日帰り, 1回目, 曇り, 2020年度中72湯目

用事があって大阪にやってきた。昨夜は 八尾元湯温泉 八尾グランドホテル に泊まった。チェックアウトして周囲を探索した後、羽曳野市の小型スーパー銭湯「天然温泉 華の湯」にやってきた。「松原天然温泉」と並び、大阪で湯の使い方が良いということで知られている。

温泉は地下 1100m から揚湯していて、嘗めるとかなり塩辛い。「松原天然温泉」と同じ成因だとすると、はるか地下、基盤岩の中で高温になった熱水が地中の成分を溶かしつつ取り込みながら上昇してきて、その出口で地下水と混合してできた温泉で有馬温泉とも近い成り立ちをもつ。

この温泉を最小限サイズの浴槽にたっぷりと掛け流しているので、鮮度が高く爽快。そしてその分、温泉のパワーを浴びて強力に身体の温まる温泉だった。

八尾元湯温泉 八尾グランドホテル (2020/11/27)
強い金気のある黄褐色の温泉をほぼかけ流し「八尾元湯温泉 八尾グランドホテル」。大阪旅行の宿としても便利。

施設・温泉概要

所在地: 大阪府羽曳野市野453番地
Web: 天然温泉 華の湯
日帰り入浴: 可 10:00-24:00 (受付23:00まで)
宿泊: 不可

源泉名: 天使の湯
湧出地: 大阪府羽曳野市野454番2
湧出量: 600 ℓ/分 (掘削 1,100 m・動力揚湯)
泉温: 41.1 ℃
pH: 7.3
成分総計: 16,013 mg/kg
泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 (高張性・中性・温泉)
旧泉質名: 食塩泉 / 含塩化土類食塩泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

地下 1100m から湧く塩辛い温泉

「天然温泉 華の湯」は大阪府羽曳野 (はびきの) 市にある小さめのスーパー銭湯的な日帰り入浴施設。徒歩の場合は近鉄南大阪線の恵我ノ荘駅から南に1km、住宅地を抜けると「はびきのコロセアム」が現われて、それを通り過ぎて少し歩くと左手に「華の湯」が見える。

外観
⬑ この日の空には雨が降りそうな暗い雲がかかっていた

入口
⬑ 建物を右に回り込むと入口

玄関には温泉の由来について解説する掲示があった。ありがたい。

天然温泉 華の湯
⬑ 天然温泉 華の湯

引用しておこう。

天然温泉 華の湯

この温泉は二〇〇三年二月 地下一一〇〇メートルから噴き出た天然の温泉です。湧出量は毎分六〇〇リットル 溢れ出る湯の温度は四十二度ですから焚くことも冷ますことも無く地の恵みそのままの大自然の温泉です。

私はこの熱源泉を天使の湯と名付けました。清らかな神の使いとされる善天使にも九つの位があると言われているのですが、その最高位が "セラピム" と呼ばれる癒しの天使だそうです。

この 天使の湯 に浸ることによって、心も体も癒され、毎日をさわやかな気分で健やかに過ごして頂ければ必ず長寿にもつながるものと信じ、浴槽も肌に優しい檜にいたしました。

お湯は地底からどんどん溢れておりますので贅沢に楽しんで頂きゆったりと至福の時を過ごしていただければ幸いです。

二〇〇四年四月一日

施設のオープンは2003年で、温泉は 1,100m の掘削により湧出したとのこと。掘削当時の湧出量は 600 ℓ/分と書かれているが、現在、大阪府では 500 ℓ/分の採取制限をかけているため [1]、全開で使っているわけではなさそうだ。

大阪府ではだいたい地下 1,000 m 前後まで、大阪層群と呼ばれる、海や湖、火山灰の堆積物からなる地層が分布している。地層の年代は新第三紀の鮮新世 (〜5,300 万年前) から第四紀の前期更新世 (約 180万年前〜)。華の湯の温泉は、この大阪層群の下部から採取していそうだ。。その下には基盤岩があるので、水を通さない岩石の地層が受け皿になって溜まった地下水が湧出しているのではないか。(後述)

なお分析機関は中央温泉研究所と書かれているが、10年経った最新の温泉分析書は日本水処理工業株式会社に依頼している。

コンパクトな建物

話を戻して、玄関から進むと多少の休憩コーナーのあるホールに到着。

ホール
⬑ 右側の通路が玄関側

受付と脱衣場入口
⬑ すぐに受付で、施設はあまり大きくない

脱衣場へ
⬑ 暖簾の向こうが脱衣場

今回も脱衣場から先の写真は撮れなかったので、公式ページ の写真を見ながら読んでほしい。

ビリッと塩辛くて重みのある温泉

脱衣場には温泉配置図が掲示されていて、源泉掛け流しの浴槽と循環の浴槽がとてもわかりやすく図で示されている。実に素敵な図だ。

内湯には2つの浴槽があって、一方が循環、残りは源泉掛け流し。露天風呂には3つの浴槽があり、全てが源泉掛け流しだ。源泉掛け流しの浴槽では、加温有り、加水無し、循環無し、消毒無しで、良い湯使いだ。

温泉配置図 (掛け流し)
⬑ 露天風呂は全て掛け流し

温泉配置図 (循環)
⬑ 内湯の1つだけが循環

露天風呂の大浴槽は建物に隣接して作られた岩風呂風のもので、大きさは8人程度が入浴できる。湯の中に茶色い粒子が大量に浮遊し、少し鮮度に劣るようだった。温度は 41℃ 程度。

角の露天風呂は2人サイズの小さな岩風呂。一番角に設置された岩から湯が溢れ出して浴槽に注いでいる。常にオーバーフローして対角から流れ出し、小川を成している。鮮度感が良く、申し分無い。オーバーフローの川の上に橋が掛かっていて、なかなか趣があると思った。湯の温度は 42℃ 程度。

少し離れて隣に天然石くりぬき風呂。名前の通り、一つの岩をくり抜いて作られた浴槽で、その穴に嵌るようにして入浴する。身体にほぼピッタリの最小サイズだが狭すぎず、窮屈でなく、見事に計算されて設計されている。オーナーのこだわりなのだろうか。温泉浴槽の中でこの浴槽が最も透き通っており、湯がかなり短時間で入れ替わり、新鮮な状態に保たれているようだった。湯の温度は 42℃ 程度。

湯の色は琥珀色で透明。浴槽の底はよく見えた。天然石くりぬき風呂で最も透き通り、大浴槽では少し濁って湯の華の浮遊も見られた。

飲んでみるとはっきりとした強い鹹味があった。舌が痺れるようなビシッとした塩辛さと、口に残って舌先にグッとくる苦味があり、何とも刺激的な味覚。関東の古代海水系の温泉とは、雑味やヨウ素味がやはり異なる。

主張の強い味覚とは裏腹に、匂いはよく嗅いでみても無臭。肌触りも若干のスベりはあるものの、それといった個性は無い。

浸かっていると、すごく疲れてグラグラしてくる強力な湯。くりぬき風呂はずっと入浴していたい欲求に駆られるが、一度に長湯するのは難しい。休み休みの入浴になった。脱衣場の外に水飲み場があって、露天風呂からもすぐに飲めるので便利だ。

こうしてみると、よく考えられて作られたこだわりある浴場だったと思う。

温泉の成分

温泉分析書は脱衣場の壁に掲示されていた。

温泉 (処理水) 分析書
⬑ 2013年10月 天使の湯

温泉 (処理水) 分析書別表
⬑ 分析書別表

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: 天使の湯
湧出地: 大阪府羽曳野市野454番2
分析年月日: 2013年10月28日

湧出量 記載無し (動力揚湯)
pH 7.3
泉温: 41.1 ℃ (気温20.8℃)
泉質 ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 (高張性・中性・温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 16006.8 mg/kg
成分総計 16013.1 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
水素イオン (H+)0.1以下----
リチウムイオン (Li+)0.1以下----
ナトリウムイオン (Na+)3660.0159.2056.74
カリウムイオン (K+)19.800.510.18
アンモニウムイオン (NH4+)5.300.290.10
マグネシウムイオン (Mg2+)134.0011.033.93
カルシウムイオン (Ca2+)2180.0108.7938.77
ストロンチウムイオン (Sr2+)25.100.570.20
アルミニウムイオン (Al3+)0.1以下----
マンガンイオン (Mn2+)2.000.070.02
鉄 (II) イオン (Fe2+)0.1以下----
鉄 (III) イオン (Fe3+)0.1以下----
陽イオン計6034281100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)0.1以下----
塩素イオン (Cl-)9800.0276.4299.49
臭素イオン (Br-)17.000.210.08
ヨウ化物イオン (I-)0.1以下----
硫化水素イオン (HS-)0.1以下----
硫酸イオン (SO42-)0.700.010.00
亜硝酸イオン (HNO2-)0.1以下----
硝酸イオン (NO3-)1.500.020.01
リン酸水素イオン (HPO42-)0.400.010.00
炭酸水素イオン (HCO3-)72.001.180.42
炭酸イオン (CO32-)0.1以下----
陰イオン計9892278100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタ亜砒酸 (HAsO2)0.1以下--
メタケイ酸 (H2SiO3)44.800.57
メタホウ酸 (HBO2)36.100.82
非解離成分計80.901.39
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)6.300.14
遊離硫化水素 (H2S)0.1以下--
溶存ガス成分計6.300.14
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.000.00
総水銀 (Hg)0.00005 mg 以下--
銅イオン (Cu)0.05未満--
鉛イオン (Pb)0.01 mg 以下--
カドミウムイオン (Cd)0.01 mg 以下--
亜鉛イオン (Zn)0.020.00
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。

天使の湯 - 湯花草子

成分総計は 16,013 mg/kg で、そのうち 13,460 mg/kg が食塩成分。惜しくも強塩泉にはなれなかった。

陽イオンはナトリウムイオンが 56.74 mval%、カルシウムイオンが 38.77 mval% でほとんどを占めている。残りはマグネシウムイオンが 3.93 mval。陰イオンは 99.49 mval% が塩化物イオンで圧倒的。

入浴で知覚することはできないが、メタほう酸が 36.10 mg/kg と地味に多い。

せっかくだから、近くにある松原天然温泉と成分を比較してみたところ、成分総計は及ばないものの、成分の構成がかなり似ているようだ。松原天然温泉では陽イオンでナトリウムイオン 55.27 mval%、カルシウムイオン 35.74 mval%。陰イオンは塩化物イオンが 99.34 % もある。松原天然温泉は 1,500 m の掘削で、基盤岩から上がってきた熱水が、大阪層群最下部に流れてきた地下水と混合して湧くと言われている。ただの古代海水ではないということだ。カルシウム、カリウムがやや多めになるのが、このタイプの温泉の特徴とされていて、華の湯も同じ条件を満たすようだ。

松原天然温泉 - 湯花草子


  1. 大阪府/温泉調査について ↩︎