太平館 (2020/12/5)

日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中74湯目

神奈川県横浜市大曽根の黒湯を使った温泉銭湯「太平館」で入浴した。綱島がかつて「東京の奥座敷」とも呼ばれ栄えた温泉の時代から残る歴史ある銭湯である。現在の建物は道路側が半分廃墟のようになった通路の先にあり、渋さとホラーさが同居する。浴室は味わいある伝統的な東京式銭湯の構造だ。

温泉は見通しが 5cm しかない濃い黒湯。味、匂い、感触は弱めだが、湯を熱めの 44℃ にし消毒無しで使用しており、涼しい季節はとても温まってシャキッとする。

施設・温泉概要

所在地: 神奈川県横浜市港北区大曽根1-25-2
Web: 太平館 | 神奈川の銭湯情報
日帰り入浴: 可 15:30-22:30
宿泊: 不可

源泉名: 横浜温泉
湧出地: 神奈川県横浜市港北区大曽根1-25-1
湧出量: 94 ℓ/分 (掘削 80 m・動力揚湯)
泉温: 17.4 ℃
pH: 7.8
溶存物質合計 (ガス性のものを除く): 1406.12 mg/kg
成分総計: 1431.82 mg/kg
泉質: ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉 (低張性・弱アルカリ性・冷鉱泉)
旧泉質名: 重曹泉 / 純重曹泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

70 年の歴史 綱島温泉全盛期の頃から残る

太平館は神奈川県横浜市、東急東横泉の綱島駅と大倉山のちょうど中間あたりにある温泉銭湯。昭和50年頃まで「東京の奥座敷」とも呼ばれ栄えた綱島温泉の流れを残す歴史ある温泉銭湯である。

綱島温泉は昔から色の付いた水が湧出していたが、1917年 (大正6年) に最初の温泉銭湯、「永命館」がオープンすると、以来、温泉の掘削により多くの銭湯や温泉旅館が建ち、1960年頃には80軒もの温泉旅館が並ぶ大歓楽街になった。しかしその後は全ての温泉旅館が廃業、休止して現在は、古い銭湯をいくつか (太平館、富士乃湯、しのぶ湯) 残すのみである。ただし2006年に大型のスーパー銭湯「綱島源泉 湯けむりの庄」がオープンした。

太平館の開業は綱島温泉全盛期の1949年 (昭和24年) で、かつては共立湯という名前だった。現在の建物は1966年 (昭和41年) に建てられたもの。

参考リンク:

2019/12/27 富士乃湯
水槽の魚を眺めながら浸かる綱島の黒湯温泉「富士乃湯」

雰囲気のある渋い銭湯

話は現代に戻って、大倉山駅で電車を降りて線路沿いに住宅地を歩いていくと、右手側に太平館が現われる。距離は 800m 程で、駅前というには少し離れている。建物は銭湯であることをあまり主張してこないが、その廃れた外見で、何かランドマークがことはすぐにわかる。


⬑ 夜だとホラー感さえある


⬑ 横を覗くと浴場があるとわかる


⬑ 暗い通路で誘うように光る銭湯


⬑ 入口で男女に分かれる番台方式。女性側脱衣場は番台に目隠しがある

扉の先には脱衣場、その先が浴場になる。

見通し 5cm の真っ黒な黒湯を消毒無しで使用

浴場と脱衣場は大きなガラス戸で仕切られている。浴場は手前側に低いカランが並び、奥の壁下横一列に浴槽が並ぶ。


⬑ 伝統的な東京式銭湯の配置

温泉を使った浴槽は2つで、2人サイズの深い浴槽と、6人サイズの浅い浴槽がある。神奈川の銭湯では広めの温泉浴槽である。周辺の温泉銭湯の浴槽は1人〜2人しか入れないほど小さいこともよくある。

2つの浴槽とも湯は同じで、水面上に湯口は無く、全ての湯が浴槽底面からのバイブラ注入。オーバーフローは無く浴槽内で吸入して循環している。温泉の使い方は、加温有り、加水無し、循環有り、消毒無し。循環しているのに消毒しないのは珍しい方法だが、湯を高温にして殺菌作用を高めているのだと思う。


⬑ 加水無し、加温有り、循環有り、消毒は無し

浴槽温度が44℃とかなり熱め。東京都大田区、神奈川県川崎市、横浜市あたりの黒湯地域では熱い浴槽も多いが、ここ太平館と蒲田の久松温泉が特に熱い。しかしながら入浴客がだいたい地元なためか、皆じっくりと浸かっていた。落ち着いた雰囲気で居心地が良い。

浴槽の間の仕切りから両側に飛び出すカランがあって、捻ると冷たい茶褐色透明の水が流れ出してきた。源泉の冷鉱泉と思われる。

飲んでみると無味だが、このあたりの重曹泉ではお馴染の地下水の甘味があった。カランを捻ってすぐ飲んでも金属の味はしなかったので、カランは頻繁に使われているのだろう。

入浴中、湯を掬って鼻に近づけて嗅いでみると、僅かに植物系のモール臭が香った。匂いは弱く、ただ浸かっているだけでは集中しないと知覚できない。

湯の色はかなり濃い黒褐色。見通しは 5cm 程度しかなく、当然浴槽の底は全く見えず、湯の中はただただ真っ黒である。白い泡など浮遊物は無かった。

湯の感触にはそれといった特徴が無かった。温泉は純重曹泉の泉質で、成分にはメタけい酸も十分含まれているのでもっとヌルヌルしても良さそうなものだが、全然そうはならない。なぜだろう。循環のせいだろうか。

身体の温まりは、浴槽の温度もあってかガッツリ強く、浸かっていると疲れてくる。外気温は6℃程度の涼しい日だったが、上がったあと駅まで歩いても身体はポカポカと温かいままだった。

温泉の成分

温泉分析書は脱衣場に掲示されていた。源泉は横浜温泉で個別の名前が付けられていない。周辺の温泉は大体、源泉が異なっていても横浜温泉と記載されている。


⬑ 平成27年8月 横浜温泉


⬑ 温泉成分、禁忌症及び入浴上の注意事項確認書


⬑ 温泉の成分、禁忌症及び入浴上の注意事項掲示証

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: 横浜温泉
湧出地: 神奈川県横浜市港北区大曽根1-25-2
分析年月日: 平成27年8月17日

湧出量 94 L/min 湧出形態 動力揚湯
pH 7.8
泉温: 17.4 ℃ (気温26.1℃)
泉質 ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉 (低張性・弱アルカリ性・冷鉱泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1406.12 mg/kg
成分総計 1431.82 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
リチウムイオン (Li+)0.020.000.00
ナトリウムイオン (Na+)313.0013.6184.80
カリウムイオン (K+)17.500.452.80
アンモニウムイオン (NH4+)4.880.271.68
マグネシウムイオン (Mg2+)10.200.845.23
カルシウムイオン (Ca2+)17.200.865.36
ストロンチウムイオン (Sr2+)0.120.000.00
アルミニウムイオン (Al3+)0.020.000.00
マンガンイオン (Mn2+)0.030.000.00
鉄 (II) イオン (Fe2+)0.500.020.12
陽イオン計36316.1100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)0.100.010.06
塩素イオン (Cl-)9.630.271.69
臭素イオン (Br-)0.080.000.00
硫化水素イオン (HS-)------
硫酸イオン (SO42-)0.300.010.06
硝酸イオン (NO3-)0.000.000.00
炭酸水素イオン (HCO3-)949.0015.5597.07
炭酸イオン (CO32-)4.940.161.00
メタホウ酸イオン (BO2)0.130.000.00
陰イオン計96516.0100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)74.200.95
メタホウ酸 (HBO2)3.370.08
非解離成分計77.571.03
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)25.700.58
遊離硫化水素 (H2S)----
溶存ガス成分計25.700.58
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.0000.00
総水銀 (Hg)0.0000.00
銅イオン (Cu)0.000.00
鉛イオン (Pb)0.000.00
カドミウムイオン (Cd)0.000.00
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。
横浜温泉 (太平館) - 湯花草子

陽イオンはナトリウムイオンが 84.8 mval% で一番多い。次いでカルシウムイオン、マグネシウムイオンが 5 mval% 強ずつ。鉄 (II) イオンの 0.5 mg/kg は少し気になる数値かも。

陰イオンは炭酸水素イオンが 97.1 mval% で支配的に多い。塩化物イオンは 1.7 mval% しかなく、明確な純重曹泉。

他にはメタけい酸の遊離成分が 74.2 mg/kg、黒湯ではそれほど珍しい含有量ではないものの、ツルツルの感触が期待できる数値である。

最近入浴した横浜温泉は以下:
横浜温泉 - 雨中温泉

利世館 (2020/9/11)
横浜最大の繁華街 伊勢佐木商店街にある温泉銭湯。見通し10cmの黒湯を掛け流し「利世館」
いなり湯 (2020/9/11)
74年間建つ横浜の「いなり湯」。黒湯の源泉冷鉱泉シャワーがある
横浜温泉 黄金湯 (2020/8/30)
素朴で落ち着いた浴場でモール臭香る黒湯に浸かる。横浜の「横浜温泉 黄金湯」