弘寿温泉 (2020/12/11)
日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中78湯目
ふるさと納税の返礼で貰った宿泊券を使うため、鹿児島にやって来た。初日は自由時間が得られたので空港周辺の温泉をいくつか入浴する。今日は塩浸温泉龍馬公園、道中の噴泉丘、霧島新燃荘と巡り、4湯目に霧島市牧園町万膳の九日田 (くぬっでん) 地区にある弘寿温泉にやって来た。無人温泉という形で営業しており、券売機で料金を支払ってマナーよく入浴する。
長閑な田園にある素朴な温泉だが、霧島火山からそれほど離れておらず、地下火山ガスの影響を受けた重曹泉と思われる。炭酸、硫黄、金気があって味覚、嗅覚が豊かで、しかも味わうたびに変わって感じるので飽きない。
施設・温泉概要
所在地: 鹿児島県霧島市牧園町万膳字九日田931-9
Web: 弘寿温泉 | Facebook
日帰り入浴: 10:00-21:00
宿泊: 不可
源泉名: 万膳1号
湧出地: 鹿児島県霧島市牧園町万膳字九日田931-1
湧出量: 不明 (掘削 1,000 m・動力揚湯)
泉温: 45.2 ℃
pH 7.3
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 607.11 mg/kg
成分総計 635.71 mg/kg
泉質 単純温泉 (低張性・中性・高温泉)
旧泉質名: 単純温泉
一番良い浴槽の温泉利用方法:
加温 | 加水 | 循環 | 消毒 |
---|---|---|---|
無 | 無 | 無 | 有 |
たぶん火山性の重曹泉
弘寿温泉では公式 Facebook にて「無人温泉」を謳っていて、入口の券売機で入浴券を買う仕組み。公営の共同浴場や地元専用の浴場ではそれほど珍しくもないが、民営の温泉で無人は珍しいと思う。今回は無人温泉のキーワードが気になって訪れた。無人温泉……地方人口の減少とともに消滅する温泉の後継者不足やコスト問題を少し改善できそうな魅力的な概念だと思う。
⬑ 長閑な弘寿温泉
弘寿温泉があるのは牧園町万膳。すぐ北にはほたる温泉、南西には横川温泉がある。周辺は長閑な田園地帯のようだが、数キロも離れると、そこはもう金湯温泉、銀湯温泉、太良温泉、鉾投温泉など、温泉の自噴する地獄と隣り合わせの地域が広がっている。
こんなところに重曹泉系の温泉が湧くのは、霧島火山の地下深くにあるマグマを起源とした炭酸イオンが供給されているからではないだろうか。霧島火山の南西数キロ〜十数キロの範囲では、炭酸泉や炭酸水素塩泉が連なって存在している。弘寿温泉の源泉「万膳1号」の泉質は温泉法上は単純温泉に分類されるが、方向性は重曹泉や含土類重曹泉のもの。重曹泉は炭酸水素塩泉の一種である。
この炭酸泉や炭酸水素塩泉というのは、火山ガスに含まれる炭酸ガスが地下水と反応することで作られる。火山ガスの初期には塩酸ガスや硫酸ガスも含まれているが、これらは火山ガスが熱水や水蒸気となったあと、先に地下水と混合して地上に湧出してしまう。炭酸ガスは水に溶けにくいため最後まで残り、火山から離れたところまで来てから炭酸泉や炭酸水素泉となって地上に出現する。
1,000 メートル地下から湧く温泉
さて、なんとなく温泉の成り立ちを感じたところで弘寿温泉の話に戻る。
建物は簡素なもので、長椅子の休憩スペースと、脱衣場と浴場しか無い。
⬑ 手前が男湯、奥が女湯。その間に入浴券箱
入口には券売機。ここで 200 円を渡して入浴券を買い、それを先の入浴券箱に投入する。券売機は 1,000 円札にも対応しているので、共同浴場でよくある、ちょうど良い小銭が無い問題に遭わなくて済む。とてもありがたい。なおこの券売機、同じものがほたる温泉にも置かれている。
⬑ 無賃入浴はダメです
脱衣場に行くと、他の人の服が無かったので貸切だとわかった。運が良い。
⬑ 静かな脱衣場。ここに着くまでに迷った焦りが溶けていくようである
⬑ 温泉は掘削 1,000 メートル。1,000 年前の雨水??
「平安時代の水」については、情報を見つけたら追記する。
⬑ サウナはセルフサービス。いいね。使ってないけど
炭酸、硫黄、金気が不規則に香り飽きない温泉
浴室には温泉の大浴槽と、水風呂の小さい浴槽。大きな窓から光が入り込んで明るい。床面は石プレートの貼り合わせで清潔感がありつつも落ち着いている。
⬑ 派手すぎずボロすぎず、優れたデザイン
⬑ 浴槽から溢れた湯の流れは茶色に着色されていた
⬑ 水風呂については割愛
⬑ 入浴中目線
⬑ 上を見上げると、程良く古びて絵画の題材のように幻想的
温泉の浴槽は6人位が余裕をもって入浴できる大きさで長方形。湯口は八角形の柱が浴槽の中に立ち、擂鉢状になった天頂部から湯が溢れ出している。
⬑ 浴槽の中に立ち水面から頭を出す湯口
⬑ 湯がこんこんと流れ出す
湯口の湯はあまり熱そうに見えないものの 45 ℃程度あり、手で触れてみると少し熱い。
浴槽では 40〜41 ℃程度と、ゆっくり入浴するのにちょうどよい湯加減になっていた。
⬑ 全方位に均等に広がって浴槽に注ぐ
湯の色は無色透明で浴槽の底もはっきりと見えるが、わずかに茶褐色がかっている。
⬑ 湯口ではほとんど無色透明
⬑ 浴槽ではやや褐色。浴槽の縁も部分的に着色されているようだ
飲んでみると、地下水の甘みと、それを引き立てる重曹泉のほのかな渋みが主になり、素朴な味がする。ところがよく味わうと炭酸味や金気味が少しずつ混ざりあい複雑で奥深い味覚があるようだ。
匂いも複雑で嗅ぐたび匂いが異なり、新たな発見があった。炭酸臭、硫黄臭、金気臭が不思議なバランスで混在していて、不規則に交代しながら香るように感じる。
⬑ 貼り紙によると、温泉は加温無し、加水無し、循環無し、塩素消毒ありとのことだが、消毒臭は感じられなかった
感触は弱めで、湯のイメージからはツルツルしそうな印象だったにも関わらず、実際はそうでもなく、ややスルッとするか、しないか? 程度だった。
もっと長時間入浴できれば、さらに色んなことがわかりそうな温泉だと思った。短い時間しか入浴できなかったのが惜しい。また訪れて1時間以上かけてゆっくりと味わいたいと思う。
温泉の成分
温泉分析書は建物の玄関の壁に多数掲示されていた。
⬑ 平成10年 温泉の成分禁忌症適応症
⬑ 平成13年 禁忌症及び適応症
⬑ 温泉の成分、禁忌症及び入浴上の注意 (その2)
⬑ 平成30年 温泉の成分、禁忌症及び入浴上の注意 (その1)
⬑ 平成30年 温泉の成分、禁忌症及び入浴上の注意 (その2)
⬑ 平成30年 温泉の成分、禁忌症及び入浴上の注意 (その3)
以下は自前のプログラムに平成 30 年の分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。
源泉名: 万膳1号
湧出地: 霧島市牧園町万膳字九日田931-1
分析年月日: 平成30年11月1日
pH 7.3
泉温: 45.2 ℃ (気温22.0℃)
泉質 単純温泉 (低張性・中性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 607.11 mg/kg
成分総計 635.71 mg/kg
温泉の成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
リチウムイオン (Li+) | 0.10 | 0.01 | 0.18 |
ナトリウムイオン (Na+) | 58.70 | 2.55 | 46.53 |
カリウムイオン (K+) | 10.10 | 0.26 | 4.74 |
アンモニウムイオン (NH4+) | 0.40 | 0.02 | 0.36 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 16.40 | 1.35 | 24.64 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 24.40 | 1.22 | 22.26 |
アルミニウムイオン (Al3+) | 0.20 | 0.02 | 0.36 |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 1.30 | 0.05 | 0.91 |
陽イオン計 | 112 | 5.48 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 0.10 | 0.01 | 0.19 |
塩素イオン (Cl-) | 17.30 | 0.49 | 9.19 |
硫酸イオン (SO42-) | 15.90 | 0.33 | 6.19 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 274.80 | 4.50 | 84.43 |
陰イオン計 | 308 | 5.33 | 100.00 |
(3) 遊離成分
非解離成分:成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタケイ酸 (H2SiO3) | 183.60 | 2.35 |
メタホウ酸 (HBO2) | 3.80 | 0.09 |
非解離成分計 | 187.40 | 2.44 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 28.60 | 0.65 |
遊離硫化水素 (H2S) | <0.1< td> | -- |
溶存ガス成分計 | 28.60 | 0.65 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
総砒素 (As) | 0.01 | 0.00 |
総水銀 (Hg) | 0.0005 mg/kg 未満 | -- |
銅イオン (Cu) | 0.05 mg/kg 未満 | -- |
鉛イオン (Pb) | 0.05 mg/kg 未満 | -- |
カドミウムイオン (Cd) | 0.05 mg/kg 未満 | -- |
微量成分計 | 0.01 | 0.00 |
下記にも掲載しました。
万膳1号 - 湯花草子
知覚部分でも感じたように複雑な組成で、陽イオンはナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが 20 mval% を越えている。また鉄 (II) イオン 1.30 mg/kg も少し気にしてもいいかもしれない。陰イオンは炭酸水素イオンがほとんどで、塩化物イオン、硫酸イオンは 10 mval% に達していない。
遊離二酸化炭素はというと 28.6 mg/kg で、東側の塩浸温泉や安楽温泉と比べると随分と少ないようだ。メタけい酸は 184 mg/kg で、この多さはやはり火山の影響を感じる。