日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中80湯目

ふるさと納税の返礼で貰った宿泊券を使うために鹿児島にやって来た。昨夜は「吹上温泉 みどり荘」に宿泊し無事に宿泊券を使うことができた。今日は鹿児島2日目で、あまり温泉を巡る時間は無いものの、同じ日置市の「湯之元温泉 田之湯温泉」を訪れた。

吹上温泉 みどり荘 (2020/12/11)
タマゴ臭がふわりと香り黒い湯の華が浮かぶ「吹上温泉みどり荘」

湯之元温泉は日置市の北部、東市来 (ひがしいちき) に湧く温泉。かつては自噴しており江戸時代初期頃より入浴されるようになった。田之湯温泉が開業したのは 1962 年だが、1927 年の資料にも「田ノ湯」の単語が見られ、歴史ある温泉である。

泉質はアルカリ性単純硫黄泉で、硫黄味とタマゴ臭が感じられる。浴槽の湯は硫黄分によりエメラルドグリーンを帯び、緑がかった透明の湯は全国でも珍しい素晴らしいもの。1ヶ月くらい逗留して毎日味わいたい温泉だった。

施設・温泉概要

所在地: 鹿児島県日置市東市来町湯田3077
Web: 田之湯温泉|鹿児島県日置市
日帰り入浴: 可 6:00-22:00
宿泊: 不可

源泉名: 湯之元温泉 田之湯
湧出地: 鹿児島県日置市東市来町湯田2917
湧出量: 不明 動力使用
泉温: 57.2 ℃
pH: 8.7
溶存物質合計 (ガス性のものを除く): 564.1 mg/kg
成分総計: 564.5 mg/kg
泉質: アルカリ性単純硫黄泉
旧泉質名: 硫黄泉 / 単純硫黄泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

江戸時代から利用される温泉

湯之元温泉は鹿児島県日置市の東市来町、湯之元にある温泉地。日置市役所がある伊集院の北西 7km 程度に位置している。田之湯温泉は湯之元温泉にある銭湯である。

この地では古くより温泉が湧出していたものの、掘ると土地が枯れるとされて活用されなかった。1640 年頃になってから郷土黒川大煩兵衛 (おおいびょうえ) と西市来村の僧により開湯され、その湯は坊主湯と呼ばれるようになった。その後は薩摩藩の直営の「市来温泉」と呼ばれ、身分により「御前湯」「地頭湯」「所湯」に分けて入浴していた。1872年 (明治2年)、版籍奉還により市来郷に移管、1900年 (明治30年) 頃より整備され「元湯」「打込湯」「新湯」「川端湯」などの設備があった。1926年 (大正15年) の鹿児島県温泉誌には「坊主湯」「田ノ湯」「平田湯」「打込湯」「川端湯」「朝日湯」の名前が登場する [1]

現在の「湯之元温泉 田之湯温泉」のオープンは1962年 (昭和37年) [2]。かつての田ノ湯との関係はわからないが、同じ名前を称している。

湯之元温泉は非火山性の温泉と言われていて、地下の基盤岩の隙間を通って地表まで上がってきた温泉が湧出している。地上では見えないものの、実は鹿児島市の北部から串木野にかけた斜め方向には深さ 600m の基盤岩の谷が存在している [3]。ところが湯之元温泉の辺りでは深さ 30〜100m 程度で、深い谷のギリギリ、際になっているようだ。この地形が温泉の湧出に関係しているのかもしれない。

昨夜泊まった吹上温泉も非火山性の温泉だった。吹上温泉では伊作断層の亀裂を通って温泉が上がってきていると考えられる。

田之湯温泉通りの先に建つ

ここまで書いた通り、湯之元温泉は昔からの温泉街になっている。国道3号線を南東側から走ってくると、左手に田之湯温泉通りと書かれた看板が現われる。田之湯は名前の通り、間違い無くこの先にある。なお温泉通りとは言うものの繁華街という感じではなく、田舎街の街中な景色が広がっている。

看板
⬑ 施設の前には味わいある看板

外観
⬑ まさに鹿児島の銭湯といった雰囲気の建物

営業時間
⬑ 施設の外装に打ちつけられて営業時間、定休日と…

入浴時間
⬑ 入浴料。安い

脱衣場も浴室も賑わって両方とも常に数人の客がいる状態だった。ほとんどが地元の人のように見える。このあと訪ねた薬師の湯も混雑していたから、湯之元温泉付近の住民達はかなりの温泉好きのようだ。

浴室は撮れず
⬑ 浴室内の写真はありません

硫黄味、タマゴ臭ある、透んだエメラルドグリーンの湯

浴槽は浴室の中央にあって、縦長の長方形を2つに分けている。浴室奥側が2人サイズ、手前側が4人サイズ。湯口は奥の浴槽だけにあり熱い湯が静かに注がれている。湯はオーバーフローして手前側の浴槽に流れ込んでいる。また、2つの浴槽の間の水面下にはパイプが通され、これを通じての湯の供給もあるようだ。浴槽の縁は火成岩、側面はタイル、浴槽底は不規則な円形の石を敷き詰めたもの。湯口は浴室奥側の浴槽。

湯の温度は湯口側で44℃くらい。反対側で42℃くらい。44℃の湯には、地元の人も熱そうに入浴していた。ただ一度浸かってしまえば肌に馴染み、それほど熱くは感じないタイプの湯だった。浸かるたびに心地良く感じるようになっていく。

湯口から流れ出る湯も44℃ほどで、浴槽内の湯と同じくらいの温度。少し熱いが普通に素手で掬って飲むことができた。飲んでみると概ね無味で、硫黄系の弱い苦味とタマゴ味がある。ぐいっと飲み干すと鼻からタマゴ臭が抜けた。

浴槽の湯はエメラルドグリーンに薄く緑がかって透明。美しい。この色は新鮮な硫黄泉で見られることがあり、例えば 戸倉温泉観世温泉 も素晴らしい。

温泉はカランの熱い方からも出てきた。カランを使っていると、時折黒い湯の華がバッと吹き出してきて、洗面器には浮遊物が現れ少し嬉しい。なお浴槽には浮遊物が特に見られなかった。

温泉の成分

温泉分析書は浴室入口のガラス戸に貼られていた。源泉名は書かれていない。

温泉分析書
⬑ 温泉分析書

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

湧出地: 日置郡東市来町湯田2913
湧出量 記載無し 動力使用
pH 8.7
泉温: 57.2 ℃ (気温15℃)
泉質 アルカリ性単純硫黄温泉 (低張性・アルカリ性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 564.1 mg/kg
成分総計 564.6 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
ナトリウムイオン (Na+)168.007.3192.07
カリウムイオン (K+)7.700.202.52
アンモニウムイオン (NH4+)2.700.151.89
カルシウムイオン (Ca2+)5.600.283.53
陽イオン計1847.94100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)0.500.030.49
塩素イオン (Cl-)36.201.0216.80
硫化水素イオン (HS-)17.300.528.57
チオ硫酸イオン (S2O32-)2.600.050.82
硫酸イオン (SO42-)60.201.2520.59
炭酸水素イオン (HCO3-)150.102.4640.53
炭酸イオン (CO32-)22.200.7412.19
陰イオン計2896.07100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)91.001.17
非解離成分計91.001.17
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)0.500.01
溶存ガス成分計0.500.01
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.005 mg/kg 未満--
総水銀 (Hg)0.5 μg/kg 未満--
銅イオン (Cu)0.01 mg/kg 未満--
鉛イオン (Pb)0.02 mg/kg 未満--
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。
田之湯 - 湯花草子

成分総計は 565 mg/kg と多くないが、これくらいの方が自噴源泉らしさ (いまは動力使用) を感じられて良い。

陽イオンはナトリウムイオンが 92 mval% で圧倒的に多く、カルシウムイオン、カリウムイオンがそれぞれ 3.5 mval%、2.56 mval% と続く。陰イオンは複雑で、炭酸水素イオンが 41 mval%、硫酸イオンが 21 mval%、塩化物イオンが 17 mval%、炭酸イオンが 12 mval% で含まれている。pH が 8.7 とアルカリ寄りのため炭酸水素イオンの一部が炭酸イオンが多くなっている。これを合わせると半分くらいは重曹泉と言えそうだ。

硫黄分が多く、硫化水素イオン 17.30 mg/kg、チオ硫酸イオン 2.60 mg/kg となかなか贅沢な数値を示しており、硫黄泉に分類される。

あとはメタけい酸 91 mg/kg も多めでツルツル感が期待できる。近くに住んで日常的に入浴するのに適した温泉だ。いいなあ。1ヶ月くらい逗留してみたい。


  1. 鹿児島県温泉誌 - 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎

  2. 湯之元温泉 田之湯温泉 — 知られざる地元の名泉 ↩︎

  3. 南九州の地質・地質構造と温泉, 温泉科学 ↩︎