宿泊, 1回目, 晴れ, 2020年度中52湯目
新潟県で三川温泉 湯元館で入浴した後、福島県の喜多方より少し北にある熱塩温泉の「ふじや」へやって来た。熱塩温泉は昔、仙台から原チャで走ってきて共同浴場で入浴した、個人的に思い出のある温泉だが宿泊するのは初めて。大きな観音像に見守られながら入浴する「観音風呂」はインパクトある浴槽だった。泉質は陸地なのに塩辛い温泉が湧く珍しいもので、長野県の鹿塩温泉の仲間と考えられており見逃せない温泉である。
今回は宿泊だったが、時間的な都合でいつも通り温泉についてのみ書く。
施設・温泉概要
所在地: 福島県喜多方市熱塩加納町熱塩字熱塩甲807
Web: 帰郷のお宿 ふじや
日帰り入浴: 可 13:00-17:00 (受付16:30まで)
宿泊: 可 6,636円-
源泉名: 熱塩温泉
湧出地: 福島県喜多方市熱塩加納町熱塩字熱塩甲808−2
湧出量: 138 ℓ/分 (動力揚湯)
泉温: 64.3 ℃
pH: 6.4
成分総計: 11,418 mg/kg
泉質: ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 (高張性・中性・高温泉)
旧泉質名: 食塩泉 / 含塩化土類食塩泉
一番良い浴槽の温泉利用方法:
加温 | 加水 | 循環 | 消毒 |
---|---|---|---|
無 | 無 | 無 | 無 |
650年前に発見された温泉
熱塩温泉は福島県の喜多方から北へ約8km、押切川の流れる会津盆地北端に位置する高森山の麓にある。開湯は1375年 (永和元年) 7月、曹洞宗の和尚である源翁心昭が発見したという。当地にはそれ以前より真言宗の慈眼寺があったが、曹洞宗の示現寺として再興し、現在も熱塩温泉内にある [1]。温泉は元々、岩の隙間から64℃の湯が自噴していたもので、明治期には大きな旅館が7軒もあったという [2]。付近には37℃の少し温い目洗湯という源泉も存在した。現在の温泉は動力揚湯によるものが、温度、泉質ともにかつての自噴泉と同様の湯のようだ。旅館は5軒で山形屋 (42室)、ふじや (19室)、ゆもとや (16室)、笹屋本館 (10室)、ますや旅館 (5室) がある。ふじやの創業は1935年 (昭和10年) で、現社長の祖父母らが始めた[3]。
⬑ 熱塩の温泉街の一番奥にふじや
⬑ 時期のためか空いていた
⬑ 泊まった部屋の窓から見る、足湯 (手前) と示現寺 (奥)
⬑ 浴場は本館2階
⬑ 客室の廊下は新しめになっている
⬑ 場所によってはレトロ感もあり
⬑ 浴場に向かう
⬑ 男女浴場は入替式、この時間は男が観音風呂、女が壁画風呂
⬑ 細長い脱衣場
⬑ 「天然温泉100%」!!
"ありがたさ" も100%の観音風呂
浴場は観音風呂と壁画風呂があり、時間帯での男湯、女湯が入れ替わる。いずれも使っている源泉や、温泉の使用方法は同じである。名物は観音風呂で大変 "ありがたい" 浴槽である。その理由は高さ2mを越える大きな観音像が浴槽の真ん中に鎮座しているからだ。
⬑ 浴室はまるで観音堂
⬑ 観音様が浴槽を見下ろす
⬑ 伽藍のような浴室
浴槽は20人以上が余裕で入浴できる大きさ。誰とも会わなかったので常に貸切で入浴した。観音像の足下に台座があり、湯口になっている。
⬑ 台座イコール湯口
⬑ 台座の前面からトポトポと浴槽に注ぐ
⬑ 凸型の台座を湯が流れる
⬑ 背後の壁面から突き出た塩ビパイプが新湯を投入
湯口から流れ出す湯は熱く、45℃程度。浴槽に注ぐ湯量は多くなく、大きな浴槽を満たすにはかなりの時間がかかりそうだ。温度調整のために湯量を絞っているだけで、初回に湯を張るときはもっと湯量があるのかもしれない。湯は浴槽の縁全体から少しずつオーバーフローしていた。せっかくなので浴槽の縁に横たわってトド寝を試みたものの、うまくいかず。背中は熱いのに腹は冷えるので寝られなかった。
浴槽の温度は43℃程度。泉質もあって湯は熱く感じて長湯は難しいが、はじめ身体が温まるまでは意外と時間がかかった。入浴後は汗が止めどなく流れ続けるのでバスタオルがとても役に立った。
⬑ 浴槽は湯気で霞み幻想的
他の浴感はこの後、壁画風呂のコーナーに合わせて記載する。
古代海水とは違った味わい
観音風呂に入浴した次の朝、男女浴場が入れ替わり、今度は壁画風呂に入浴した。
⬑ 脱衣場は少し小さくなった
⬑ 観音風呂と同じ「天然温泉100%」
⬑ 窓があって明るい壁画風呂
壁画風呂は観音風呂よりもやや小さく、しかしそれでも10人強が入浴できる大きさで長方形の形状。浴槽内はタイル張り。短辺側に湯口があって、その上に壁画がある。小さなタイルをモザイク状に並べて描かれており、観音像ほどインパクトは無いが、これはこれで芸術的。
⬑ 入浴しながら観音壁画を仰ぐ
⬑ 実は浴室入口側にも壁画がある
湯口は素朴な塩ビパイプを花崗岩の石版で囲ったもの。パイプからは透明な湯がジョロジョロと注がれている。石版の上にはコップが置かれていた。
⬑ 入浴しながら湯口を観察する
⬑ 湯口周りは赤茶に染まり存在感がある
⬑ 少し石膏も析出
湯の色は、塩スープ色、淡く白いうぐいす色の半透明。見る角度を浅くすると緑成分が多くなって、うぐいす色が濃くなる。浴槽の底はぼやけて見えた。湯口の周辺は濃く赤茶けていて、物の輪郭が曖昧になっている。浴槽縁の一部には少しだけボコボコの析出もあった。浴槽の底には茶色い粉のような沈澱も微かに見られた。
⬑ 湯を真上から覗く
飲んでみると濃い食塩スープの味。塩辛い鹹味のように感じるが、いわゆる古代海水系とはどうも異なり、雑味が少なく素直でストレートな苦味があった。マグネシウムイオンが少ないせいだろうか。匂いは塩スープの香りだが、よく嗅ぐ古代海水系のものと比べシンプルな印象。分析書には土臭と記載されていた。そういう解釈もありそうだ。肌触りは特に無い。
温泉の成分
温泉の成分は、脱衣場に掲示がある他、公式ページにスキャンしたものが掲載されている。
⬑ 測定結果と鉱泉限界値対照表 このフォーマットは初めて見た
⬑ 別表
⬑ 昭和26年の温泉分析表 炭酸水素イオンが今より多く計測されているせいで、含土類食塩泉に分類されている。昔の分析ってなぜか炭酸水素イオンが多くなっていることが多い気がする
以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。
源泉名: 熱塩温泉
湧出地: 福島県喜多方市熱塩加納町熱塩字熱塩甲808−2
分析年月日: 平成20年1月8日
湧出量 138 L/分 (動力揚湯)
pH 6.4
泉温: 64.3 ℃ (調査時における気温2.9℃)
泉質 ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 (高張性・中性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 11406 mg/kg
成分総計 11418.9 mg/kg
温泉の成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
リチウムイオン (Li+) | 10.50 | 1.51 | 0.79 |
ナトリウムイオン (Na+) | 2917.0 | 126.88 | 66.25 |
カリウムイオン (K+) | 229.40 | 5.87 | 3.06 |
アンモニウムイオン (NH4+) | -- | -- | -- |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 14.70 | 1.21 | 0.63 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 1104.0 | 55.09 | 28.76 |
ストロンチウムイオン (Sr2+) | 28.00 | 0.64 | 0.33 |
アルミニウムイオン (Al3+) | 1.90 | 0.21 | 0.11 |
マンガンイオン (Mn2+) | 0.90 | 0.03 | 0.02 |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 2.50 | 0.09 | 0.05 |
鉄 (III) イオン (Fe3+) | -- | -- | -- |
亜鉛イオン (Zn2+) | 0.10 | 0.00 | 0.00 |
陽イオン計 | 4309 | 192 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 3.10 | 0.16 | 0.08 |
塩素イオン (Cl-) | 6422.0 | 181.14 | 94.51 |
臭素イオン (Br-) | 23.00 | 0.29 | 0.15 |
ヨウ化物イオン (I-) | 1.40 | 0.01 | 0.01 |
水酸イオン (OH-) | -- | -- | -- |
硫化水素イオン (HS-) | -- | -- | -- |
チオ硫酸イオン (S2O32-) | -- | -- | -- |
硫酸イオン (SO42-) | 375.30 | 7.81 | 4.07 |
亜硝酸イオン (HNO2-) | -- | -- | -- |
硝酸イオン (NO3-) | -- | -- | -- |
リン酸水素イオン (HPO42-) | -- | -- | -- |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 137.30 | 2.25 | 1.17 |
炭酸イオン (CO32-) | -- | -- | -- |
メタ亜砒酸イオン (AsO2-) | -- | -- | -- |
メタホウ酸イオン (BO2) | -- | -- | -- |
陰イオン計 | 6962 | 192 | 100.00 |
(3) 遊離成分
非解離成分:成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタ亜砒酸 (HAsO2) | 0.80 | 0.01 |
メタケイ酸 (H2SiO3) | 80.80 | 1.03 |
メタホウ酸 (HBO2) | 53.10 | 1.21 |
非解離成分計 | 134.70 | 2.25 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 12.90 | 0.29 |
遊離硫化水素 (H2S) | -- | -- |
溶存ガス成分計 | 12.90 | 0.29 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
総水銀 (Hg) | 不検出 (0.0005未満 mg/kg未満) | -- |
クロム (Cr) | 不検出 (0.02未満 mg/kg未満) | -- |
鉛イオン (Pb) | 不検出 (0.001未満 mg/kg未満) | -- |
カドミウムイオン (Cd) | 不検出 (0.005未満 mg/kg未満) | -- |
微量成分計 | 0.00 | 0.00 |
下記にも掲載しました。
熱塩温泉 - 湯花草子
熱塩温泉は福島県の山側にあるのに、塩辛い温泉が湧出している。この理由はいくつかの考え方があるようで
- 東北の奥羽山脈が海底にあった時代に堆積した火山噴出物がやがて圧力によって、海水を取り込みながら変質したグリーンタフ地層から湧出するため、というものと、
- プレートが地下深くに沈み込む過程で超臨界熱水になり、地下の岩石を溶かしながら湧出してくる、鹿塩温泉と同じ有馬型温泉であるというもの、
- 火山のマグマから地下深くで分岐した塩化物の成分を取り込んだというもの
があるようだ。もうちょっと勉強してまた入浴しに来たい。