2020/1/4 土湯温泉 公衆浴場中乃湯
曇り 日帰り 1回目
土湯温泉は福島県福島市の西部、吾妻山の南西側にある温泉街である。今回は地元の青森から東京へ戻る途中、東北新幹線やまびこを福島駅で途中下車し、それからバスに乗りここまでやってきた。
福島駅から土湯温泉までバスで約40分、運賃は片道860円。公共交通機関で行くには少し遠い印象はあるが、まだギリギリ許容範囲かな。
地理と歴史
吾妻火山 (あづまかざん) は福島県福島市、猪苗代町、山形県米沢市の境界に位置する複成火山群。最高峰は西吾妻山 (標高2035m)。吾妻火山は東吾妻山、一切経山、吾妻小富士の火山帯から構成される活火山で、有史以降も噴火を繰り返しており、最近も2008年に一切経山から噴気が立ち昇るニュースがあったらしい。火山活動は約150万年前から100万年前には活動を開始したとされる。
吾妻山の南側には安達太良山、磐梯山、猫魔ヶ岳の3つの火山がある。
周辺には吾妻山の周辺には数多くの温泉が存在している。これらが全て吾妻火山を熱源としているかは不明。
米沢市:
- 白布温泉
- 新高湯温泉
- 大平温泉 滝見屋
- 吾妻温泉 大平温泉の前を流れる松川のやや下流、とのことだが詳細不明
松川沿い。大平温泉のやや下流に位置し、現在は利用されていない。山形県衛生部 (1953) によれば、かつては相生温泉あるいは吾妻温泉古湯とも言われ、1950年当時は利用されており、温度58.7℃、湧出量41.5ℓ/分、pH=6.6の含石膏硫化水素泉であった、金原 (1992) はカルシウム–硫酸塩泉と表記している (旧泉質名では硫酸塩泉の一種)。
- 笠松鉱泉 笠松旅館
- 滑川温泉 福島屋
- 赤滝温泉 赤滝鉱山付近にあるらしいが詳細不明
滑川温泉の南方に位置する。金原 (1992) では、温度31.5℃、湧出量90ℓ/分、pH=5.6の含硫黄-カルシウム・ナトリウム–硫酸塩泉 (旧泉質名では硫化水素泉の一種) であるが、NEDO (1991、第5表) では赤滝温泉の代表的源泉名として、温度12.8℃、湧出量60〜110ℓ/分、pH=3.0のカルシウム・ナトリウム–硫酸塩泉 (単純冷鉱泉) を記している。温泉位置はNEDO (1991) に従った。山形県衛生部 (1953、第6図) に示された前川上流の未利用温泉のいずれかに相当すると思われる。現在は利用されていない。
- 姥湯温泉 枡形屋
- 五色温泉 宗川旅館
福島市:
- 微温湯温泉
- 信夫温泉
- 高湯温泉
福島市土湯温泉町:
- 幕川温泉
- 新幕川温泉 関係者以外入浴不可
- 鷲倉温泉
- 赤湯温泉
- 新野地温泉
- 野地温泉
- 土湯温泉
北塩原村:
- 裏磐梯早稲沢温泉
隣接しているので難しいところだが、横向温泉 (どちらかというと安達太良山側)、北塩原村の川上温泉 (どちらかといえば磐梯山側) などは切りが無いので除外した。
土湯温泉は、吾妻小富士と東吾妻山の中腹の鳥子平を源流とする荒川の下流にある。幕川温泉や赤湯温泉も同じく荒川沿いに位置している。
土湯温泉の歴史については、展望台にボードがあったのでその写真を以下に貼るとともに転記してみる:
その昔、大穴貴命 (おおあなむちのみこと) が荒川のほとりを鉾で突くとそこからこんこんと湯が湧いたことから「突き湯」と言う名が付けられた伝説があります。
そして、用命2 (587) 年、病に倒れた聖徳太子の父、用命天皇の回復祈願と仏教布教のため東国に遣わされた秦河勝 (はたのかわかつ) が半身不随の病におかされ、良医良薬の効なく臥していたところ、ある夜、聖徳太子が夢枕に表れ「岩代国の突き湯に霊湯あり。そこで湯治せよ。」と説いたことから「突き湯」の名が広まり、やがて「土湯」と呼ばれるようになったという伝説があります。
土湯としての名称は文治5 (1189) 年「吾妻鏡」で登場し、長い年月にわたって人々を優しく癒し続けてきた名湯です。
↑ 写真: 土湯の由来・歴史
広隆寺を建立したとされる秦河勝が、西暦587年頃になぜか東北まで来ており、そこで半身不随になったので湯治のために土湯温泉を訪れたという伝説があるそうだ。ちょっと厳しいんじゃないだろうか。
吾妻鏡における土湯の登場は以下のことだろうか。これは奥州合戦の阿津賀志山の戦いにおいて、源氏側の兵士が奥州藤原氏を倒すときの移動経路が書かれており、伊達群藤田宿から会津の方に向かい、土湯嵩、鳥取 (国見町あたりの峠) を越えて大木戸 (国見町内の地名) に登って国衡の陣地の背後に回った、ということである。この土湯は国見町付近の地名を指しており、土湯温泉を指してはいなそうである。
伊逹郡藤田宿自 會津之方向 土湯 之嵩 鳥取越等 于越大木戸上 國衡後陣之山于樊登
ということは土湯温泉の歴史はどうなるのか…。
↑ 写真: 土湯温泉内の地図
土湯温泉には13の宿泊施設、2つの日帰り入浴施設がある。
旅館小滝と川上温泉は奥土湯温泉と呼ばれることもある。不動湯温泉は単体で不動湯温泉とされることがある。不動湯は一度廃業になったが、日帰り入浴施設として最近復活した。ありがたい限り。
現在の土湯温泉では、旅館や商店等が出資し平成9年3月に設立した「湯遊つちゆ温泉協同組合」が温泉の源泉の管理・供給を行っている。
以下は「土湯・高湯温泉郷 国民保養温泉地計画書」からの抜粋:
現在、組合が土湯温泉街の利用量の焼く65%を供給している。独自の源泉のみで対応している旅館は、土湯峠地区温泉郷の6旅館と土湯温泉街の3旅館の計9旅館であり、その他は独自源泉を有していても、組合から配湯されている。
主力源泉である土湯温泉2号泉等の特徴は、130℃〜150℃の温度で蒸気と熱水が湧出してくるため湧水を加える噴気造成泉という造湯の仕組みで、毎分1,400リットルを8旅館と40事業所 (いわゆる一般家庭) 、1軒の公衆浴場、3ヶ所の足湯へ給湯している。
源泉 温度 (℃) 湧出量 (L/分) 泉質 湧出状況 所有者 利用施設 土湯温泉 (2号泉、15号泉、16号泉、17号泉の混合泉) 62.2 1,420 (源泉造湯量) 単純温泉 掘削自噴 民間 旅館8施設 その他事業所 (一般家庭) 40施設 公衆浴場2施設 福うさぎ 58.7 199 ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩温泉 動力揚湯 民間 旅館1施設 山根屋1号井 68.3 83.8 ナトリウム-炭酸水素塩-塩化物温泉 動力揚湯 民間 旅館1施設 (主力源泉も利用) 上の湯3号井 51.2 1.9 ナトリウム-炭酸水素塩温泉 自然湧出 民間 旅館1施設 (主力源泉も利用) ニュー扇屋 69.4 69 ナトリウム-炭酸水素塩温泉 動力揚湯 民間 旅館1施設 (主力源泉も利用) 錦滝旅館 (混合) 錦滝32のイ 錦滝32のロ 50.4 41 単純温泉 自然湧出 民間 旅館1施設 川上温泉 川上温泉 (37-イ、13-2混合泉) 57.2 37 単純温泉 自然湧出 民間 旅館1施設 川上温泉 (26-7、26-3混合泉) 59.0 200 単純温泉 自然湧出 民間 旅館1施設 泉屋・扇屋 68.3 15 単純温泉 自然湧出 民間 旅館1施設 川上温泉 (37林班口) 60.2 9 単純温泉 自然湧出 民間 旅館1施設
中乃湯で利用している2つの源泉のうちの1つ「不老・長寿の湯」の記載が無いが別枠扱いなんだろうか?
施設
土湯温泉の温泉施設は旅館が中心で、中乃湯は唯一の共同浴場。土湯温泉街の中心近くにあり、目の前には足湯も設置されている。
2018年4月にリニューアルしたらしく、とても綺麗な日帰り入浴施設になった。
↑ 写真: 土湯温泉 公衆浴場中乃湯 入口
↑ 写真: 土湯温泉 公衆浴場中乃湯 脱衣場入口 男湯側
↑ 写真: 土湯温泉 公衆浴場中乃湯 脱衣場入口 女湯側
男湯、女湯の向かいには貸切風呂が計2つ用意されている。今回は使われていなかったが、開いた戸の隙間から土くさい温泉の匂いがしていた。
↑ 写真: 土湯温泉 公衆浴場中乃湯 男湯脱衣場
浴室には、内風呂と露天風呂あり。内湯には2つの浴槽があって、炭酸水素塩泉の小浴槽と単純泉の主浴槽がある。露天風呂には、主浴槽と同じ単純温泉を利用した浴槽がある。
↑ 写真: 土湯温泉 公衆浴場中乃湯 2種類の泉質を楽しめます
左端の小さい浴槽は2人サイズ。
木の湯口から50度以上の熱湯がでており、そのままでは入浴がかなり厳しい温度になっている。入浴する前、あるいは入浴しながらかき混ぜると湯口の音が変わり、水が出てきた。これで温度を調整して浸かることができる。必然的に加水にはなるが、必要なときだけ加水することによって温泉の濃さを保てるため、興味深い設計だと思った。
内湯の主浴槽は4人サイズ、露天風呂も同じ位。内湯はやや入り組んだ形をしており、意外と人数が入れない。
木の湯口からそこそこ熱い湯が出てくる。
温泉の利用方法と浴感
まず炭酸水素塩泉の浴槽は、加温無し、加水有り、循環無し、消毒無し。湯口から源泉または水のどちらかが出るようになっており、浴槽の中で加水される方式。湯は浴槽壁面の溝より排出される。
見た目は薄い茶褐色。透明で浴槽の底ははっきりと見える。
味は熱くて飲めず不明。匂いは、天然ガスのようなガス臭がくせになる。
湯の温度は皮膚にビリビリくるタイプで、熱いと我慢できない。
見た目のわりに疲れる湯である。単純温泉と比べるとこちらの湯の方が楽しいので、多く入りたいのだけど、疲れてしまってあまり長湯できなかった。
単純温泉の浴槽は、加温無し、加水有り、循環無し、消毒無し。浴槽縁の切込みからオーバーフロー。こちらは湯口より前で加水でしていると思われる。
見た目は無色透明。しかしよくみると細かい白い湯の華がパラパラと舞っていた。
味は熱くて飲めず不明。
匂いはほぼ無臭。湯を掬って嗅ぐとわずかな卵臭が香った。
言い掛かりだが、浴槽が循環濾過の公営浴場にありそうな感じであるにも関わらず、温泉が掛け流しのため、視覚と浴感がチグハグになって混乱してしまう。
源泉の成分
炭酸水素塩泉の源泉から書く。
源泉名は「不老・長寿の湯」。分析年月日は2018.2.16。湧出量は記載無し、pH7.4、泉温51.3℃、溶存物質 (ガス性のものを除く) 1496mg/kg、成分総計1562mg/kg、泉質名は炭酸水素塩泉 (低張性中性高温泉)。
成分は以下の通り:
陽イオンは、
ナトリウムイオン (Na) 297mg/kg、
カルシウムイオン (Ca) 68.4mg/kg、
マグネシウムイオン (Mg) 16.0mg/kg、
カリウムイオン (K) 19.7mg/kg、
以下略、
計 403.4mg/kg。
陰イオンは、
炭酸水素イオン (HCO3) 628.2mg/kg、
塩化物イオン (Cl) 132.1mg/kg、
硫酸イオン (SO4) 172.8mg/kg、
以下略、
計 936.5mg/kg。
遊離成分で非解離成分は、
メタけい酸 (H2SiO3) 124.9mg/kg、
メタほう酸 (HBO2) 31.0mg/kg、
以下略、
計 156.0mg/kg。
溶存ガス成分は、
遊離二酸化炭素 (CO2) 66.0mg/kg、
計 66.0mg/kg。
↑ 写真: 土湯温泉 公衆浴場中乃湯 不老・長寿の湯 温泉分析書
この湯は東日本大震災の被害で廃業になった富士屋で使っていた湯らしい。
次に単純温泉の源泉について書く。
源泉名は「土湯温泉 (2号泉、16号泉、17号泉、18号泉の混合泉」。分析年月日は2017.7.28。湧出量は記載無し、pH8.55、泉温65℃、溶存物質 (ガス性のものを除く) 575.6mg/kg、成分総計575.6mg/kg、泉質名はアルカリ性単純温泉 (低張性アルカリ性高温泉)。
陽イオンは、
ナトリウムイオン (Na) 112.8mg/kg、
カルシウムイオン (Ca) 11.2mg/kg、
カリウムイオン (K) 10.2mg/kg、
以下略、
計 134.8mg/kg。
陰イオンは、
塩素物イオン (Cl) 75.0mg/kg、
硫酸イオン (SO4) 126.1mg/kg、
炭酸水素イオン (HCO3) 33.0mg/kg、
炭酸イオン (CO3) 16.8mg/kg、
以下略、
計 255.6mg/kg。
遊離成分で非解離成分は、
メタけい酸 (H2SiO3) 158.6mg/kg、
メタほう酸 (HBO3) 22.6mg/kg、
以下略、
計 182.1mg/kg。
↑ 写真: 土湯温泉 公衆浴場中乃湯 土湯温泉 温泉分析書