日帰り, 2回目, 晴れ, 2020年度中53湯目

熱塩温泉の ふじや に宿泊した翌日、すぐ近くにある「下の湯 共同浴場」にも入浴した。熱塩温泉唯一の共同浴場で、外来客向けにも開放されている。

この共同浴場は、大学時代に仙台から会津まで50ccの原チャで走ってきたときに入浴した思い出の施設。素朴な浴室と、身体の奥まで温まる熱塩の湯に感激して、私の温泉趣味のルーツにもなっている。また以前と変わらず湧き続ける温泉に入浴できて嬉しかった。

熱塩温泉 帰郷のお宿 ふじや (2020/9/26)
有馬型温泉のレア浴槽を、観音様が見守る「熱塩温泉 帰郷のお宿 ふじや」

施設・温泉概要

所在地: 福島県喜多方市熱塩加納町熱塩熱塩甲811
Web: 会津喜多方熱塩温泉
日帰り入浴: 可 9:00-16:00
宿泊: 不可

源泉名: 熱塩温泉
湧出地: 福島県喜多方市熱塩加納町熱塩字熱塩甲808−2
湧出量: 116 ℓ/分 (動力揚湯)
泉温: 64.3 ℃
pH: 6.4
成分総計: 12,230 mg/kg
泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 (高張性・中性・高温泉)
旧泉質名: 食塩泉 / 含塩化土類食塩泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

過去の訪問: 2012年頃

昔ながらの素朴な共同浴場

熱塩温泉は福島県の喜多方から北へ約8km、押切川の流れる会津盆地北端に位置する高森山の麓にある。開湯は1375年 (永和元年) 7月、曹洞宗の和尚である源翁心昭が発見したという。当地にはそれ以前より真言宗の慈眼寺があったが、曹洞宗の示現寺として再興し、現在も熱塩温泉内にある [1]。温泉は元々、岩の隙間から64℃の湯が自噴していたもので、明治期には大きな旅館が7軒もあったという [2]。付近には37℃の少し温い目洗湯という源泉も存在した。現在の温泉は動力揚湯によるものが、温度、泉質ともにかつての自噴泉と同様の湯のようだ。旅館は5軒で山形屋 (42室)、ふじや (19室)、ゆもとや (16室)、笹屋本館 (10室)、ますや旅館 (5室) がある。源泉はふじやの少し下にあって示現寺足湯が隣接している。「下の湯共同浴場」は足湯から20m程の位置にあり、熱塩温泉唯一の共同浴場である。外来客にも開放されていて、入浴協力金を支払って入浴することができる。使用している源泉はいずれも同じ「熱塩温泉」。

足湯と源泉の外観
⬑ 手前の扉が源泉設備、奥が足湯

示現寺足湯 正面
⬑ 示現寺足湯としていい感じに整備されている

示現寺足湯 浴槽
⬑ 奥の壁の向こうは源泉。湯は源泉直引き

共同浴場 外観
⬑ 味わいある共同浴場

共同浴場前の道
⬑ 入浴料金200円は2軒隣の白壁の商店「叶屋」で支払う

外来入浴者の皆様へ
⬑ こういう風に案内してくれると入浴しやすい

脱衣場
⬑ 女性の脱衣場はカーテンのみで仕切られている

とても簡単な脱衣場だが、水道が設置されていてタオルを絞ったり、水分補強も可能。熱塩温泉はかなり温まる温泉のため、とても便利だ。

木の棒で源泉投入量を調整しながら入浴

浴室は極めて単純なもの。8年前に訪れたときと何ら変わらない設備で安心感がある。脱衣場と浴室は戸を挟んで別になっているタイプ。浴室内には小さな長方形の浴槽があり、手前側に源泉の湯口、奥側に冷水の蛇口がある。他には何も無い。シャワーはもちろん無い。珍しいのは男女浴室を仕切る壁が低く、高さ160cm程度しかないこと。その気になれば壁を挟んで互いの顔を見合わせることができる。かつては仕切りなど無く、正方形の浴槽が1つだったのを、のちに二等分して長方形の浴槽にしたのかもしれない。

昼前に訪ねたが、人がちょうど入れ替わり位のタイミングで入浴してきたので、小さな施設の割にはよく利用されているようだ。

浴槽は縦に細長い長方形で、体育座りで詰めても最大3人しか入浴できない大きさ。浴槽手前側では男女浴槽を区切る壁から厚くなっており、そこから細いパイプの湯口が突き出している。パイプからは60℃の湯が投入されているが、そのままでは熱くて入浴できないので、木の棒が挿し込まれ湯量を調整していた。木の棒を抜くと思いの外多量の熱湯がジャバジャバと浴槽に注がれた。小さい浴槽に対して湯量は多く、抜いたままにしたら浴槽はいずれ入浴困難な温度になるだろう。一度抜いた木の棒を抜き取ってしまうと、熱い湯を手に浴びてアチチチと言いながら差し込み直す必要がある。

入浴時は、前の入浴者によって既に少し加水されたようで、浴槽の温度はややぬるめ 42℃くらいだった。

湯の色は微かに緑がかって白濁した透明で、浴槽の底はややぼやけて見える。浮遊物は見当たらなかった。匂いはほぼ無臭でやや塩スープの香り。関東の古代海水の温泉と比べると、よりシンプルな食塩臭に感じる。肌の感触にはあまり特徴が無い。身体の温まりはふじやと同様、はじめの入浴時に温まるペースは遅いものの、入浴し続けると身体の奥までガッツリと暑くなり、湯から上がっても長い時間、汗が流れ続ける。

足湯横の湯口を汲んだ
⬑ 足湯横の湯口でコップに汲んで飲んでみた

味は鹹味で塩辛く苦いが、古代海水とは異なり雑味が少なくストレートな苦みがグッとくる。なかなか飮みにくいもので、示現寺の境内を歩きながらチビチビと飲んでいた。

温泉の成分

温泉分析書は示現寺足湯に掲載されていた。

温泉分析書
⬑ 足湯に掲載された温泉分析書

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: 熱塩温泉
湧出地: 福島県喜多方市熱塩加納町熱塩字熱塩甲808番2
分析年月日: 平成29年11月14日

湧出量 116 L/分 (動力揚湯)
pH 6.4
泉温: 64.8 ℃ (調査時における気温16℃)
泉質 ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 (高張性・中性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 12152.08 mg/kg
成分総計 12230.38 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
リチウムイオン (Li+)9.801.410.69
ナトリウムイオン (Na+)3237.0140.8069.28
カリウムイオン (K+)264.806.773.33
アンモニウムイオン (NH4+)0.400.020.01
マグネシウムイオン (Mg2+)17.701.460.72
カルシウムイオン (Ca2+)1045.052.1525.66
ストロンチウムイオン (Sr2+)24.200.550.27
アルミニウムイオン (Al3+)0.000.000.00
マンガンイオン (Mn2+)1.200.040.02
鉄 (II) イオン (Fe2+)0.700.030.01
鉄 (III) イオン (Fe3+)0.000.000.00
亜鉛イオン (Zn2+)0.000.000.00
陽イオン計4601203100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)2.800.150.07
塩素イオン (Cl-)6847.0193.1394.76
臭素イオン (Br-)12.600.160.08
ヨウ化物イオン (I-)0.400.000.00
水酸イオン (OH-)0.000.000.00
硫化水素イオン (HS-)0.000.000.00
チオ硫酸イオン (S2O32-)0.000.000.00
硫酸水素イオン (HSO4-)0.000.000.00
硫酸イオン (SO42-)384.007.993.92
亜硝酸イオン (HNO2-)0.000.000.00
硝酸イオン (NO3-)0.000.000.00
リン酸水素イオン (HPO42-)0.000.000.00
炭酸水素イオン (HCO3-)145.902.391.17
炭酸イオン (CO32-)0.000.000.00
メタ亜砒酸イオン (AsO2-)------
メタホウ酸イオン (BO2)------
陰イオン計7393204100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタ亜砒酸 (HAsO2)0.800.01
メタケイ酸 (H2SiO3)105.901.36
メタホウ酸 (HBO2)51.101.17
非解離成分計157.802.54
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)78.301.78
遊離硫化水素 (H2S)0.000.00
溶存ガス成分計78.301.78
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.580.01
総水銀 (Hg)不検出 (0.0005 mg/kg未満)--
クロム (Cr)不検出 (0.02 mg/kg未満)--
鉛イオン (Pb)不検出 (0.01 mg/kg未満)--
カドミウムイオン (Cd)不検出 (0.005 mg/kg未満)--
微量成分計0.580.01

下記にも掲載しました。
熱塩温泉 - 湯花草子

熱塩温泉は福島県の山側にあるのに、塩辛い温泉が湧出している。この理由はいくつかの考え方があるようで

  • 東北の奥羽山脈が海底にあった時代に堆積した火山噴出物がやがて圧力によって、海水を取り込みながら変質したグリーンタフ地層から湧出するため、というものと、
  • プレートが地下深くに沈み込む過程で超臨界熱水になり、地下の岩石を溶かしながら湧出してくる、鹿塩温泉と同じ有馬型温泉であるというもの、
  • 火山のマグマから地下深くで分岐した塩化物の成分を取り込んだというもの
    があるようだ。もうちょっと勉強してまた入浴しに来たい。

おまけ

示現寺外観
⬑ 示現寺のお堂

温泉神社の大杉
⬑ 温泉神社と大杉

温泉神社の大杉について
⬑ 大杉について

旧熱塩駅
⬑ 熱塩温泉から下って旧熱塩駅

天神清水
⬑ 駐車場横には湧き水

天神清水の標識
⬑ 天神清水と呼ばれている


  1. 示現寺 - Wikipedia ↩︎

  2. 福島県鉱泉誌 - 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎