宿泊, 1回目, 晴れ, 2020年度中7湯目
椿温泉の旅館しらさぎへ宿泊した。椿温泉は白浜温泉の約10km南方、海岸の上にある小さな温泉地である。
施設・温泉概要
住所: 和歌山県西牟婁郡白浜町椿1056-22
公式サイト: 椿温泉 | 旅館しらさぎ
日帰り入浴可: 営業時間: 11:00〜20:00
宿泊可: 入浴 6:30〜9:30, 11:00〜22:30
源泉名: 蓬莱湯
湧出地: 和歌山県西牟婁郡白浜町椿1062-1
湧出量: 146 L/分 (掘削・自噴)
泉温: 31.8 ℃
pH: 10.1
成分総計: 0.284 g/kg
泉質: 単純硫黄泉
椿温泉の成り立ち
椿温泉の歴史については、しらさぎから歩いて行ける距離にある道の駅「椿はなの湯」前の看板で詳しく紹介されている。
↑ 写真: 椿温泉の由来
とりあえず全文デジタル化しておく。
その昔、足を痛めた白鷺が、椿谷に自然に湧き出ていた温泉に度々飛来し、足の傷を直したという伝説があります。
この白鷺の噂が当時の普門寺住職 (湛海) の耳に入り、同住職が湯の湧き出る所に湯船をつくり、「鷺の湯」と名付けたことが、椿温泉の始まりと伝えられています。
江戸時代中期に、すでに「椿湯」と呼ばれまた、同時代後期に編纂された「紀伊続風土記」には、温めであるが泉質は透明で体に柔らかく、しかもつるつるしてとても心地よいと椿湯のよさを褒めたたえていま。
特に、嘉永4年 (1851) の温泉番付である「諸国温泉効能鑑」には、「紀州大ぜち (大辺路) の地」として西方前頭16枚目に格付けされているのが注目されます。当時は「陸の孤島」ともいわれていた位置にあったという不利な条件にもかかわらず、椿湯の名声が相対的に高かったことがうかがえます。
当温泉には、田辺在住の紀州藩士や田辺領の役人達などもしばしば入湯に訪れています。また、近郷の住民の湯治場としても長年親しまれてきました。
大正以降、交通の利便生が向上するにつれ、その良質な温泉を求めて全国各地から多くの湯治客が訪れるようになりました。
今では、白浜温泉とともに「椿温泉」の名も広く全国的に知られるようになり、今日の発展に至っています。
また旅館内の浴室にも歴史が掲示されている。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 椿温泉の歴史
これも全文引用する。
椿温泉の歴史
江戸時代の書物「紀伊続風土記」より
「椿谷にあり、湯小温にして水清く、性柔なり。浴するときは、あたかも身体にあぶらをそそぐごとく、つるつるして頬る心地が良い。
江戸時代は紀州藩の武士や近郷の農家の湯治場でした。
椿温泉に伝わる郷土史には
「日本最古の白浜温泉がありながら、何を好んでわざわざその前を通り過ごし、このさびしく狭くるしい椿湯に入浴にやってくる必要があろうか。言わずと知れた椿湯の効験の著しいのを伝え聞き湯治のために訪れたに違いないのである」
と記されています。
椿温泉は古代より泉質の良さを誇る湯治の温泉です。
そしてPH9.9以上の究極の美肌温泉でもあります。
書き起してから気付いたが、しらさぎのWebページにもだいたい同じ文章が掲載されていて、より詳しい [1]。
明治時代に入って少しずつ湯治客が増え、明治35年には宿屋ができ、湯治温泉地としての椿温泉が始まりました。
とあり、明治35年 (1902年) にできた宿屋がしらさぎ向かいの元湯椿楼に繋がる。
元湯椿楼は 2008/11/4 に閉館した [2]。自家源泉を使用し、敷地内庭で湧いていたらしい。
↑ 写真: 元湯椿楼
ちなみに紀伊続風土記は国会図書館でデジタル化されていて、机から一歩も動かずして読める。便利だなあ。椿温泉に関する記述は「紀伊続風土記 巻之七十三 牟婁郡 富田莊 朝來歸村」の項 (原書687ページ、デジタル版では448ページ) にあり、原文は以下 [3]。
○温泉
村の南八町椿谷にあり湯小温にして水清く性柔なり浴する時は支體膏油を灌くかことし
現在の椿温泉には、しらさぎ、海椿葉山、ひらみ、若竹、つばき荘の5軒の宿がある他 (まだあったらごめんなさい)、道の駅がある。全ての施設で同じ、社団法人共済組で管理する蓬莱湯源泉を使用している。
しらさぎは1954年に開始。
椿温泉の成り立ち
椿温泉の成り立ちは、白浜温泉や周参見温泉と同じと考えられている。フィリピン海プレートが陸地側のプレート下に沈み込むと、深さ50km以上では圧力によってプレートから水が絞り出されるようにして熱水が発生する。この熱水が地下の亀裂を通り地上付近まで上昇すると、これが熱源となって地下水を温めたり、地下水と混ざることで温泉になる。白浜温泉、椿温泉、周参見温泉は、紀伊半島西南部に沿って熊野地域の古い火成岩が貫入する枯木灘弧状岩脈上に湧出していて、この岩脈や亀裂を通って熱水が上昇していると考えられている [4]。
道の駅には椿温泉の成り立ちの図解もある。
↑ 写真: 椿谷に上がる湯けむり
施設について
旅館しらさぎは国道42号沿いにあり、北側から来ると椿地区の町内を過ぎて500m程のあたりにある。付近にはなぜか旅館よりも大きいマンションが数棟もあり、それらを通り過ぎたころに道路左手に現れる4階建ての施設が目的地である。
写真: 椿温泉 しらさぎ 外観
1階が受付で、2階、3階が客室、4階が浴場になっている。
客室や食事については、当温泉ブログのスタイルでは書きにくいので省略。部屋から見える南国の海は明るくて美しかった。
浴場は男女別の大浴場のみ。貸切風呂や家族風呂は無し。4階でそれぞれの脱衣場に分かれる。脱衣場は素朴なもの。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 脱衣場
脱衣場にはいくつかの掲示がある。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 浴室入口
1日2回も清掃しているとのこと。それは大変だろう。ありがたいことだ。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 美肌温泉
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ お湯について
スライド式の戸を開けると、浴室である。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 浴室入口
浴室の床や浴槽は石張りのもので、色使いにこだわりが見える。綻びも無く綺麗で清潔な感じがある。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 大浴場
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 3つの浴槽
浴室には3つの内湯。下の写真で手前の大浴槽があつい湯、奥の小さい浴槽2つが冷たい源泉薬草風呂である。
露天風呂は無いが、大きな窓があり、海と岬が見える。方角的にはもしかしたら室戸岬が見えるのかもしれない。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 大浴槽と窓の景色
そういえば、国土地理院地図を見るとあの岬に温泉マークが記されている。調べても情報は無く、未利用の源泉なのだろうか。ちなみにもう少し南の温泉マークはかつてあった旅館富貴の源泉。
温泉の利用方法と浴感
大浴槽
大浴槽は丸っこい扇形で、8人位が足を伸ばして入浴できそうな大きさ。浴槽縁側には段差が設けられており、どこも座ることができる。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 大浴槽
浴室の角に湯口があって、石を組んだ隙間から湯が静かにトロトロと注がれている。湯口の石は黒く色付いていた。溢れた湯は浴槽反対側の縁の切り欠け2箇所からオーバーフロー。浴槽内の吸入や注入は無く、湯口を中心とした美しい波紋を描いて流れている。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 大浴槽湯口
温泉の利用方法は源泉の加温掛け流しで、加温有り、加水無し、循環無し、消毒無し。
温度は41℃くらいで、それほど熱くはないのだが、浴室の熱気が若干籠っているためか、長時間は入浴しにくい。湯治向けにはもう少し温い方がいいと思った。
湯は全くの無色透明。斜めから見ても浴槽の底がはっきりと見えた。よく見ると小さな白い湯の華がわずかに浮遊している。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 大浴槽の湯
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 入浴中目線 脱衣場側
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 入浴中目線 源泉浴槽側
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 入浴中目線 湯口側
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 上手な温泉の入り方
薬草風呂
1人サイズの浴槽が2つあって、薬草が沈められた源泉風呂になっている。薬草は日替わりとのことで、夜はビワの葉と紀州みかん、朝はアロエの葉と柿の葉が沈められていた。
下の写真は朝一番の掃除後の写真なので湯が少量だけしか張られていないが、普段は溜め湯状態になっている。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 夜の薬草風呂
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 朝の薬草風呂
各浴槽には冷たい源泉の出る蛇口と、加温した湯の出る蛇口が設置されており、それぞれ自由に出したり止めたりできるようになっている。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 源泉湯口
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 薬草風呂について
薬草風呂 (源泉風呂です)
椿温泉の源泉は約32度の低温泉です。冷たい湯 (源泉) と加温湯を交互に入浴する事で温泉効果が高まります。
温度調整は自由にしていただけます。お好みの温度でご入浴下さい。
正直、溜められた状態での湯の鮮度はいまいちなのだが、入浴しながら新しい源泉をドバドバと投入していると、時間が経つほどに澄んで爽快な湯になっていく。長時間、一つの浴槽を占有できる状態での入浴が望ましい。他に人がいるとそういうわけにもいかないし、なぜか他の客は加温湯ばかり投入したがる。加温湯は大浴槽で入浴できるのだが、ここは絶対に源泉だけを入れるべき。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 源泉投入中
源泉を注いでいると、そこに蜜柑が寄ってきて、必ず上の写真のように源泉を蜜柑が受け止める形になった。
湯の色は薬草のせいか少し白い濁りがある。香りも、特に蜜柑風呂では蜜柑の匂いが強く感じられた。正直薬草無しで入浴したい気持ちもあった。
よく見ると、こちらの大浴槽と同じく小さい白い湯の華の浮遊があった。はじめ蜜柑の欠片かと思ったが、どうも硫黄の湯の華のようだ。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ ビワの葉のお風呂
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 紀州のみかん風呂
肌触りは、かなりツルツル、スベスベしていた。温度は常時源泉投入でも体感35℃位でぬるめ。しばらく浸かっていると少し肌寒くなってくるため、時々大浴槽にも入浴した。
源泉湯口から湯を汲んで飲んでみたが、無味、無臭。なめらかな水、という印象であった。
成分も薄めでさわやかな湯なので、源泉浴槽にゆったりと入ってリラックスするのが良いと思った。
温泉の成分
写真: 椿温泉 しらさぎ 温泉分析書
写真: 椿温泉 しらさぎ 温泉分析書別表
以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。
源泉名: 蓬莱湯
湧出地: 和歌山県西牟婁郡白浜町椿1062番地の1
分析年月日: 平成9年12月18日
湧出量 146 ℓ/分 (掘削自噴)
pH 10.1
泉温: 31.8 ℃ (調査時における気温19.8℃)
泉質 含硫黄-アルカリ性単純温泉 (低張性・アルカリ性・低温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 283.91 mg/kg
成分総計 283.91 mg/kg
温泉の成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
水素イオン (H+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
ナトリウムイオン (Na+) | 77.50 | 3.37 | 96.56 |
カリウムイオン (K+) | 1.40 | 0.04 | 1.15 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 0.10 | 0.01 | 0.29 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 1.50 | 0.07 | 2.01 |
マンガンイオン (Mn2+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
陽イオン計 | 80.5 | 3.49 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 7.00 | 0.37 | 7.44 |
塩素イオン (Cl-) | 69.00 | 1.95 | 39.24 |
水酸イオン (OH-) | 2.00 | 0.12 | 2.41 |
硫化水素イオン (HS-) | 1.90 | 0.06 | 1.21 |
チオ硫酸イオン (S2O32-) | 0.30 | 0.01 | 0.20 |
硫酸イオン (SO42-) | 1.40 | 0.03 | 0.60 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 33.60 | 0.55 | 11.07 |
炭酸イオン (CO32-) | 42.00 | 1.40 | 28.17 |
メタケイ酸イオン (HSiO3-) | 35.40 | 0.46 | 9.26 |
陰イオン計 | 193 | 4.97 | 100.00 |
(3) 遊離成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタケイ酸 (H2SiO3) | 10.10 | 0.13 |
非解離成分計 | 10.10 | 0.13 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 0.00 | 0.00 |
遊離硫化水素 (H2S) | 0.00 | 0.00 |
溶存ガス成分計 | 0.00 | 0.00 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
総砒素 (As) | 0.00 | 0.00 |
総水銀 (Hg) | 0.00 | 0.00 |
銅イオン (Cu) | 0.05未満 | -- |
鉛イオン (Pb) | 0.01 | 0.00 |
カドミウムイオン (Cd) | 0.00 | 0.00 |
微量成分計 | 0.01 | 0.00 |
下記にも掲載しました。
椿温泉 蓬莱湯 - 湯花草子
おまけ
部屋の案内。
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 館内のご案内
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 現代湯治の魅力
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 椿温泉の歴史
↑ 写真: NHK仙台 和歌山・椿温泉
↑ 写真: 椿温泉 しらさぎ 日帰り入浴限定イベント