晴れ 日帰り 1回目
尻焼温泉を訪れたあと、小腹が空いたので食料を求めて六合地域を少し下ってきた。この付近はふらっと寄って朝食が食べられる雰囲気が無い。とりあえず尻焼温泉のある群馬県道55号を戻り、R405に出てゆるやかな山道を5km程南下してみると、道の駅六合の郷 (くにのさと) に蕎麦屋があるのが見えた。まだ営業開始していないようだったが、同じ敷地に応徳 (おうとく) 温泉の旅館「お宿 花まめ」 [1] と日帰り入浴施設「くつろぎの湯」 [2] が併設されてあるので、「くつろぎの湯」に入浴して待つことにした。1時間ほども浸かっていれば蕎麦屋の開店時間になりそうだ。
周辺の地理と歴史
R405は中之条町から新潟県上越市を結ぶ国道であるが、群馬県側の野反湖 (のぞりこ) から長野県側の切明 (きりあけ) 温泉の間、約10kmが未開通になっている。林道も無いので車では通り抜けることができない。徒歩ならば、魚野川水平歩道という登山道があるので、これを歩けば今でも通り抜けることができそうだ。
R405号の群馬県側は白砂川に沿って延びていて、付近には温泉地が6つも並んでいる。麓側から六合赤岩 (くにあかいわ) 温泉、応徳温泉、湯ノ平 (ゆのたいら) 温泉、京塚温泉、花敷温泉、尻焼温泉である。うち湯ノ平温泉は2012年に廃業してしまったとのこと。
ちなみに先述の通り、国道が未開通のため移動距離としては小さくないのだが、R405の長野県側も中津川沿いに、切明温泉、屋敷温泉、和山温泉、屋敷温泉、小赤沢温泉、結東温泉 (けっとうおんせん)、逆巻温泉 (さかさおんせん) 等が湧いている。なんて楽しい地域なんだろう。
↑ 写真: 中之条コースマップ
地質的には、資料が見つからなかったので素人の勘だが、尻焼温泉の記事で書いたのと同じようなものだと勝手に思う。つまり、草津白根山のマグマにより地下の温度が高い地域で、川の流れで浸食された谷の底から温泉が湧き出したのだと思う。泉質は含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉で、やはり尻焼温泉に近いものだ。
応徳温泉の歴史は「応徳年間 (1084〜1086) に沢渡温泉から草津温泉へ向う旅人により発見された」と多く紹介されているが、ソースはよくわからなかった。「応徳」という地名からの逆推なのかもしれない。
過去のパンフレットには以下のように旧六合村村長の解説が載せられていたらしい。[3]
六合村和光原地区の山田茂太郎さんが温泉旅館を始め、草津温泉の上がり湯として多くの湯治客に親しまれてきました。昭和になり4代目山田覚治さんが新しく源泉を見つけ応徳の湯・昭和の湯と合わせて今の応徳温泉くつろぎの湯となりました。
現在の旅館「花まめ」になる温泉旅館は、江戸末期に創業し、明治中期に廃絶 [4]。昭和54年に国鉄山の家「六合山荘」として再興し、その後、六合村に引き継がれて村営となって、さらに平成17年に「花まめ」としてリニューアルオープンされた。
4代目が見つけたという「応徳の湯」「昭和の湯」の2本が、現在のくつろぎの湯で利用している源泉。以前は六合村高齢者センター内の温泉だったが、現在は建物をそのままに日帰り入浴施設になっている。
施設
現在、旅館「花まめ」と「くつろぎの湯」は入口が共通になっているので、古民家風の建物の「花まめ」という看板の掲げられた玄関から入ることになる。合っているのか少し不安に思ったが、扉の前に「くつろぎの湯」のボードが立てられていたのでわかった。
↑ 写真: 応徳温泉 くつろぎの湯 入口
中に入るとすぐに受付。内観は綺麗な感じで、古民家をリニューアルしたものらしい。
ここで料金を払い、日帰り入浴の人は施設を通り抜け奥の扉からいったん外に出る。
↑ 写真: 応徳温泉 くつろぎの湯 受付
受付カウンター下の掲示には営業情報が記載されている。
入浴料は大人400円、営業時間は10:00〜20:00 (最終受付19:30)。
↑ 写真: ようこそ!! 応徳温泉へ
建物を出ると屋根のある半屋外で、下に続く階段がある。それを下ると旧高齢者センターの玄関に繋がる。
玄関の外には案内板が掲示されており、なぜか「高齢者」部分だけが割と雑に隠されて「センター案内板」になっていた。
↑ 写真: 六合村高齢者センター案内板
中に入ると、さっきまでの小綺麗な建物からはうって変わり、まさに公共施設といった趣で「センター」という単語がしっくりくる。もちろん、このローカル感も落ち着きがあったアリ。
↑ 写真: 応徳温泉 館内
温泉の紹介も掲示されていたので、書き起してみた。
この応徳の湯は、応徳年間に発見された歴史ある温泉です。「草津の上がり湯」として、この地域で昔から愛されています。お湯は白濁で黒い湯花を持ち低温でアルカリ、身体の芯まで温まり肌に優しく女性に人気があります。
風呂は、源泉かけ流しの天然温泉で、平成四年八月に皇太子殿下が、白砂山登山の後、ご入浴と休憩されたことは有名です。
皇太子殿下が入浴したのは、たぶん「六合山荘」の方だろう。
↑ 写真: 黒い湯の花の効能
建物の中を進んでいくと、廊下の一番先に男女別の浴室の入口がある。
↑ 写真: 応徳温泉 館内奥
↑ 写真: 応徳温泉 脱衣場入口
↑ 写真: 応徳温泉 脱衣場
左手の戸を開けると浴室。浴室は壁一面が窓で、壁は木板張り。白緑色の湯との相性が良い。施設内のここまではいかにも福祉施設的な感じだったが、浴室は秘湯っぽさもあって気分が盛り上がる。
↑ 写真: 応徳温泉 入浴中目線
温泉の利用方法と浴感
内湯が1つだけで、露天風呂は無い。
浴槽は、長方形の一辺が斜めになった台形で、4人か5人が入浴できる大きさ。
↑ 写真: 応徳温泉 内湯浴槽
窓側の浴槽縁の真ん中に木製の湯口がある。湯口からはそこそこの量の温泉が静かに注がれている。
誰も入浴していない時は、湯口を中心とした同心円状に波が広がって美しい。個人的には、湯は静かに注ぐのが好みだ。
↑ 写真: 応徳温泉 湯口の波
↑ 写真: 応徳温泉 湯口目線
湯口の上に木札が立てられており、手書きで「浴槽内の黒い浮遊物は応徳温泉の湯花です」と書いてある。こんな感じで浴室では木が活用されているため、いい雰囲気が出ているのだと思う。
↑ 写真: 応徳温泉 内湯浴槽
温泉の利用は源泉掛け流しで、加温無し、加水無し、循環・濾過無し、消毒無し、と完璧。湯口から注がれた湯は、そのまま浴槽の反対側からオーバーフローしていた。
温泉の温度は少しぬるめで41℃くらい。肌触りも優しめで、長く入っていても疲れにくい、落ち着く湯である。「草津の上り湯」として親しまれてきたとのことだが、納得の穏やかさだ。時間があればいつまでも入っていたくなる。
湯の見た目は緑がかった白色で、少し濁りがあるが透明で、浴槽の底はよく見える。温泉を真上から見たのが下の写真。
↑ 写真: 応徳温泉 内湯浴槽
写真ではよくわからないが、小さな黒い湯の花がパラパラと湯の中を舞っていた。硫黄泉の湯の花といえば普通、白か黄が多いので、黒い湯の花はかなり珍しい。どうして黒くなるんだろうか?
湯口から汲んで飲んでみると、味はあまりはっきりとしていなかったが、僅かに卵臭があり、鼻から硫化水素の刺激臭が抜けた。しばらく浸かっていたところ、一度だけ明確な硫化水素臭が感じられた。
↑ 写真: 応徳温泉 浴槽
単に穏やかなだけでなく、硫黄泉としての特徴もはっきりと感じられる。
草津のような温泉パラダイスと、日常の間を埋めつつ、身も心もほっとさせてくれる素晴らしい温泉だった。
温泉の成分
温泉分析書が脱衣場の出口に掲示されていた。
↑ 写真: 応徳温泉 温泉分析書
以下では掲示された情報に加え、自前のソフトでミリバルの値などを計算した。
源泉名: 応徳温泉 応徳の湯、昭和の湯
分析年月日: 2013/7/4
湧出量 記載無し
pH 7.7
泉温: 51.8 ℃
泉質 含硫黄-ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1025.66 mg/kg
成分総計 1041.96 mg/kg
温泉の成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
水素イオン (H+) | -- | -- | -- |
リチウムイオン (Li+) | -- | -- | -- |
ナトリウムイオン (Na+) | 164.00 | 7.13 | 51.18 |
カリウムイオン (K+) | 3.39 | 0.09 | 0.65 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 1.34 | 0.11 | 0.79 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 132.00 | 6.59 | 47.31 |
ストロンチウムイオン (Sr+2) | -- | -- | -- |
アルミニウムイオン (Al3+) | <0.05< td> | -- | -- | 0.05<>
マンガンイオン (Mn2+) | 0.09 | 0.01 | 0.07 |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 0.04 | 0.00 | 0.00 |
陽イオン計 | 301 | 13.9 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 0.70 | 0.04 | 0.28 |
塩素イオン (Cl-) | 165.00 | 4.65 | 32.89 |
硫化水素イオン (HS-) | 3.60 | 0.11 | 0.78 |
硫酸イオン (SO42-) | 410.00 | 8.54 | 60.40 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 48.90 | 0.80 | 5.66 |
炭酸イオン (CO32-) | <0.1< td> | -- | -- | 0.1<>
陰イオン計 | 628 | 14.1 | 100.00 |
(3) 遊離成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタケイ酸 (H2SiO3) | 68.30 | 0.87 |
メタホウ酸 (HBO2) | 12.00 | 0.27 |
非解離成分計 | 80.30 | 1.14 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 15.40 | 0.35 |
遊離硫化水素 (H2S) | 0.90 | 0.03 |
溶存ガス成分計 | 16.30 | 0.38 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
総砒素 (As) | 検出せず | -- |
総水銀 (Hg) | 検出せず | -- |
銅イオン (Cu) | 検出せず | -- |
鉛イオン (Pb) | 検出せず | -- |
カドミウムイオン (Cd) | -- | -- |
亜鉛イオン (Zn) | -- | -- |
微量成分計 | 0.00 | 0.00 |
下記ページにも載せた。