晴れ 日帰り 1回目
稲村ヶ崎は神奈川県の鎌倉の西側にある岬。かれこれ有名で、私が地方にいて東京など目にしたことも無いときから、何故かわからないが名前だけは知っていた。稲村ヶ崎温泉は稲村ヶ崎の付け根あたりにある温泉で岬のすぐ近くである。こういうところにある温泉なんて温泉の質に興味の無い人向けだから温泉目当てでは楽しめない、と行く前は勝手に思っていたのだが、実際に入浴してみると期待を良い方に裏切る素晴しい温泉だった。また行ってみたい。
地理と周辺の温泉
稲村ヶ崎温泉の源泉は地下80mから湧出している。2000年にレストランで雑用水用に井戸を掘削したところ、茶褐色の水が湧いたため、それを2001年に分析したところ、温泉の条件を満たすことが判明したのだという[1][2]。街の温泉めぐりさんによると、40mの地下から湧出すると記述があるが、現在の温泉分析書では掘削深度80mとある。より深く掘り直したのだろうか?ちなみに40mの掘削というのはかなり浅い方。温泉を含んだ地層が地表すれすれまで広がっていると思われる。いつの地層にあたりそうか調べたが、いまいちはっきりとした情報を満つけることができなかった。
茶褐色の温泉といえば、蒲田、川崎、横浜などの黒湯温泉が有名。稲村ヶ崎温泉はそちらと比べると色が薄めであるが、同じタイプの温泉と想像する。
付近の温泉施設には、稲村ヶ崎から少し東側の藤沢に栄湯湘南館という銭湯がある。地下38mから湧出する温泉であるが、色は無く無色透明でメタ珪酸による温泉である。
江ノ島には江ノ島アイランドスパがあり、これは1500mの大深度掘削により古代海水を汲み揚げた温泉。
施設
稲村ヶ崎温泉はレストラン「メイン」に付属に併設された温泉施設。国道134号線を進んでくると、稲村ヶ崎の根元、内陸側にある。洒落た外観と、レストランと大きく書かれた看板が目に入るため、温泉とは気付かずにスルーしてしまいがちである。2017年9月にリニューアルしたとのこと。
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 外観
レストランの2階が浴場である。ただし、「RESTAURANT MAIL」の屋号の上には何も無く、その左側、並んだ斜めの窓の向こうが内湯と露天風呂。
温泉の紹介も外に掲示されているので全文引用しておく。
稲村ヶ崎温泉の泉質は、ナトリウム炭酸水素塩冷鉱泉です。殺菌効果の高い松の有機質成分を含む「モール泉」で、平成前期までは2か所しか確認されていなかった貴重な温泉資源のひとつ。当温泉は、炭酸水素イオンとメタケイ酸が温泉法に定める基準値を大きく上回っており、ここまで高濃度なものは全国でも大変珍しく、注目を浴びています。疲労回復、神経通、腰痛、冷え性などの改善に役立ち、デトックス効果やクレンジング&美肌効果には定評があります。
稲村ヶ崎海岸の砂浜は鉄分が多く含まれており、鎌倉時代にはこの鉄を使って刀剣が作られたといわれています。また金鉱の跡であるともいわれ稲村ヶ崎温泉水にも砂金が混じっていることがあります。湯色も褐色がかった黄金色、黄金の湯の名前の由来です。海の目の前にあるにも関わらず全く海水を含んでいないため、湯上りもさっぱりとした心地よい泉質です。絶景を一望しながら、稲村ヶ崎温泉時間をおたのしみください。
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 紹介
「殺菌効果の高い松の有機質成分」って何だろう、わからない。松……?次の「(モール泉は) 平成前期までは2か所しか確認されていなかった」というのは、北海道の十勝川温泉とドイツ連邦共和国のバーデン=バーデンの2か所でのみ確認されていた[3]。今や東京都大田区や全国あちこちで入浴できるのでそこまで珍しいわけでもない。もちろん、温泉自体が大変ありがたい貴重な資源であることには変わりない。「炭酸水素イオンとメタケイ酸が…略…ここまで高濃度なものは全国でも大変珍しく」についてもちょっと厳しいところがあると思うが、温泉自体が貴重なものだからセーフ。
営業時間は9:00〜21:00 (受付20:00まで) で、短め。
利用料金は1,500円でかなり強気な価格。施設としては普通の公衆浴場程度でしかないにも関わらず、1,000円を大きく上回る設定は、さすが湘南だと思う。
13歳未満は大浴場の利用禁止で、家族風呂しか利用できないとのこと。
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 営業案内
その家族風呂は1階の奥にあった。家族風呂は5室あり「金山の湯」「極楽の湯」は入場料1,600円に加え、1人2,500円の利用料金が必要。「壱の湯」「弐の湯」「参の湯」は入場料1,600円は変わらないが、1人1,000円なので少し安い。貸切も良いが、大浴場にある源泉冷鉱泉掛け流し浴槽が家族風呂には無いので、大浴場も利用していきたいところだ。
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 営業案内
入浴券は1階の券売機で購入し、すぐそばのフロントで手渡しする。
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 券売機
落ち着いた雰囲気の階段を上って2階へ。
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 券売機
その先、脱衣場の入口は本記事の見出し画像の通り。
脱衣場と浴室は常に人がいたので写真は撮影せず、ここからは文章のみ。
温泉の利用方法と浴感
浴場は男女別で、それぞれに内風呂、露天風呂がある。
内風呂には12人サイズの大きな主浴槽と、その片隅に2人サイズの水風呂。大きな窓が半分開放されており景色がよい。かなり風も吹き込んでくるので換気も大変良く、少し寒いほどだった。相模湾と江ノ島と富士山を一目で眺める景色は実に見事である。
露天風呂には5人サイズの浴槽が1つ。天井部が抜けているが、窓側は柵で目隠しされているため、内湯よりも景色が望めない。道路沿いの住民への配慮だろうか。
内風呂大浴槽と露天風呂は熱い湯が溜められており、温泉の利用方法は加温有り、加水無し、循環有り、塩素消毒有り。湯口からの投入もオーバーフローも十分にあるが、探すと浴槽内の吸入および熱い湯の注入もあることが確認できた。塩素消毒の匂いはしない。
水風呂は源泉冷鉱泉の掛け流しである。湯口から冷たい温泉が浴槽に注がれている。何らかの条件を満たしたときのみ温泉が出てくる仕組みのようで、常に投入されているわけではない。時間的には半分くらいだろうか。そのため、あまり投入量は多くないと思われる。掛け湯も源泉のようだった。
湯の見た目は、茶褐色で透明度5〜10cm。浴室が暗くてはっきりとわからなかったが、水風呂はなぜか30cm以上の見通しがあった気がする。
匂いは無し。味も感じられず。肌触りははっきりとしたツルツル感があった。
身体の温まりもなかなか強く、湯から上って稲村ヶ崎駅まで500m歩く間、風が強かったが薄着でも全然大丈夫だった。
個性はあまり無いがすっきりとして長湯し易い湯である。景色を見ながらゆっくりと入浴することができる。
それでいて感触や、浴後の持続力はあるので満足感は高かった。
温泉の成分
温泉分析書は1号源泉と2号源泉のものが掲示されていた。(たぶん。分析書の下部に1号、2号と記されているのでそうだと思った。) 温泉成分の傾向は大体同じだが、せっかくだから2つ分書き起しておく。
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 温泉分析書 (1号源泉)
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 温泉の成分、禁忌症及び入浴上の注意事項掲示証 (1号源泉)
↑ 写真: 稲村ヶ崎温泉 温泉分析書 (2号源泉)
1号源泉
源泉名は鎌倉温泉 (源泉名: 稲村ヶ崎温泉)、湧出地は神奈川県鎌倉市稲村ヶ崎1-16-13 (敷地内)。
分析年月日は2016.3.31、湧出量 41L/分 (動力揚湯・掘削深度80m)、pH 8.7、泉温 14.0℃、溶存物質 (ガス性のものを除く) 1809 mg/kg、成分総計 1812mg/kg、泉質は「ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉 (アルカリ性・低張性・冷鉱泉)。
成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
リチウムイオン (Li+) | 0.02 | 0.00 | 0.00 |
ナトリウムイオン (Na+) | 484.00 | 21.05 | 97.00 |
カリウムイオン (K+) | 11.80 | 0.30 | 1.38 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 1.61 | 0.13 | 0.60 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 3.99 | 0.20 | 0.92 |
ストロンチウムイオン (Sr+2) | 0.03 | 0.00 | 0.00 |
アルミニウムイオン (Al3+) | 0.01 | 0.00 | 0.00 |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 0.57 | 0.02 | 0.09 |
マンガンイオン (Mn2+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
亜鉛イオン (Zn2+) | 0.02 | 0.00 | 0.00 |
陽イオン計 | 502 | 21.8 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 0.61 | 0.03 | 0.13 |
塩素イオン (Cl-) | 152.00 | 4.29 | 18.76 |
臭素イオン (Br-) | 0.54 | 0.01 | 0.04 |
硫酸イオン (SO42-) | 59.90 | 1.25 | 5.47 |
硝酸イオン (NO3-) | 9.34 | 0.15 | 0.66 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 964.00 | 15.80 | 69.09 |
炭酸イオン (CO32-) | 37.20 | 1.24 | 5.42 |
メタケイ酸イオン (HSiO3) | 5.80 | 0.08 | 0.35 |
メタホウ酸イオン (BO2) | 0.68 | 0.02 | 0.09 |
陰イオン計 | 1230 | 22.9 | 100.00 |
(3) 遊離成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタケイ酸 (H2SiO3) | 58.60 | 0.75 |
メタホウ酸 (HBO2) | 2.19 | 0.05 |
非解離成分計 | 60.79 | 0.80 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 3.02 | 0.07 |
溶存ガス成分計 | 3.02 | 0.07 |
↑ 表: 自前のソフトで計算。開発中のものであるため、少し本家と値が異なる。
2号源泉
源泉名は鎌倉温泉 (源泉名: 稲村ヶ崎温泉 黒湯)、湧出地は神奈川県鎌倉市稲村ヶ崎1-16-13 (敷地内)。
分析年月日は2016.6.17、湧出量 45L/分 (動力揚湯・掘削深度80)、pH 8.3、泉温 20.8℃、溶存物質 (ガス性のものを除く) 1909mg/kg、成分総計 1918mg/kg、泉質は「ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉 (アルカリ性・低張性・冷鉱泉)。
成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
ナトリウムイオン (Na+) | 503.00 | 21.88 | 97.11 |
カリウムイオン (K+) | 12.50 | 0.32 | 1.42 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 1.60 | 0.13 | 0.58 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 3.75 | 0.19 | 0.84 |
ストロンチウムイオン (Sr+2) | 0.03 | 0.00 | 0.00 |
アルミニウムイオン (Al3+) | 0.01 | 0.00 | 0.00 |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 0.16 | 0.01 | 0.04 |
マンガンイオン (Mn2+) | 0.01 | 0.00 | 0.00 |
亜鉛イオン (Zn2+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
陽イオン計 | 521 | 22.5 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 0.62 | 0.03 | 0.13 |
塩素イオン (Cl-) | 146.00 | 4.12 | 17.39 |
臭素イオン (Br-) | 0.48 | 0.01 | 0.04 |
硫酸イオン (SO42-) | 59.90 | 1.25 | 5.28 |
硝酸イオン (NO3-) | 2.40 | 0.04 | 0.17 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 1077.0 | 17.65 | 74.50 |
炭酸イオン (CO32-) | 16.60 | 0.55 | 2.32 |
メタケイ酸イオン (HSiO3-) | 2.24 | 0.03 | 0.13 |
メタホウ酸イオン (BO2) | 0.37 | 0.01 | 0.04 |
陰イオン計 | 1306 | -23.69 | 100.00 |
(3) 遊離成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタケイ酸 (H2SiO3) | 56.70 | 0.73 |
メタホウ酸 (HBO2) | 2.99 | 0.07 |
非解離成分計 | 59.69 | 0.80 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 8.84 | 0.20 |
溶存ガス成分計 | 8.84 | 0.20 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
銅イオン (Cu) | 0.00 | -- |
鉛イオン (Pb) | 0.00 | -- |
カドミウムイオン (Cd) | 0.00 | -- |
総砒素 (As) | 0.000 | -- |
総水銀 (Hg) | 0.000 | -- |
微量成分計 | 0.00 | 0.00 |
↑ 表: 自前のソフトで計算。開発中のものであるため、参考程度に。
陽イオンはナトリウムイオンが支配的。陰イオンはやや複雑。まず炭酸水素イオンが最も多いため、重曹泉の特徴を示しているようだ。ぬるぬるした感触がそれ。ただし黒湯の色が黒いのは成分そのものよりも、浮遊する腐植質によるものらしい。この分析書では有機物 (COD) がそれだと思う。ほか、塩化物イオンも多いが、硫酸イオンが 5% もあるのはやや珍しい気がする。成分総計も黒湯としては多め。どうも大田区や横浜あたりとは少し趣が異なっているようだ。