日帰り, 1回目, 曇り, 2020年度中63湯目

一日の自由時間を得たので山梨県南巨摩郡の温泉へ入浴しに来た。西山温泉は歴史ある温泉で、蓬莱館では今も自然湧出の源泉をそのまま使用している。新鮮な湯が湛えられた木の浴槽、渓谷を望む大きな窓で美しい浴室。じっくりと浸かれる素晴らしい湯だった。

施設・温泉概要

所在地: 山梨県南巨摩郡早川町湯島73
Web: 元湯 蓬莱館
日帰り入浴: 可 10:00-15:00
宿泊: 可 10,000 円〜?

源泉名: 西山温泉 蓬莱館
湧出地: 山梨県南巨摩郡早川町湯島字清岡72
湧出量: 36.4 ℓ/分 (自然湧出)
泉温: 38.8 ℃
pH: 9.2
成分総計: 1068.1 mg/kg
泉質: ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
旧泉質名: 硫酸塩泉 / 含食塩芒硝泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

南アルプスの麓で自然湧出する温泉

西山温泉は山梨県南巨摩 (みなみこま) 郡にある溫泉。下部 (しもべ) 溫泉の西、早川沿いを遡上しながら南アルプスの山中へ分け入る山梨県道37号をひたすら進むこと20km強、人家も絶えた渓谷沿いに道路を挟んで2軒の旅館が現われる。このうち向かって右側、早川に合流する湯川の深い谷の岸上に建つ昭和の味を帯びて鄙びた建物が西山温泉 元湯 蓬莱館である。左側に建つ熱海とかにありそうなキラキラした旅館は慶雲閣。西山温泉は古くより当地で自然湧出していたもので、1940年 (昭和15年) の日本旅行協会の資料によると [1]、洞窟の奥から湧く温泉を、抉った岩に溜めて入浴していた、と記録される。

西山溫泉
山梨縣南巨摩郡西山村
…略…
溫泉は古湯と新湯の二泉に分れ、旅舎は險しい懸崖に建ち、岩窟の奥から湧く湯を岩を抉った浴槽に湛へてあるなど山郷らしい趣きに富んでゐる。…略…。溫泉は弱食鹽泉で溫度は四四度、特に婦人病によく、皮膚病・リウマチス・胃腸病・神經諸病・痔疾等に効くと云ふ。…略…。〔旅館〕慶雲閣 (古湯)、蓬莱館 (新湯)。

温泉には当時から2種類あって、古湯に慶雲閣、新湯に蓬莱館が有った。慶雲閣は 705年 (慶雲2年) の開湯とされ、ギネスブックに「世界で最も古い歴史を持つ宿」として登録されているとのこと。自然湧出泉と掘削自噴泉合わせて5本の源泉を使用している [2][3]。今回は素通りした。

なお会津にも西山溫泉という地熱発電所もある溫泉地が存在する。いずれも良い温泉だが、場所は全然違うので注意しよう。

さて蓬莱館に戻って、西山温泉は、山梨県道37号を北上して、リニア中央新幹線のトンネル工事現場やら、新倉の糸魚川-静岡構造線 [4] を通過した先にある。左手側に現れる「元湯 蓬莱館」の古びた看板と駐車場が目印である。

蓬莱館看板
⬑ いい感じの看板。奥の階段の上に蓬莱館

蓬莱館入口
⬑ 崖の上に建つ昭和な建物

ロビー
⬑ ロビーも昭和全開

蓬莱館の言い伝えについて
⬑ 徐福の伝説を由来とした蓬莱湯

蓬莱とは、中国の伝記に云う「東海にある仙人の住む霊山」のことであります。紀元前三世紀、中国の秦の始皇帝は、斉 (山東省) の仙人徐福に不老長寿の薬を探すよう命じられました。この命により、徐福は、青年男女数千人を連れて、不老長寿の薬があると云われる東海上の蓬莱山を目指しました。そして崇高で美しい富士山を発見するや、これこそ蓬莱山であると考え、富士山北麓に留まることにして、その周辺を対象に不老長寿の薬を探したとの事であります。
徐福の一向は、あるとき、富士山の西側に位置する当地西山温泉にまで不老長寿探しの足を延ばし、当地に於て「オニク」と称する不老長寿の薬を採取したとの事であります。ようやく、探し求めた一向は、当地の温泉にてその疲れをいやしたとのことです。
その際、徐福の一向は、当地があまりにも「仙人の住む霊山」にふさわしい場所であると感じ入り、「この場所こそ蓬莱の中の蓬莱である。そして、ここは蓬莱の湯である。」と語り合ったとの事であります。
当館は、かかる言い伝えを元にいたしまして、古来その名称を蓬莱の湯から「蓬莱湯」へ、そして、明治の初め頃から「蓬莱館」へと順次変えて現在に至ってきております。以上が当館の名称にまつわる言い伝えであります。
徐福、蓬莱山 (富士山) 不老長寿の薬オニク、そして当館の蓬莱の湯。夢の多い伝説の数々であります。
ところで、昭和五十七年 (西暦一九八二年) に中国に置いて「徐福村」が発見されるに至りました。
中国の江蘇省の「徐福村」には、徐福の子供達が住んでいるとの事であります。
これにより、徐福は、実在の人物ではないかと云う事になったわけであります。
「伝説」から「歴史」へと「徐福研究」が高まってきた大きな発見であったわけです。この「蓬莱伝説」と「徐福の古代史」のあれこれ (世界) にひたりながら、ごゆっくり「蓬莱の湯」を味わって戴ければ望外の幸わせであります。
館主

黄金の湯ノ花
⬑ 年に数回、黄金の湯の華が大量に出現するらしい。遭遇したら宝くじを買うと良いらしい。いきなりミーハーな感じを出してきた

残念ながら今回は黄金色では無く、薄黄色の湯の華がちょっと舞っているだけだった。

西山温泉 黄金伝説の始まり
黄金の湯ノ花

地下 1,500 メートルから自然に湧き上がる黄金の湯ノ花、写真は年数回の大量流出湯船一面が黄金色に変わります。
湯船が黄金色に変わったら絶対宝くじをお買い求め下さい。

フロントでご主人に料金を支払うと、丁寧に浴室までわざわざ案内してくれた。建物奥の階段を登り、一度外に出る。

湯治館入口
⬑ 裏には、さらにいい感じに鄙びた湯治館が建つ

旧館玄関
⬑ 玄関でスリッパに履き替え、さらに進む

脱衣場前の廊下
⬑ 左側の戸が脱衣場の入口。手前が男性脱衣場、奥が女性脱衣場と書いてある

男性脱衣場
⬑ 男性脱衣場

脱衣場の壁には温泉分析書の他、色々な書類が貼り出されていた。

可燃性天然ガス測定結果報告書
⬑ 可燃性天然ガスの測定結果

早川地区では時折天然ガスが地中より噴き出して工事が中止されたりしているらしい。西山温泉の前を流れる早川沿いには、古第三紀 (2,300万年〜6,600万年前) の瀬戸側層群と呼ばれる地層が分布している。天然ガスは古い泥岩に含まれる有機物が分解されて出来たとされる [5]。瀬戸側層群は西日本でお馴染、海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む時に削られた上面が列島の地下に付け足された付加体の四万十帯に属している。

温泉の成分等の掲示
⬑ 自然湧出、加温無し、加水無し、循環・消毒無しの完全無欠な温泉利用

蓬莱館は県内唯一天然自噴温泉
⬑ 県内唯一の天然自噴温泉だと…!?

温泉利用許可
⬑ 浴用・飮用も公認されている

夜十時より十二時まで清掃
⬑ 夜は十二時まで清掃

今回は貸切状態にならなかったので、ここから先の写真は無し。

時が止まったような空間で、新鮮な湯に浸かる

浴室に繋がる戸を開けると、男女混浴の大きな内風呂。露天風呂は無いが、窓はとても大きい。渓谷の木々の葉が細かくそよぐ様が心地良い視覚的刺激になり心が洗われる。湯の注ぐ音が響くのみで静かな浴室。

先客で夫婦2人と1人の男性が入浴していたが、私が入浴する1時間20分の間、ほとんど動きが無かった。完全に湯治の入浴方法だ。まさに時の止まったような空間に感じた。

浴槽は木製で縦横に3つに分かれており、いずれも6人程度が入浴できる長方形で隣接している。片方は湯口側の一部が木板を使ってさらに小さく1人サイズに仕切られていた。湯の溫度は大きい順に溫度が高く、一番大きい浴槽が加温で40℃程度で温かく、次に大きい浴槽が非加熱の36℃程度で温い。一番小さい浴槽は源泉が直接注ぐようになっており溫度は34℃程度、少し冷たい。分析書を見ていると源泉の溫度は30℃台で割と揺らぐようだ。

浴槽手前側縁の中央に湯口。大理石で眼鏡状の2つの穴があって両方から同じ源泉が浴槽へジャバジャバと注がれている。湯口の中を覗いてみると、穴のすぐ奥で1本の湯が分岐しているようだった。南紀のえびね温泉の湯口と似ている。


  1. 富士及甲信地方 (1940) - 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎

  2. 慶雲館について | 全館源泉掛け流し 西山温泉 慶雲館 ↩︎

  3. 温泉 | 全館源泉掛け流し 西山温泉 慶雲館 ↩︎

  4. 糸魚川・新倉断層 | 早川町役場 ↩︎

  5. 山梨県早川町における四万十帯の天然ガス徴候地について, 地質調査所月報 Vol.32 No.5 (1981)|産総研地質調査総合センター ↩︎

えびね温泉 (2020/6/21)
日置川を眺めつつ浸かるタマゴの匂い香る「えびね温泉」

湯口があるのは中央だが、その湯が注がれているのは小さい浴槽のみ。温かい浴槽の角には熱交換パイプらしきものが見えたが、夫婦がずっと張り付いていたのでよくわからない。たぶんそこだけ温かいのだろう。他に循環等はもちろん無く完全な源泉掛け流し。

湯は無色澄明で清澄。クリーム色というか薄黄色の湯の華が浮遊しており、大きさは 5 mm 以下で細かい。湯口直下では少し大きく薄皮状になっていた。入浴していると肌の輪郭が青く光っているように見えた。

湯を飲んでみると、ほとんど無味だがごく微かに塩味、芒硝味、石膏味が感じられて美味しい。匂いもほぼ無臭だが、意識しないと感知できない位の硫黄臭や塩土臭 (鉱物油臭) があった。

温泉の成分

3世代の温泉分析書が掲示されていた。なぜか平成19年と平成23年でたったの4年しか経っていないのに分析を行ったらしい。源泉の湧出地が、昭和には旅館と同じ「早川町湯島73」だったが、平成では「早川町湯島字清岡72」と少し変わっている。区分けが変わったのだろうか。

温泉分析書 (昭和63年)
⬑ 昭和63年1月12日の温泉分析書

温泉分析書 (平成19年)
⬑ 平成19年8月7日の温泉分析書

温泉分析書 (平成23年)
⬑ 平成23年6月23日の温泉分析書

ここでは最新である平成23年の溫泉分析書について書く。

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: 西山温泉 蓬莱館
湧出地: 山梨県南巨摩郡早川町湯島字清岡72
分析年月日: 平成23年6月23日

湧出量 36.4 L/min (自然湧出)
pH 9.2
泉温: 38.8 ℃ (調査時における気温15℃)
泉質 ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1068.1 mg/kg
成分総計 1068.1 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
水素イオン (H+)0.000.000.00
リチウムイオン (Li+)0.400.060.39
ナトリウムイオン (Na+)252.9011.0070.88
カリウムイオン (K+)3.500.090.58
アンモニウムイオン (NH4+)0.600.030.19
マグネシウムイオン (Mg2+)0.200.020.13
カルシウムイオン (Ca2+)86.104.3027.71
ストロンチウムイオン (Sr2+)0.800.020.13
アルミニウムイオン (Al3+)0.000.000.00
マンガンイオン (Mn2+)0.000.000.00
鉄 (II) イオン (Fe2+)0.000.000.00
鉄 (III) イオン (Fe3+)0.000.000.00
陽イオン計34415.5100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)2.600.140.89
塩素イオン (Cl-)225.306.3540.29
臭素イオン (Br-)0.600.010.06
ヨウ化物イオン (I-)0.200.000.00
水酸イオン (OH-)0.300.020.13
硫化水素イオン (HS-)1.300.040.25
硫化物イオン (S2-)0.000.000.00
チオ硫酸イオン (S2O32-)0.400.010.06
硫酸水素イオン (HSO4-)0.000.000.00
硫酸イオン (SO42-)418.308.7155.27
リン酸水素イオン (HPO42-)0.000.000.00
炭酸水素イオン (HCO3-)0.000.000.00
炭酸イオン (CO32-)14.400.483.05
メタ亜砒酸イオン (AsO2-)0.000.000.00
メタホウ酸イオン (BO2)0.000.000.00
陰イオン計66315.8100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタ亜砒酸 (HAsO2)0.000.00
メタケイ酸 (H2SiO3)45.100.58
メタホウ酸 (HBO2)15.100.34
非解離成分計60.200.92
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)0.000.00
遊離硫化水素 (H2S)0.000.00
溶存ガス成分計0.000.00
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.01未満--
総水銀 (Hg)0.00005未満--
クロム (Cr)0.01未満--
鉛イオン (Pb)0.01未満--
カドミウムイオン (Cd)0.01未満--
亜鉛イオン (Zn)0.01未満--
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。
西山温泉 蓬莱館 - 湯花草子

陽イオンはナトリウムイオンとカルシウムイオンが 5:2 の比率で含まれ、合わせて全体の 98.6% を占めていて他の成分はあまり無い。陰イオンは硫酸イオンと塩素イオンが 3:2 くらいの比率で含まれているが、炭酸イオン、硫化水素イオンも気になる量がある。メタけい酸、メタほう酸もやや多め。炭酸イオンは先述の天然ガスが少し溶け込んでいるのかもしれない。