晴れ 日帰り 1回目

春分の日、土日を合わせた3連休に自由行動できる機会に恵まれ、私は勇んで群馬県の湯巡りへ向かったのだった。

と言いたいところだが、不運にも初日の昼過ぎまで予定が入ってしまい、それから東京を発つこととなった。環七の渋滞を脱し、関越自動車道を走り抜け、金島温泉 富貴の湯に到着したのは日暮れになってからであった。まあ玉村のキャンプ場にテント設営したりもしたが。

金島温泉 富貴の湯は渋川市の北部にある日帰り入浴施設である。
落ち着いた雰囲気の建物と、薄く緑がかって金気臭の香る湯は、湯巡りのテンションをほどよく高めてくれた。

地理と歴史

日本最長の大河川である利根川は、遠く千葉県の河口から群馬県の高崎までは、概ね東北東の方角に遡ることができる。高崎を過ぎると真北へ向かい、渋川、沼田、水上を経て源流域に入っていく。利根川沿いには白井温泉、上牧 (かみもく) 温泉、奈女沢温泉、水上温泉、谷川温泉、湯檜曽温泉、宝川温泉、湯の小屋温泉など、数多くの温泉地が存在している。

渋川の北部では東より吾妻川が利根川に合流している。吾妻川は群馬県最長の川で、群馬県を横断して嬬恋村の長野県境付近から流れてきている。流域には金島温泉、木の間温泉、根古屋城温泉、小野上温泉 (旧塩川温泉)、あづま温泉、岩櫃城温泉 (閉館)、吾妻峡温泉、松の湯温泉、川中温泉、薬師温泉、川原湯温泉、林温泉、半出来温泉、つま恋温泉、嬬恋温泉 (閉館)、嬬恋高原温泉、新鹿沢 (かざわ) 温泉などやはり多数の源泉がある。さらに吾妻川には四万川、(沢渡川)、白砂川、万座川、鹿沢川が合流するので、それらの流域には……とここで止めておく。

金島温泉は、吾妻川側で利根川との合流地点に最も近く、いわば温泉天国の入口に位置している。また、関東平野の北西端にあるとも言うことができる。高崎や前橋からもすぐ到達できるので便利な場所に位置している。

また渋川で最も有名な温泉といえば伊香保温泉だ。金島温泉はその4km北東にあり、泉質も割と似ていると言われている。伊香保温泉は6世紀頃に榛名二ツ岳の噴火で湯が湧き出したとされているが、金島温泉が同じ成因かはわかっていなそうだった。

金島温泉の向かいには生コンクリート工場が見え、なかなか面白い景観。実はこの光菱生コンクリート渋川工場にて工場で利用するための水を得るため井戸を掘削したところ、温泉が湧き出たため、この湯を使い2005年に温泉施設を開始したのだそうだ。その後、2015年に改装し現在に至る。元々は社員や家族に対する福利厚生を目的として開始したとのことだが、日帰り入浴も積極的に受け入れている。実にありがたい。

施設

金島温泉 富貴の湯 正面
↑写真: 金島温泉富貴の湯 正面

施設は日帰り入浴専門。浴場と休憩室だけ (と和室2部屋) で大きくない。施設内は素朴かつ清潔なつくりで、福利厚生の一環だからか、施設公営のような雰囲気もあった。休憩スペースにはいくつかの机・椅子と、テラス席またはコンビニのイートインみたいな空間がある。この空間の窓から外を眺めていると「新幹線の光跡が流星の如く」見えるらしい。今回は待たなかったのでどんな感じに見えるのか不明だが、通過時刻と合っていれば眺めてみたら面白いかもしれない。

施設に入って正面に受付があり、左手に歩くと休憩室。
休憩室からすぐに男女別の脱衣場が面している。

金島温泉 富貴の湯 休憩室
写真: 休憩室の机から

金島温泉 富貴の湯 暖簾
↑写真: 脱衣場入口の暖簾

脱衣場は4〜5人が着替えているとスペースがあまり無い感じで狭い。その奥に内湯浴室に通じる扉がある。

内湯に入ると、左手にシャワー、右手に内湯の浴槽。
シャワーは6つほどあったが全て埋まっていた。結構混むのかもしれない。
浴槽は縦に細長く、一方の短辺が狭い舟形をしている。4人が同時に入浴できる程度の大きさで、広くないため、地元とおぼしき人達が入って満員になっていることが多かった。右手一番奥の角に湯口が設置されている。

内湯の浴室の一番奥はまた扉があり、その先は露天風呂。露天風呂には浴槽の他に、シャワーが2つ設置してある。今回ここを訪ずれたのは初めてだが、内湯に入った時点で露天風呂にもシャワーがあることを直感していた。露天風呂は湯治場みたいな風情がややあり、こういう雰囲気のところでは露天風呂にシャワーがあることが多い気がする。内湯側がすべて埋まっていたため、私はこちらのシャワーを利用して体を洗ったが、気温がまだ低かったので他に使っている人はほぼいなかった。

浴槽は正方形に近い形状をした岩風呂。外見は8人ほどが入浴できそうに見えるが、浴槽の中に岩が配置してあるため、実際には6人も入れば一杯になりそうだった。湯口は浴槽右手手前にあり、バチャバチャと加温湯が注がれていた。

温泉の利用方法と浴感

館内の玄関の掲示に温泉の利用方法が丁寧に描かれている。文章と図を併せて大変情報量が多く嬉しい。

金島温泉 富貴の湯 設備
↑ 写真: 情報を公開します

■ 当温泉は、【天然温泉】です。
泉源から毎分90リットル〜100リットル湧き出している33.1℃の温泉を約9℃温めて使用しております。
■ 当温泉は、【加水】しておりません。
■ 当温泉は、【かけ流し】です。
浴槽の温泉はそのまま廃棄します。従って消毒のための塩素等は一切使用していません。
■ 当温泉は、【清潔第一】です。
浴室や浴槽は1日一回営業終了後清掃し、常時清潔な温泉を味わえるように温泉を総入れ替えしています。又、レジオネラ菌等の検査を定期的に行っております。入浴剤は入れていません。

説明の通り、加温有り、加水無し、循環無し、消毒無しで温泉を利用している。図の通り、加温は浴槽に注がれる前と、浴槽内の2段階で調整しているとのことだ。

温泉は地下930メートルの掘削自噴らしい。930メートル掘削して源泉温度は33.1℃なので、火山に囲まれているのに、この金島温泉の地下はそれほど地熱が高くないようだ。この泉温なら源泉水風呂もあれば最高だが、湧出量はそこまで多くないため無くても仕方ないと思う。

加温された浴槽の湯の温度は、内湯が41℃程度、露天風呂が40℃程度。ぬるめの調整である。これくらいがゆっくり入浴できるので良い。

浴感については、内風呂、露天風呂ともに大体同じ。

まず視覚について、湯の色は茶色い濁りで薄く緑がかっている。浴槽の底は見えないくらいの濁りがあった。湯口まわりにはトゲトゲ状に析出物が付着。匂いは岩塩系の塩化物臭で、僅かに金気臭が混じった。微妙に独特の匂いがあり、入浴後に手を嗅ぐと焼いたウインナーのような匂い?がした。飲んで見ると弱い塩味があるが、基本的にはお湯の味。あまりクセが無く飲み易いタイプだ。露天風呂での音は静かで、湯口から流れる湯とオーバーフローの音だけがある、よい空間。身体の温まりはほどほどで長湯が可能。

最後に施設正面の外に飲泉所があって当然飲んでみた。少しの鉄味があり、やはり手からは特徴的な匂いがした。臭素が皮膚の何かと反応しているのだろうか?

温泉の成分

金島温泉 富貴の湯 温泉分析書
↑写真: 金島温泉富貴の湯について

金島温泉 富貴の湯 入浴上のご注意
↑写真: 入浴上のご注意

館内の掲示の他、公式Webページにも温泉分析書が掲載されている。
館内の方は2015/8/7のもので改装時に再分析したようだ。Webページは2008/9/16のものなので、館内の方が新しい。

下記の情報は、掲示に書かれた分析書の情報を使い、分析書のミリバル等の値は自前のソフトウェアで計算した。

源泉名は「金島温泉 富貴の湯」、湧出地は渋川市川島字沼田179-1。
分析年月日は2015/8/7、湧出量 160 L/分 (掘削自噴)、pH 6.8、泉温34.7℃、成分総計l2555mg/kg、泉質はカルシウム・ナトリウム-塩化物温泉。

温泉1kgあたりに含まれる成分量は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
ナトリウムイオン (Na+)415.0018.0548.60
カリウムイオン (K+)11.300.290.78
アンモニウムイオン (NH4+)------
マグネシウムイオン (Mg2+)0.750.060.16
カルシウムイオン (Ca2+)373.0018.6150.11
ストロンチウムイオン (Sr+2)------
バリウムイオン (Br-)------
アルミニウムイオン (Al3+)<0.05< td>----
マンガンイオン (Mn2+)0.750.050.13
鉄 (II) イオン (Fe2+)2.200.080.22
陽イオン計80337.1100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)<0.1< td>----
塩素イオン (Cl-)1215.034.2783.95
臭素イオン (Br-)3.600.050.12
ヨウ化物イオン (I-)0.900.010.02
硫化水素イオン (HS-)------
硫酸イオン (SO42-)149.003.107.59
炭酸水素イオン (HCO3-)207.003.398.30
陰イオン計157640.8100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)111.001.42
メタホウ酸 (HBO2)7.200.16
非解離成分計118.201.58
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)0.000.00
遊離硫化水素 (H2S)57.701.69
溶存ガス成分計57.701.69
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.01--
総水銀 (Hg)検出せず--
銅イオン (Cu)検出せず--
微量成分計0.000.00

陽イオンは、カルシウムイオン、ナトリウムイオンがそれぞれ約50%で拮抗している。鉄 (II) イオンが2.20mg/kgあり、多くは無いが十分知覚できる量である。湯がやや緑がかって見えるのもこの鉄イオンの効果だろうか。

陰イオンは塩素イオンが大半だが、硫酸イオン、炭酸水素イオンも少なからず含まれている。浴槽のトゲトゲは炭酸カルシウム、硫酸カルシウムの析出物だと思われる。臭素イオン3.60mg/kgはかなり多い方で、独特の匂いはこのためと推測。

他、メタケイ酸100mg/kg越え、メタホウ酸5mg/kg越え、さらに遊離硫化水素まであり、お得感のある温泉成分だ。

参考資料