日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中9湯目
白浜温泉の崎の湯に入浴したあと、大阪方面へ戻る前に最後にもう一湯、えびね温泉に寄った。えびね温泉は白浜から南西方向の山を一つ隔てて日置川沿いにある一軒の日帰り入浴施設。無料供用中の紀勢自動車道を日置川ICで降り、和歌山県道37号線を日置川に沿って10km強、北上していくと道路と川の間に建物が現われる。場所はマイナーだが、看板が出ているので迷わずに辿り着くことができた。
あっさりとした湯でありながら、タマゴ臭がこってり香る温泉。日置川を眺めながら、鮮度の高い湯に浸かって爽快だった。
↑ えびね温泉の外観
↑ えびね温泉の前からは日置川が見える
施設・温泉概要
施設名: えびね温泉
所在地: 和歌山県西牟婁郡白浜町向平504
Web: えびね温泉 | 和歌山県温泉協会オフィシャルホームページ
日帰り入浴可: 営業時間 10:30-18:00
宿泊不可
源泉名: えびね温泉格
湧出地: 和歌山県西牟婁郡白浜町向平湯之上513-10
湧出量: 190 ℓ/分 (掘削・動力揚湯 600 m)
泉温: 37.2 ℃
pH: 9.5
成分総計: 157.5 mg/kg
泉質: 含硫黄-アルカリ性単純温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
温泉の使用方法: 加温有り, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
えびね温泉の歴史
詳細は不明だが、昔からある温泉のようで、かつては自噴していたようだ。
1886年 (明治19年) に発行された日本鑛泉誌3巻中を眺めていると「湯ノ上鑛泉」という鉱泉を見つけた (402頁)。それによると、向平の地には成分の薄い93℃の湯が湧き、地元の村人に活用されていたらしい。
湯ノ上鑛泉 西牟婁郡向平村字湯ノ上
○ 泉質 炭酸泉
無色透明無臭無味ナリ其反應ハ弱亜兒加里 (アルカリ) 性ニテ一リットル中固形分 〇、二四瓦 (グラム) ヲ含有ス其各成分及量左ノ如シ亜兒加里 (ナトリウムイオン) 僅微
加爾基 (カルシウムイオン) 痕跡
麻倔涅失亜 (マグネシウムイオン) 痕跡
礬土 (アルミニウムイオン) 痕跡
鉄 (鉄イオン) 痕跡
硫酸 (硫酸イオン) 痕跡
鹽酸 (塩化物イオン) 痕跡
硼酸 (ホウ素イオン/メタホウ酸イオン) 痕跡
硅酸 (ケイ酸イオン/メタケイ酸イオン) 痕跡
炭酸 (炭酸イオン) 著明
固形分合計 〇、二四瓦 (グラム)
温度九十三度○ 位置景況
日置川ノ岸上ニテ山麓ヨリ涌出シ村民採酌シテ浴用ニ供ス道路ハ大邊路街道ヲ距る三十町許ニテ稍便ナリ○ 位置景況
年月詳ナラズ
日本鉱泉誌 : 3巻. 中 - 国立国会図書館デジタルコレクション より引用。原文のままだと読み難いので括弧書きで注釈も入れた。
実はえびね温泉の近くは熊野古道の大辺路が昔より通っており、えびな温泉から3km程南の安居 (あご) 集落には、日置川を小舟で渡った安居の渡しがある。
また、情報源は不明だが「温泉大好き!!」さんによると、その後、源泉は1889年に水害で失なわれ、昭和になってから復活させたようだ。
1889(明治22)年の水害で一旦源泉が失われるが、昭和の初めに再び湧出に成功し、"山本樓"という屋号で、温泉旅館を営んでいたという。
昭和の初めころなので、かつて温泉があった付近を掘削したのだろう。今の源泉は37.2℃なので、うまく探せば高温泉が今後も湧出しそうだ。
えびね温泉の施設
えびね温泉の同じ敷地内には大きな温泉スタンドがあり蛇口がたくさん並んでいる。入浴客よりも湯を汲みに来ている人の方が多かったかもしれない。
↑ 温泉スタンド
日帰り入浴施設の建物は、奥に細長く、玄関と受付、男湯、女湯の順に全てが一列に並んでいる。館内は外光を取り入れ明るく爽やかである。木を活かした造りで秘湯のような趣も感じられる。
↑ 入口の右手側に受付
↑ 細長い廊下の手前に男湯、奥に女湯
↑ 男湯の入口
↑ 男湯の入口 のれんの先
↑ 脱衣場 右奥が入口
↑ 脱衣場 左奥から浴室に入る
素朴で広々とした脱衣場から謎のスロープを上ると浴室である。
温泉の利用方法と浴感
浴室に入ると中央に正十三角形の大きな浴槽が目に入る。床面も含め全体が研磨された花崗岩を使った清潔感のある浴室だ。
↑ 正十三角形の花崗岩の浴槽
湯口は研磨していない花崗岩を刳り貫いたもの。眼鏡のような配置で穴が2つ空けられている。両方の穴は奥で繋がっているので、出てくる湯は同じ。湯口の他に、浴槽内壁面からの圧注がある。注入される湯は湯口と同じと思われた。
湯口から投入された湯は、そのまま浴槽の縁全体からオーバーフローする。窓の側が少し低くなっているようでオーバーフローの湯量がやや多い。
↑ 眼鏡型の湯口
窓は大変に大きく、150°角程度の展望があって日置川を望む。湯に浸かりながらではさすがに川の流れは見えないが、熊野らしい低く連なる山並みを眺めることができて心も洗われる。
↑ 入浴中に山並みを望む
↑ 入口側も窓が大きい
温泉の利用方法は、加温有り, 加水無し, 循環無し, 消毒無し。源泉は約37℃で、浴槽の湯は40℃位だった。温泉の利用についてのこだわりは、施設内の掲示でも強調されていた。
↑ 加温掛け流しで利用
書き起し:
えびね温泉情報
☆えびね温泉は約38度の源泉を入浴に適する温度に保つため少し加温しています。
☆湯量は豊富にありますので、加水する必要は全くなく、源泉をそのまあ[かけ流し] (使い捨て) で使用しています。
☆もちろん入浴剤は一切使用していません。
☆浴槽内や入浴施設の清掃は必ず毎朝行っています。
↑ えびね温泉は完全なかけ流し温泉
書き起し:
えびね温泉は完全なかけ流し温泉です
温泉には様々な方式があります
かけ流しとは、温泉を使い捨てにすることです。そのため常に新しい温泉を使用しています。
循環式とは、一度使った温泉を塩素消毒することで、再び使用することです。
加水式とは、温泉の温度が高いため水を加えて温度調節をします。そのため、温泉と水が混ざるので100%の温泉とは言えません。
えびね温泉は38度の温泉を少し温めていますので、100%の温泉です。入浴場の全てのシャワーや蛇口からも同じ100%の温泉が出ているのが最大の特徴です。
シャワーの湯も温泉で、浴びるとかなりツルツルする。浴槽も感触があるが、シャワーの方がより強い。頭を流すとタマゴ臭が香り幸せである。いつまでも浴びていたくなる。
浴槽に戻って、湯の色は無色澄明で浴槽の底がはっきりと見えた。湯の華は見当たらない。
湯を飲んでみるとあっさりとして飮みやすくほとんど無味で、僅かに硫黄味と甘味がある。多く飮みこむと鼻から硫化水素臭が抜けた。
入浴中は少しタマゴ臭が香る。湯口に鼻を近づけ、湯の注ぐ穴から直接嗅ぐと、こってりとした、刺激的な硫化水素臭に変わる。
↑ 湯は無色澄明で鮮度感高し
浴槽の湯の温度は40℃程度でぬるめだが、意外と暑くなって長く浸かれない。時々休みながら入浴した。
↑ 長湯しすぎますとかえってお疲れになります
温泉の成分
温泉分析書のコピーが脱衣場に掲示されていた。
↑ 温泉分析書 えびね温泉格
↑ 温泉分析書別表 (浴用)
↑ 温泉分析書別表 (飮用)
以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。
源泉名: えびね温泉格
湧出地: 和歌山県西牟婁郡白浜町向平湯之上513-10
分析年月日: 平成29年6月9日
湧出量 190 L/分 (動力揚湯)
pH 9.5
泉温: 37.2 ℃ (調査時における気温24.2℃)
泉質 含硫黄-アルカリ性単純温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 157.5 mg/kg
成分総計 157.5 mg/kg
温泉の成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
水素イオン (H+) | 0.1未満 | -- | -- |
ナトリウムイオン (Na+) | 45.70 | 1.99 | 98.51 |
カリウムイオン (K+) | 0.20 | 0.01 | 0.49 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 0.1未満 | -- | -- |
カルシウムイオン (Ca2+) | 0.40 | 0.02 | 0.99 |
アルミニウムイオン (Al3+) | 0.1未満 | -- | -- |
マンガンイオン (Mn2+) | 0.1未満 | -- | -- |
陽イオン計 | 46.3 | 2.02 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 5.90 | 0.31 | 15.05 |
塩素イオン (Cl-) | 8.90 | 0.25 | 12.14 |
水酸イオン (OH-) | 0.90 | 0.05 | 2.43 |
硫化水素イオン (HS-) | 2.50 | 0.08 | 3.88 |
チオ硫酸イオン (S2O32-) | 0.1未満 | -- | -- |
硫酸イオン (SO42-) | 8.20 | 0.17 | 8.25 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 0.1未満 | -- | -- |
炭酸イオン (CO32-) | 36.10 | 1.20 | 58.25 |
陰イオン計 | 62.5 | 2.06 | 100.00 |
(3) 遊離成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタケイ酸 (H2SiO3) | 48.70 | 0.62 |
メタホウ酸 (HBO2) | 0.1未満 | -- |
非解離成分計 | 48.70 | 0.62 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 0.1未満 | -- |
遊離硫化水素 (H2S) | 0.1未満 | -- |
溶存ガス成分計 | 0.00 | 0.00 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
総砒素 (As) | 0.001未満 | -- |
総水銀 (Hg) | 0.0005未満 | -- |
銅イオン (Cu) | 0.05未満 | -- |
鉛イオン (Pb) | 0.05未満 | -- |
カドミウムイオン (Cd) | 0.05未満 | -- |
微量成分計 | 0.00 | 0.00 |
下記にも掲載しました。
成分総計は 0.16 g/kg で成分としてはかなり少ない温泉だが、硫化水素イオンの量が多く硫黄泉になっている。硫黄成分が多いのは、周辺の白浜温泉、椿温泉、周参見温泉と共通である。湯のタイプも似ていて、同様の成り立ちの温泉ではないかと思う。これらの温泉については、次のようにして温泉が湧くと言われている。
フィリピン海プレートが陸地側のプレート下に沈み込むと、深さ50km以上では圧力によってプレートから水が絞り出されるようにして熱水が発生する。この熱水が地下の亀裂を通り地上付近まで上昇すると、これが熱源となって地下水を温めたり、地下水と混ざることで温泉になる。白浜温泉、椿温泉、周参見温泉は、紀伊半島西南部に沿って熊野地域の古い火成岩が貫入する枯木灘弧状岩脈上に湧出していて、この岩脈や亀裂を通って熱水が上昇していると考えられている。
えびね温泉では他の温泉と比べると、炭酸イオンが多いようだが、pHが高くアルカリ性のために炭酸水素イオンにならずに維持されているのだろう。