日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中67湯目

一日の自由時間を得たので山梨県の温泉へ入浴しに来た。ここまで 西山温泉 蓬莱館 (2020/11/3)奈良田温泉 白根館 (2020/11/3)奈良田の里温泉 女帝の湯 (2020/11/3)光源の里温泉 ヘルシー美里 (2020/11/3) と早川町の温泉を巡ってきたが、最後に帰り際、市内のフカサワ温泉で入浴した。

フカサワ温泉のある甲府盆地には数多くの温泉施設が存在している。昭和後期からの掘削により、地温で適温になった豊富な地下水が温泉として利用できるようになった、知る人ぞ知る隠れ温泉郷である。湯量が豊富で浴室全体に数センチもオーバーフローしている施設もあれば、炭酸泉でもないのに身体に泡が付く温泉もある。

フカサワ温泉は泡付きが大変強く、湯口周りの水中は気泡で白い靄がかかり、身体はすぐに泡だらけになった。湯は琥珀のような美しい色で、味・匂いも印象的で独特の強い金気がある。山梨の温泉巡りの締めに相応わしい、とても心地良い温泉だった。

西山温泉 蓬莱館 (2020/11/3)
時が止まったような静かな浴室で、自然湧出の新鮮な湯に浸かる「西山温泉 蓬莱館」
奈良田温泉 白根館 (2020/11/3)
食塩味、硫黄味、ガス臭、アンモニア臭、硫化水素臭を同時に味わう秘湯「奈良田温泉 白根館」
奈良田の里温泉 女帝の湯 (2020/11/3)
ほんのり香るタマゴ臭、土臭を浴びながら秘境「奈良田」の山並みを眺める「奈良田の里温泉 女帝の湯」
光源の里温泉 ヘルシー美里 (2020/11/3)
山梨県一の秘湯天国、早川町内でも最も含有成分量が多く、塩味、硫黄味と楽しめる「光源の里温泉 ヘルシー美里」

施設・温泉概要

所在地: 山梨県中巨摩郡昭和町西条1961−1
Web: 無し。代わりに フカサワ温泉/富士の国やまなし観光ネット 山梨県公式観光情報
日帰り入浴: 可 9:00-22:00
宿泊: 不可

源泉名: フカサワ温泉
湧出地: 山梨県中巨摩郡昭和町西条1961−1
湧出量: 200 ℓ/分 (動力揚湯)
泉温: 45.2 ℃
pH: 7.5
成分総計: 1455.8 mg/kg
泉質: ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
旧泉質名: 重曹泉 / 含食塩重曹泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

湯量豊富な甲府盆地に湧く温泉

フカサワ温泉は山梨県の昭和町にある日帰り入浴施設。甲府盆地にはその一般的なイメージとは裏腹に、多くの温泉施設が住宅地の中に点在している。フカサワ温泉の近隣にも、桜湯 (旧 国母駅前温泉健康ハウス)、草津温泉、湯殿館、竜王ラドン温泉、山口温泉、ホテル昭和、甲府昭和温泉ビジネスホテル、トータス温泉、遊亀温泉、ホテル湯王温泉、新遊亀温泉……等々、枚挙に暇が無いとはこのことだ。そして今挙げたものは全て非循環の掛け流しで温泉を使用している。掘削とはいえ、温泉郷と呼んでも差し支えない地域だ。少し離れると甲府北部の湯村温泉や、盆地北西部の山梨市あたりにも数多くの温泉が存在している。

なぜ火山が無いのにこんなにも温泉が豊富なのだろうか。漠然と盆地の底がお碗状になって温泉水が溜まっているんじゃないかと思っていたが、半分位当っていて、ちょうどこの一帯の地下に地下水が留まりやすくなっているようだ。

まず甲府盆地は大体三角形になっていて、東から南西に向かって笛吹川が流れている。この地下では川に沿うように曽根丘陵断層群と呼ばれる断層が走っている。また、北西部から南にかけて流れるのが釡無川で、この地下にも釡無川断層が走っている。2本の断層は盆地南西部、市川や鰍沢 (かじかさわ) の辺りで合流するため、地下では温泉地帯を挟むようなV字型に断層が伸び、さらに南側と西側が高くなっている。この構造により、笛吹川、釡無川、あと中央部を流れる荒川の地下を流れる伏流水が堰き止められ溜まっている。そのため甲府から南西方向、昭和や竜王、甲斐、中央市では地下水が豊富なのである [1]。甲府盆地では深さ 1000 m 近くまで砂礫を主とした透水性の沖積層が広がり、次に新第三紀 (約260万年〜2,300万年前) の末期から第四紀にかけて噴火した水森火山、黒富士火山、八ヶ岳火山の火山噴出物、それ以深はi新第三紀の花崗閃緑岩があって地下水の受け皿になっている。

フカサワ温泉の創業は1990年 (平成2年)、掘削深度は約 900 m。周りの温泉も大体近い歴史と掘削深度になっている。甲府盆地では 1980 年後半になってから地下 1,000 m 付近まで掘削するようになり、深さによる地温の上昇で程良く温めれれた温泉が得られるようになった。よって周辺の温泉はだいたい兄弟のような関係にあるが、各河川の伏流水の成分の違いにより、温泉の成分も少し異なっている。豊富な湯量と湯の新鮮さ、そして微妙な成分の違いを楽しんで入浴したい。

外観
⬑ ここからフカサワ温泉の話に戻る

正面
⬑ 住宅地に現われる素朴な建物

雑誌の紹介
⬑ 雑誌の紹介が掲示されていた

脱衣場
⬑ 左奥から浴場へ

フカサワ温泉浴槽状況
⬑ 加温無し、加水無し、循環、濾過無しで温泉を使用

浴室は常にそこそこの人数が入浴していたので写真は撮影しなかった。

シルク風呂のような泡付きと麻痺するほどの金気

温泉を使った浴槽は3つで、内湯に2つ、露天風呂に1つの浴槽。供給される湯は全て同じ。

内湯浴室に入ってすぐ、右手側に1〜2人サイズの浴槽があって、角の湯口からジャバジャバと湯が注がれている。浴槽に対して湯の供給量がかなり多く、一番贅沢な湯使い。そのためか他の浴槽よりも温度が高く42℃くらいになっていた。

内湯のもう1つの浴槽は6人が足を伸ばして入浴できるサイズの浴槽。角の湯口からは、やはりジャバジャバと湯が吐き出されているが、湯量は小さい浴槽と同じ位。同じ湯量で浴槽が少し大きくなった分だけ、湯の温度は少し下がって41℃位だった。もちろん十分な量は供給され新鮮。

露天風呂は2人サイズだが、湯量が少な目で、11月の外気温のせいもあって40℃位とやや温かった。

湯の特徴は初めの小さい浴槽で一番強く発揮されている気がした。
いずれの浴槽とも循環等を行っておらず、湯は常にオーバーフローして浴槽横の溝から棄てられていた。

湯の見た目は濃い褐色あるいは麦茶色。今回は夜に入浴したが、明るい時間だったら神々しい金色に見えるのかもしれない。湯は透き通っており、浴槽の底ははっきりと見えた。湯口の周辺の設備は着色され赤茶けて温泉成分が付着しているようだった。

何より目立つのは身体への泡付き。入浴して少しじっとしているだけで、身体に細かい泡が付着した。湯口の下、湯が浴槽に注ぎ込む所では微細な泡が常に供給され、水中にはまるでシルク風呂のような白い靄がかかっていた。さすがに韮崎旭温泉ほどではないが、かなりもの。

飲んでみると、突出して強い金気味があって口の中にビシビシ来る。その強さのあまり他の味は曖昧になってしまうほど。他には、薄い土気と微かな塩味も感じられた。地元の方もかなり飲みまくっていた。美味しいというか、クセになるというか。

匂いも味覚の印象と同じく金気臭が強い。これも金気の強さで他の感覚が麻痺するのだが、かすかにモール臭のような感覚もあったような気がする。

肌触りはつるつるとして温泉らしさのある感触。メタけい酸のせいだろう。
入浴中の温まりは強めで、のぼせやすい。浴室の熱気がややこもり気味だった。地元の方にとっても同じらしく、あまり長湯せず早めに上がっていった。

温泉の成分

温泉分析書はロビーに掲示されていたような気がする。忘れた。

温泉分析書
⬑ 平成27年7月の分析書

温泉分析書別表
⬑ 温泉分析書別表

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: フカサワ温泉
湧出地: 山梨県中巨摩郡昭和町西条1961−1
分析年月日: 平成27年8月27日

湧出量 200 ℓ/min (動力揚湯)
pH 7.5
泉温: 45.2 ℃ (調査時における気温24.0℃)
泉質 ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1405.5 mg/kg
成分総計 1455.8 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
水素イオン (H+)0.000.000.00
リチウムイオン (Li+)0.000.000.00
ナトリウムイオン (Na+)275.5011.9876.84
カリウムイオン (K+)24.300.623.98
アンモニウムイオン (NH4+)0.900.050.32
マグネシウムイオン (Mg2+)17.201.429.11
カルシウムイオン (Ca2+)29.701.489.49
ストロンチウムイオン (Sr2+)0.300.010.06
アルミニウムイオン (Al3+)0.000.000.00
マンガンイオン (Mn2+)0.200.010.06
鉄 (II) イオン (Fe2+)0.000.000.00
鉄 (III) イオン (Fe3+)0.300.020.13
亜鉛イオン (Zn2+)0.000.000.00
陽イオン計34815.6100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)0.100.010.06
塩素イオン (Cl-)136.303.8423.08
臭素イオン (Br-)0.000.000.00
ヨウ化物イオン (I-)0.000.000.00
水酸イオン (OH-)0.000.000.00
硫化水素イオン (HS-)0.200.010.06
硫化物イオン (S2-)0.000.000.00
チオ硫酸イオン (S2O32-)0.100.000.00
硫酸イオン (SO42-)0.000.000.00
亜硝酸イオン (HNO2-)0.000.000.00
硝酸イオン (NO3-)0.000.000.00
リン酸水素イオン (HPO42-)0.600.010.06
炭酸水素イオン (HCO3-)779.3012.7776.74
炭酸イオン (CO32-)0.000.000.00
陰イオン計91716.6100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)138.101.77
メタホウ酸 (HBO2)2.400.05
非解離成分計140.501.82
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)50.301.14
遊離硫化水素 (H2S)0.000.00
溶存ガス成分計50.301.14
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.001未満--
総水銀 (Hg)0.0005未満--
銅イオン (Cu)0.05未満--
クロム (Cr)0.02未満--
鉛イオン (Pb)0.01未満--
カドミウムイオン (Cd)0.01未満--
亜鉛イオン (Zn)0.01未満--
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。
フカサワ温泉 - 湯花草子

陽イオンはナトリウムイオンが 77%、残りをカルシウムイオン、マグネシウムイオンで 10% ずつ分け合って、カリウムイオン 4% を加えた組成。陰イオンは炭酸水素イオンが 77% で、残りはほとんど全て塩化物イオン。7割重曹泉で3割食塩泉、少しだけ塩化土類泉と言ったところで槪ねシンプルな親しみやすい泉質。他にメタけい酸 138 mg/kg はなかなかのうるおい。遊離二酸化炭素は 50 mg/kg で、炭酸泉で知られる山口温泉の 48.80 mg/kg よりも微かに多い。泉温も泉質もあまり変わらないのだが、なぜフカサワ温泉は炭酸感が無く、金属味がやたらと強いのだろうか。不思議だ。

山口温泉 - 湯花草子

参考資料


  1. 山梨県の温泉の化学-特に温泉分布とその化学成分について-, 温泉科学第45巻 ↩︎