晴れ 日帰り 1回目
春分の日の連休で群馬の湯巡り。渋川の金島温泉 富貴の湯に続いて、高崎の京ヶ島天然温泉湯都里で日帰り入浴した。高崎東部に位置し、高崎IC近くにある大型のスーパー銭湯。
高崎市内に近く、営業時間が5:00〜24:00と長いため、便利である。22:00頃でも建物の入口では人がひっきりなしに往来しており、人気の施設のようだ。
茶色がかった温泉が大量に掛け流されていて充足感があった。
地理と歴史
京ヶ島天然温泉湯都里は、先述の通り高崎の東部に位置し、東側に井野川、西側には利根川が流れるその中間の土地にある。この土地は前橋台地と呼ばれている。
京ヶ島天然温泉湯都里の温泉は地下1,500mの掘削により湧き出したそうだ。
高崎周辺では基盤岩が4,500mもの深さにあり、その上には厚い堆積層がある。
地上から深度600mまでは第4系の上総層群、下総層群、それ以深では安中層群板鼻層の海成堆積岩になっているとのこと。この地層は約1000万年〜1100万年前の中新世後期のものとされている。当時は高崎くらいまで海が広がっていたと考えられており、高崎の周辺では貝の化石などが見つかっている。温泉は含まれる成分の比率から、地下深くに染み込んで地熱により温められた水と、海水が地中に閉じ込められてできた化石海水の混合と考えられている [1]。
近くの温泉では高崎市の天神の湯 (掘削深度 1,300m) 、前橋市の七福の湯 (掘削深度 1,500m)、伊勢崎市の伊勢崎ゆまーる (掘削深度 1,500m)、伊勢崎天然温泉湯楽の里 (掘削深度 1,500m)、が同じような起源を持っていそうに思う。結構近距離で掘りまくっているようだ。
京ヶ島天然温泉の由来については、館内で以下のように案内されている。
↑写真: 京ヶ島天然温泉の由来
京ヶ島という地名は、1889年の町村制施行時に京目村、島野村、本島名村、矢島村、西島村、大沢村、萩原村が合併した際に作られたもの [2]。じゃあ飛鳥時代って何のこと?についてたぶん神社の歴史あたりを参考にしたのでは、と思うがここでは調べない。
施設
大きな建物を囲むように駐車場があるが、かなりの台数の車が駐車されており驚く。
一部は隣接するスポーツセンターの客なのかもしれないが、施設の入口だけ見ても人が次々と出入りするため、やはりかなりの人数が利用しているようだ。群馬県民は老若男女問わず誰もが日常的に温泉に通うのだろうか。
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 外観
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 入口
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 廊下
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 男湯入口
浴場は男女別で、それぞれに内風呂と大変広い露天風呂がある。温泉を利用した浴槽は主に露天風呂にあり、内風呂は加温循環式の浴槽が1つだけなのに対し、露天風呂には大きい岩風呂 (10人サイズ)、3槽の石釜風呂 (1人×3)、大きな岩を刳り貫いた大岩湯 (2人サイズ)、檜の湯 (4人サイズ)、寝湯の見上げの湯 (4人分) がある。
露天風呂は大雑把に下段と上段に分かれている。岩風呂、石窯湯が下段で、ぬるめの湯に調整され湯口41℃、浴槽40℃くらい。他の大岩湯、檜の湯、見上げの湯が上段で熱めの湯口45℃、浴槽42℃くらいだった。浴槽が小さいのもあり、大岩湯は結構な熱さになっていた。
上段からオーバーフローした湯はそのまま小川のようになって下段の横を流れていた。なんとも贅沢な使い方をしている。歩いていても足が温泉に触れているのは、当然嬉しい。
他に、今回は入浴しなかったが、貸切風呂があり、なんと9室もあるらしい。
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 貸切風呂
メンバーズカードを持ち、平日に前日までに予約すると3時間も使えるらしい。時間当たりのパフォーマンスは良好だが、3時間もやることが無い気もする。入浴、食事、入浴で使うことが想定されているのだろうか。
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 貸切風呂
温泉の利用方法と浴感
露天風呂では全ての浴槽が源泉かけ流しで利用されており、加温無し、加水無し、循環無しになっている。残念ながら消毒は行っているようだが、掲示にて教えられなければわからない程度だった。
温泉はどの浴槽でも、そのままオーバーフローするようになっているが、特に上段の檜の湯では湯口からザバザバと注がれた湯が大量に溢れ出し、浴場に小川を作りだしている。これだけの数の浴槽を源泉掛け流しの湯で満たしつつ、さらに贅沢に溢れさせるのだから大変に潤沢な湯量と思われるのだが、分析書を見ると湧出量が140L/分しかない。この量では小さい温泉銭湯でさえ完全循環式になっていることがあるというのに、一体どういうことだろう。……と思ったら古い分析書では湧出量468L/分と記載されていた。最新の分析書ではやけに小さい数字になっているが、やはりこれくらいの量が無いとできない温泉の使い方。現在は量が復活しているのだろう。
色は茶色透明でわずかに緑がかっている。飲んでみると、意外にもさっぱりとした味で、弱い塩味と出汁の味があり美味しく飲める。匂いは粘土臭、出汁臭があった。石釡湯は湯口から出る湯にガスが混じっているのか、ゴボゴボと大きな音を上げており、露天風呂全体に音を響かせていた。謎の秘湯感を醸していた。温まりはそこそこ強く、持続もするが、体力を奪う感じではないので、休むと再び入浴することができる。出入りを繰り返して無限に過ごせるんじゃないかと思った。
温泉の成分
温泉は強塩泉のような雰囲気を出しているが、実は成分総計3400mg/kgしかない。これは強塩泉として分類される量に対して約三分の一ほどである。温泉の使い方がよく、温泉の特徴が成分に対して強く現われているのかもしれない。
温泉分析書は木製の掲示は2002年のもので、紙は2013年のものである。古い方が若干成分多めに出ているようだ。また、先述の通り、湯量はなぜか3倍の開きがある。
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 温泉分析書 (2002/6/30)
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 温泉分析書 (2013/9/24)
↑写真: 京ヶ島天然温泉 湯都里 温泉分析書 (2013/9/24)
以下では2013年の分析書の内容を文字に起こした。成分総計については、自前のソフトを使って再計算しているため分析書に記載のものと合わない。どうすれば合うのかよくわからない。
源泉名: 京ケ島天然温泉
湧出地: 群馬県高崎市島野町890番11
分析年月日: 2013/9/9
湧出量 140 L/分 (掘削・動力揚湯)
pH 7.5
泉温: 57.5 ℃ (気温26.5℃)
泉質 ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 3396.8 mg/kg
成分総計 3445.2 mg/kg
温泉の成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
水素イオン (H+) | 0.1未満 | -- | -- |
リチウムイオン (Li+) | 0.30 | 0.04 | 0.08 |
ナトリウムイオン (Na+) | 1059.0 | 46.06 | 91.23 |
カリウムイオン (K+) | 13.40 | 0.34 | 0.67 |
アンモニウムイオン (NH4+) | 1.20 | 0.07 | 0.14 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 10.80 | 0.89 | 1.76 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 61.00 | 3.04 | 6.02 |
ストロンチウムイオン (Sr+2) | 0.80 | 0.02 | 0.04 |
バリウムイオン (Br-) | 1.20 | 0.01 | 0.04 |
アルミニウムイオン (Al3+) | 0.1未満 | -- | -- |
マンガンイオン (Mn2+) | 0.1未満 | -- | -- |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 0.30 | 0.01 | 0.02 |
鉄 (III) イオン (Fe3+) | 0.1未満 | -- | -- |
陽イオン計 | 1148 | 50.5 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 0.40 | 0.02 | 0.04 |
塩素イオン (Cl-) | 1350.0 | 38.08 | 76.11 |
臭素イオン (Br-) | 0.1未満 | -- | -- |
ヨウ化物イオン (I-) | 1.60 | 0.01 | 0.02 |
水酸イオン (OH-) | 0.1未満 | -- | -- |
硫化水素イオン (HS-) | 0.1未満 | -- | -- |
硫化物イオン (S2-) | 0.1未満 | -- | -- |
硫酸水素イオン (HSO4-) | 0.1未満 | -- | -- |
硫酸イオン (SO42-) | 0.10 | 0.00 | 0.00 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 724.50 | 11.87 | 23.73 |
炭酸イオン (CO32-) | 1.40 | 0.05 | 0.10 |
陰イオン計 | 2078 | 50.0 | 100.00 |
(3) 遊離成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタ亜砒酸 (HAsO2) | 0.1未満 | -- |
メタケイ酸 (H2SiO3) | 64.10 | 0.82 |
メタホウ酸 (HBO2) | 58.30 | 1.33 |
非解離成分計 | 122.40 | 2.15 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 48.40 | 1.10 |
遊離硫化水素 (H2S) | 0.1未満 | -- |
溶存ガス成分計 | 48.40 | 1.10 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
総砒素 (As) | 0.002未満 | -- |
総水銀 (Hg) | 0.0002未満 | -- |
銅イオン (Cu) | 0.001未満 | -- |
クロム (Cr) | 0.001未満 | -- |
鉛イオン (Pb) | 0.005未満 | -- |
カドミウムイオン (Cd) | 0.001未満 | -- |
亜鉛イオン (Zn) | 0.005未満 | -- |
微量成分計 | 0.00 | 0.00 |
陽イオンはナトリウムイオン成分が大部分で91.22mval%。鉄 (II) イオンが0.3mg/kg含まれており運が良ければ金気を感じることができる。陰イオンは塩素イオンが76.11mval%で最多。炭酸水素イオンも23.73mval%含まれているため、メタケイ酸64.1mg/kgと合わせてモール泉的な特徴がヌルスベ感があったかもしれない。泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉に分類される。石釜風呂でゴボゴボ音を立てているのは遊離二酸化炭素48.4mg/kgだろうか。
参考資料
- 天然温泉湯都里 公式サイト
- 榛名山地域の地質, 下司信夫, 竹内圭史, 地域地質研究報告, 2012
- 関東平野北西部,高崎台地から井野川低地帯にかけての地下地質, 吉田英嗣, 笠原友生, 地学雑誌, 763-773, 2016