曇り時々雪 日帰り 1回目
飯坂温泉は福島県福島市の北西部にある温泉地。宮城県の鳴子温泉、秋保温泉と並び奥州三名湯にも数えられ、東北地方を代表する温泉である。
福島駅から近く、ローカル線の福島交通飯坂線に乗ればたったの20分で到着できる。福島駅は東北新幹線やまびこの停車駅であるから、新幹線で仙台や北東北へ移動する場合に途中下車で寄ることもでき大変便利。 今回も東京から地元の青森へ帰省する途中に立ち寄った。
このように東北新幹線の停車駅から気軽に立ち寄れる都合の良い温泉は当然ながらかなり限られている。飯坂温泉の他には、那須塩原の平地の温泉や、郡山の磐梯熱海温泉、大崎の鳴子温泉、七戸十和田駅の東八甲田温泉くらいだろうか。七戸十和田駅は駅前の東八甲田温泉の他にも、 タクシーで容易に到達できる範囲にいくつかの温泉があり、夢がある。今後開拓したいところだ。
飯坂温泉の地理
飯坂温泉は奥羽山脈の山形県境、宮城県境付近を源流とする摺上川 (すりかみがわ) 沿いにある。
飯坂温泉付近では摺上川の侵食により飯坂層という地層が露出しており、これは地学における新第三紀 中新世の地層である。この地層がつくられた時代は約2300万年〜500万年前であり、このときの東北地方は、現在の伊豆諸島のように大部分は海底にあって、北上山地や阿武隈山地だけが少し水面上に出ていた。奥羽脊梁山脈はまだ深さ1500mの海盆の底で海底火山として活動を行っており、このときの火山灰が固まって結晶化した堆積物は暗緑色や灰青色の凝灰岩となった。この岩石はグリーンタフと呼ばれており、東北地方に広く分布している。
飯坂温泉中心部の湯は主にこの飯坂層から湧出している。かつては自然湧出していたらしいが、現在は20m程度掘削しポンプによる動力揚湯により温泉を得ているようだ。
飯坂温泉の泉質は含食塩芒硝泉 (Na-SO4・Cl) や単純泉が主である。導専の湯もまさにその泉質。
飯坂温泉の歴史
古きは、2世紀頃に日本武尊が東北遠征の際に「佐波子湯」 に浸かり病を治したという伝説がある。
また、1006年頃に成立したとされる拾遺和歌集には「あかずして わかれし人のすむさとは さばこのみゆる 山のあなたか」(詠み人知れず) と詠まれている。(後述)
現在も数多くの温泉旅館の他、9つの共同浴場がある。共同浴場は以下の通り:
- 鯖湖湯 (湯沢分湯糟源泉)
- 波来湯 (波来湯分湯糟源泉)
- 切湯 (若竹分湯糟源泉)
- 導専の湯 (若竹分湯糟源泉)
- 仙気の湯 (若竹分湯糟源泉)
- 大門の湯 (大門分湯糟源泉)
- 十綱の湯 (大門分湯糟源泉)
- 八幡の湯 (八幡の湯源泉)
- 天王寺穴原湯 (富士屋源泉)
日本武尊が入浴したのは鯖湖湯とされ、飯坂温泉で最も歴史のある湯とされている。
天王寺穴原湯は飯坂温泉街から少し離れた場所にあり、泉質も少し異なる。湯が湧き出る地層もは飯坂層ではなく天王寺層になる。
今回入浴したのは、導専の湯、仙気の湯、十綱の湯の3つである。
仙気の湯、十綱の湯については次以降の記事で記録する。
施設
導専の湯は、鯖湖湯などがある飯坂温泉の中心部とは少し離れ、摺上川を十綱橋で渡った東側にある。橋を渡ったらそのまま坂を上り、ただ真っ直ぐ歩いていると右手に見つけることができる。駅からは波来湯に次いで2番目に使い共同浴場。
↑ 写真: 飯坂温泉 地図
施設の構造は、飯坂温泉で典型的な、入口が男女別になっているもの。本記事のトップ写真がそれだ。
営業時間は共同浴場共通で6:00〜22:00。かなり使える営業時間である。
入浴料金は200円。東北地方の温泉らしい素晴しい金額。
↑ 写真: 飯坂温泉 導専の湯 入浴券券売機
↑ 写真: 飯坂温泉 導専の湯 受付
浴室内部は、浴槽と小さなカランだけがあるシンプルな構造。
浴槽は長方形で2つに仕切られている。
手前が「温い湯」、奥が「熱い湯」と書かれていた。
2つの浴槽は構造的には何の違いも無く、間にある湯口から同じ量の熱い湯が浴槽に注がれていた。分けられているのは、単純に片側には加水を気軽にできるようにするための方法であると思われる。今回、奥の浴槽が地元民の手により加水されており、「熱い湯」の方がぬるく、「温い湯」の方がむしろ熱くなっていた。「熱い湯」は42℃くらいで、「ぬるい湯」は44℃くらいだったと思う。
湯の利用方法と浴感
温泉は加温無し、加水有り、循環無し、消毒無しで利用されている。水道の蛇口が浴槽の脇に設けられており、加水有無は利用者に委ねられている。
湯は完全なる掛け流しで、 注がれた湯と同じ量が浴槽壁側からオーバーフローしていた。新鮮さの感じられる湯で、よく入れ替わっているように思われた。
湯口から出る湯、浴槽の湯、ともに無色透明。
飲んでみると無味であるが、少し甘みのような知覚があった。匂いは無臭だが、ごく僅かな芳香があった。源泉は45℃程度あるので、手に掬うのは難しいが、我慢すればなんとか飲める程度の量を手の上に確保できた。
浴感に特徴は無いが、身体には比較的馴染むため、熱くても一度湯に浸かってしまえば穏やかに入浴できた。
成分
源泉名は「若竹分湯糟」。分析年月日は2011.11.21。湧出量は記載無し (動力揚湯)、pH 8.7、泉温60.2℃、溶存物質 (ガス性のものを除く) 789.4mg/kg、成分総計 789.4mg/kg、泉質名はアルカリ性単純温泉 (低張性アルカリ性高温泉)。
成分は以下の通り:
陽イオンは、
ナトリウムイオン (Na) 198.6mg/kg 8.64mval/kg 84.05mval%、
カルシウムイオン (Ca) 30.1mg/kg 1.50mval/kg 14.59mval%、
カリウムイオン (K) 4.8mg/kg 0.12mval/kg 1.17mval%、
以下略、
計233.7mg/kg 10.28mval/kg。
陰イオンは、
硫酸イオン (SO4) 321.1mg/kg 5.59mval/kg 63.11mval%、
塩素イオン (Cl) 92.8mg/kg 2.65mval/kg 25.00mval%、
炭酸水素イオン (HCO3) 55.0mg/kg 0.90mval/kg 8.49mval%、
フッ化物イオン (F) 4.7mg/kg 0.25mval/kg 2.36mval%、
以下略、
計477.7mg/kg 10.60mval/kg。
遊離成分は非解離成分は、
メタけい酸 (S2SiO3) 74.8mg/kg 0.96mmol/kg、
以下略、
計78.0mg/kg 1.03mmol。
溶存ガス成分は無し。
↑ 写真: 飯坂温泉 導専の湯 若竹分湯糟 温泉分析書
↑ 写真: 飯坂温泉 導専の湯 若竹分湯糟 温泉分析書別表
↑ 写真: 飯坂温泉 導専の湯 正しい温泉の利用法
若竹分湯糟は飯坂温泉の8ヶ所から湯を集めているらしい。その8源泉は以下の通り:
- 大門源泉 :福島県福島市飯坂町字大門22の先
- 筑前源泉 :福島県福島市飯坂町字筑前42番地先
- 一本松源泉:福島県福島市飯坂町字一本松8の先
- 新19号源泉:福島県福島市飯坂町字一本松10番1号地先
- 24号源泉 :福島県福島市飯坂町字一本松17の2
- 馬場源泉 :福島県福島市飯坂町字馬場20の1
- 八幡内源泉:福島県福島市飯坂町字八幡内32の先
- 公民館源泉:福島県福島市飯坂町字八幡8番地
どれも摺上川の西側の源泉なので、それを集めてここまで運んできているようだ。
温泉むすめ スタンプラリー
今回、温泉むすめのイベントが開催されていることに気付き、スタンプラリーの台紙をもらうためにわざわざ駅まで戻った。公衆浴場を7ヶ所訪問して判子をもらい、そのうち1ヶ所以上に入浴するとクリアファイルが進呈されるらしい。
元々3ヶ所は入浴しようと思っていたので、適当に歩いていれば自動的にクリア条件を満たすことになる。というわけで共同浴場巡りをしてきた。といっても入浴した3ヶ所以外は入口付近に吊るしてある判子を自分でつくだけである。
↑ 写真: 飯坂温泉観光協会
↑ 写真: 飯坂温泉 導専の湯と温泉むすめの飯坂真尋さん
仙気の湯は入浴したので次の記事に書く。
↑ 写真: 飯坂温泉 仙気の湯
↑ 写真: 飯坂温泉 鯖湖湯
八幡神社では本記事の冒頭に書いた拾遺和歌集の句についての解説がある。
鯖湖とはか何-。飯坂に住む人は、昔から考えていた。寛政十二年、信達の領地見廻りのため飯坂を訪れていた白河藩主松平定信 (楽翁) は、このことを聞き、古歌「さはこのみゆ」を書いて残された。文化十三年には、この古歌が石に刻まれ、歌碑が建立された。それが、この「鯖湖碑」である。碑が建立されるまでの経緯は、廣瀬典の「鯖湖碑陰記」によって知ることができる。
この「さはこのみゆ」は『拾遺和歌集』に載っていて「物名 (もののな)」という部立に分類されている。物名は事物を歌の中に隠し詠む一種の言語遊戯で、事物名は歌の中に直接表れない。歌の大意は「飽き足りない思いで別れたあの人の住む里は それではこの見える山の向こうにあるのかな。」と解釈すればいい。隠し詠んだ物名は「さはこのみゆ」である。これに「さはこの御湯」・「鯖湖の御湯」を充て、名湯を「鯖湖湯」としたのであろう。
つまり、西暦1000年以前よりさはこの湯と呼ばれて有名だったということだ。
↑ 写真: 飯坂温泉 鯖湖碑
八幡の湯は定休日だった。
↑ 写真: 飯坂温泉 八幡の湯
大門の湯は景色がよく、本当はここに入りたかったのだが、私の水分切れにより、湯を全力で楽しめないと判断し見送った。飯坂温泉は自動販売機やコンビニが少ないため、水分は早めに確保しておいた方がよい。
↑ 写真: 飯坂温泉 大門の湯
十綱の湯も入浴した。これは次の次の記事に書く。
↑ 写真: 飯坂温泉 十綱の湯
洋菓子屋も温泉むすめを推してアニメの聖地みたいになっていた。
↑ 写真: 飯坂温泉 パティスリーサワダ
切湯では導専の湯と同じ若竹分湯糟の湯を利用している。
↑ 写真: 飯坂温泉 切湯
最後に波来湯。 いつでも入れると思っているせいでまだ一度も入浴したことがない。
↑ 写真: 飯坂温泉 波来湯
↑ 写真: 飯坂温泉 波来湯分湯糟
温泉むすめには、もう少し温泉ファンに刺さる企画をやって欲しいものだ。