時は温泉旅館も建っていたが、現在は市営の塩浸温泉龍馬公園の一部として日帰り入浴だけを受け付けている。

温泉は火山から少し離れて湧くタイプの重曹泉と思われ、もともと火山ガスに含まれていた炭酸ガスが地下水と混合して温泉になった。黄土色、薄黄緑色に濁りがある温泉で、飲むと塩味、炭酸味があって温泉らしさがはっきりと感じられる。微かながらタマゴ味もあって、鹿児島旅行の気持ちを高めるには素晴らしい温泉だった。

施設・温泉概要

所在地: 鹿児島霧島市牧園町宿窪田3606番地
Web: 鹿児島県霧島市|塩浸温泉龍馬公園
日帰り入浴: 可 9:00-18:00
宿泊: 不可

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

塩浸1号

源泉名: 塩浸1号
湧出地: 鹿児県霧島市牧園町宿窪田字塩浸3578-2
湧出量: 記載無し
泉温: 44.2 ℃
pH: 6.6
溶存物質合計 (ガス性のものを除く): 1858.6 mg/kg
成分総計: 2297.3 mg/kg
泉質: ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉 (低張性・中性・高温泉)
旧泉質名: 重曹泉 / 含土類重曹泉

塩浸9号

源泉名: 塩浸9号
湧出地: 鹿児県霧島市牧園町宿窪田字塩浸3610
湧出量: 記載無し
泉温: 51.3 ℃
pH: 6.6
溶存物質合計 (ガス性のものを除く): 2068.9 mg/kg
成分総計: 2394.5 mg/kg
泉質: ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉 (低張性・中性・高温泉)
旧泉質名: 重曹泉 / 含土類重曹泉

200 年前に発見された自噴泉

塩浸温泉の歴史をたどる
⬑ 塩浸温泉の歴史をたどる

まず歴史から。上の写真の特集ページによると次のようになっている。

  • 1806年 (文化3年) に発見。鶴の湯と呼ばれていた。
  • 1867年 (慶応3年)、福山郷に住む岡本助八が浴場を設け戊辰戦争の折に有名になった。
  • 周囲に塩牡蠣 (白色の固形物) が付いていたことから塩浸温泉と呼ばれ、薩摩藩により整備された。
  • 1969年 (昭和44年)、牧園町営塩浸温泉センターが開業。
  • 1990年 (平成2年) 塩浸温泉 福祉の里 が開館。
  • 2009年 (平成21年) 建物の老朽化により一旦閉鎖。
  • 2010年 (平成22年) 塩浸温泉龍馬公園として再開。

坂本龍馬が訪れたのは1866年 (慶応2年) とのこと。

鹿児島県温泉誌にも塩浸温泉の記述があり、微妙に違う内容が書かれていた [1]

  • 発見当時、断崖絶壁を辿り山奥の奥地にあり、谷ノ湯と呼ばれた。
  • 戊辰戦争の時に有名になり藩主島津家の使者、横目付永田輿左エ門により湯壺と民屋が整備された。

むかしの塩浸温泉
⬑ かつての旅館は温泉プールもある大きな施設だった

素朴な公営浴場

対岸から浴場
⬑ 現在はコンクリートの素朴な建物が建っている

龍馬風呂
⬑ 龍馬風呂はお湯が張られていなかった

入浴施設
⬑ 今は龍馬とお龍の湯という浴場がある

正面
⬑ 良いローカル感 料金は公園の施設で支払う。

浴室入口
⬑ 普通の脱衣場

浴場水水質検査結果報告書
⬑ 龍馬の湯、鶴の湯とかけゆ

塩浸の湯
⬑ ここにも塩浸温泉の歴史が書かれていた

浴室
⬑ 浴場は終始貸切だった。右手前はかけゆ

浴室 反対側から
⬑ 浴槽奥から見る

シャワー・蛇口は飲用可
⬑ シャワー・蛇口は飲用できる水道水らしい

炭酸味、硫黄味ある黄土色濁りの湯

浴槽は2つで、浴室奥側に8人が入浴できる大きさの浴槽。浴室も含め全体が褐色に染まって味わい深い。

大浴槽

浴室手前側にはもう1つの浴槽があって、鶴の湯源泉が使われれているはずだったが……

鶴の湯は空
⬑ お湯が張られていなかった。残念だ。

実は脱衣場に貼り紙が出ており、

鶴の湯が利用できません
⬑ 大雨の影響で鶴の湯は利用できない

とのこと。引湯の設備か何かが破損してしまったのだろうか?
鶴の湯源泉を期待して来たので悔しかった。

大浴槽の湯口
⬑ 大浴槽は湯が注がれる

大浴槽に戻って、三角形の湯口が奥の角にあった。2つの注ぎ口を開けているが、片側のみから透明な温泉を放出。もう一方は休みで渇いていた。析出物も片側にだけ出来ているので、始めから片側だけの運用なのだろう。湯口の上には塩ビパイプが飛び出していて、温泉が通ってきているようだ。

湯口拡大
⬑ 白と茶の薄い析出物が薄く張り付いていた。炭酸カルシウム?

龍馬の心ことば
⬑ 湯口の斜め上には龍馬の心ことばも掛けてあった

昔心配していたことは__
今ふり返れば大した__
ことはないなら__
今心配していることも__
大したことじゃないんぜよ

さすが龍馬さんは良いことを言うぜよ。

湯は掛け流しで、湯口から注がれた湯は、その反対側、鶴の湯浴槽側の縁からオーバーフローする。循環の設備は無い。非加熱、非加水、非循環、消毒多分無しでの利用。

溢れた湯の流れる音が響いて浴室内を満たし心地良い。

浴槽の湯は白みがかった黄土色、薄黄緑の濁り。半透明で浴槽の底は薄らと見える。湯口から出る湯は無色透明で、周囲に析出物有り。水面には黄色がかった白い粒々の浮遊物有り。石灰だと思う。

大浴槽の湯
⬑ 浴槽の湯を真上から撮影した

飲んでみると、土気のある弱い塩味、炭酸味。何度も飲んでいると舌が痺れてピリピリとしてきた。また苦味も感じられる。コップに汲んで一度にたくさん飲むと、鼻からタマゴ臭が抜けた。

匂いは弱い炭酸臭と微かな硫黄臭。湯口近くで水面に鼻を近づけると感じられた。

肌触りには特徴が無いが、温まりはよく、半身浴でも汗が良い感じに流れる。

浴槽縁が温められていたので寝そべってトドをしてみたが、これは少し厳しく腹が冷えそうだったのでやめた。

入浴中目線
⬑ 入浴中目線で湯口を眺める

こぼれ源泉
⬑ 外では設備から源泉がこぼれていて、心行くまで飲める

温泉の成分

温泉分析書は脱衣場に掲示されていた。2枚あって、多分、塩浸9号が大浴槽の湯で、塩浸1号が今回入浴できなかった、歴史ある鶴の湯だと思う。

塩浸9号 温泉の成分
⬑ 平成24年9月 塩浸9号

塩浸1号 温泉の成分
⬑ 平成24年9月 塩浸1号

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

塩浸1号

源泉名: 塩浸1号
湧出地: 霧島市牧園町宿窪田字塩浸3578-2
分析年月日: 平成24年9月27日

pH 6.6
泉温: 44.2 ℃ (気温27℃)
泉質 ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉 (低張性・中性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1858.6 mg/kg
成分総計 2297.3 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
リチウムイオン (Li+)0.700.100.45
ナトリウムイオン (Na+)188.008.1837.18
カリウムイオン (K+)36.300.934.23
アンモニウムイオン (NH4+)1.700.090.41
マグネシウムイオン (Mg2+)82.506.7930.86
カルシウムイオン (Ca2+)116.005.7926.32
ストロンチウムイオン (Sr2+)0.500.010.05
アルミニウムイオン (Al3+)------
マンガンイオン (Mn2+)0.200.010.05
鉄 (II) イオン (Fe2+)2.800.100.45
陽イオン計42922.0100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)0.500.030.14
塩素イオン (Cl-)147.004.1519.38
臭素イオン (Br-)0.400.010.05
硫化水素イオン (HS-)------
硫酸イオン (SO42-)83.001.738.08
炭酸水素イオン (HCO3-)944.6015.4872.30
炭酸イオン (CO32-)0.300.010.05
陰イオン計117621.4100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタ亜砒酸 (HAsO2)0.500.00
メタケイ酸 (H2SiO3)221.102.83
メタホウ酸 (HBO2)32.500.74
非解離成分計254.103.57
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)438.709.97
遊離硫化水素 (H2S)----
溶存ガス成分計438.709.97
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総水銀 (Hg)0.5 μg/kg 未満--
銅イオン (Cu)0.01 mg/kg 未満--
鉛イオン (Pb)0.01 mg/kg 未満--
カドミウムイオン (Cd)0.005 mg/kg 未満--
微量成分計0.000.00

塩浸9号

源泉名: 塩浸9号
湧出地: 霧島市牧園町宿窪田字塩浸3610
分析年月日: 平成24年9月27日

pH 6.6
泉温: 51.3 ℃ (気温27℃)
泉質 ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉 (低張性・中性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 2068.9 mg/kg
成分総計 2394.5 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
リチウムイオン (Li+)0.700.100.41
ナトリウムイオン (Na+)206.008.9636.44
カリウムイオン (K+)43.801.124.55
アンモニウムイオン (NH4+)1.700.090.37
マグネシウムイオン (Mg2+)92.007.5730.78
カルシウムイオン (Ca2+)133.406.6627.08
ストロンチウムイオン (Sr2+)0.600.010.04
マンガンイオン (Mn2+)0.100.000.00
鉄 (II) イオン (Fe2+)2.300.080.33
陽イオン計48124.6100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)0.300.020.08
塩素イオン (Cl-)167.004.7119.86
臭素イオン (Br-)0.400.010.04
硫化水素イオン (HS-)------
硫酸イオン (SO42-)81.801.707.17
炭酸水素イオン (HCO3-)1054.017.2772.81
炭酸イオン (CO32-)0.300.010.04
陰イオン計130423.7100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタ亜砒酸 (HAsO2)0.400.00
メタケイ酸 (H2SiO3)247.203.17
メタホウ酸 (HBO2)36.900.84
非解離成分計284.504.01
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)325.607.40
遊離硫化水素 (H2S)----
溶存ガス成分計325.607.40
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総水銀 (Hg)0.005 μg/kg 未満--
銅イオン (Cu)0.01 mg/kg 未満--
鉛イオン (Pb)0.01 mg/kg 未満--
カドミウムイオン (Cd)0.005 mg/kg 未満--
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。

1号と9号を比べてみると、9号の方が泉温が 7℃ 高く、pH は同じ 6.6、成分総計も9号が 100 mg/kg 高い。成分はそれほど変わらないが、9号は1号よりもナトリウムイオン比が少なく、カルシウムイオン比が高くなっている。遊離二酸化炭素量は1号の方が多い点は気になる。泉温のせいだろうか。

個別の成分について、陽イオンではナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが約 20〜30 mval% ずつで分け合う組成。陰イオンは炭酸水素イオンが 70 mval% 強、塩化物イオンが 20 mval%、硫酸イオンが 10 mval% 弱。他にメタけい酸 200 mg/kg超、遊離二酸化炭素 300 mg/kg (1号は 440 mg/kg) 超でかなり多い。

泉質は炭酸水素塩温泉。火山系の温泉では、火山から離れたところで炭酸泉や炭酸水素塩泉が湧出することがある。ここ塩浸温泉は北西の霧島山の火山群から 30 km ほど離れている。

炭酸泉や炭酸水素塩泉は火山ガスに含まれる炭酸ガスが地下水と反応することで作られる。火山ガスの初期には塩酸ガスや硫酸ガスも含まれているが、これらは火山ガスが熱水や水蒸気となったあと、先に地下水と混合して地上に湧出してしまう。炭酸ガスは水に溶けにくいため最後まで残り、火山から離れたところまで来てから炭酸泉や炭酸水素泉となって地上に出現する。


  1. 鹿児島県温泉誌 - 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎