吹上温泉 みどり荘 (2020/12/11)

宿泊, 1回目, 曇り, 2020年度中79湯目

ふるさと納税の返礼で貰った宿泊券を使うため、鹿児島の吹上温泉みどり荘にやって来た。今日はここに辿り着くまでにいくつかの温泉を巡っていて、最後に入ったのは霧島市牧園町の無人温泉、弘寿温泉だ。いい時間になってきたので霧島は切り上げて、日置市の吹上温泉に向かった。

弘寿温泉 (2020/12/11)
炭酸、硫黄、金気の豊かな味と香りある無人温泉「弘寿温泉」

吹上温泉は江戸時代初期に発見され 400 年近い歴史がある。鹿児島では珍しい非火山性の温泉で、伊作川地下の断層の亀裂を通って温泉が湧出するとされている。みどり荘は 1932 年から続く宿で、みどり池を囲んで建ちほどよい秘湯感がある。当日はちょうど紅葉していたので、薄緑色の池、鮮烈なモミジの赤、そして少し青みがかった温泉の色彩がとても美しかった。

湯は硫化水素臭があってタマゴ臭がふわりと香ばしい硫黄泉。自家源泉では鉄分が多く、珍しい黒い湯の華が浮遊している。掛け流しの温泉にゆったりと浸かり良い宿泊だった。

施設・温泉概要

所在地: 鹿児島県日置市吹上町湯之浦910
Web: 鹿児島 吹上温泉 みどり荘
日帰り入浴: 可 平日10:00-19:30 土日・祝前日10:00-15:00
宿泊: 可 素泊まり 5,500 円/人- (2名時)

吹上21号源泉

源泉名: 吹上21号
湧出地: 鹿児島県日置市吹上町湯之浦910-2
湧出量: 記載無し (吸上ポンプ)
泉温: 36.4 ℃
pH: 9.0
溶存物質合計 (ガス性のものを除く): 318.3 mg/kg
成分総計: 318.6 mg/kg
泉質: 単純硫黄温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
旧泉質名: 硫黄泉 / 単純硫黄泉

吹上23号源泉

源泉名: 吹上23号
湧出地: 鹿児島県日置市吹上町湯之浦字喰873番地他6筆 (909-1)
湧出量: 記載無し (水中ポンプ)
泉温: 59.6 ℃
pH: 9.0
溶存物質合計 (ガス性のものを除く): 360.0 mg/kg
成分総計: 360.0 mg/kg
泉質: 単純硫黄温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
旧泉質名: 硫黄泉 / 単純硫黄泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

伊作断層を通って湧出する歴史ある温泉

吹上温泉は古くは伊作 (いざく) 温泉、湯之浦温泉と呼ばれ江戸時代初期の頃に発見された。当時は黒川湯、所湯、鎌田湯が自噴していた。大正の頃には鎌田湯、大正湯、株式湯、所湯、松崎湯、新湯、壽湯があり旅館4軒や料亭があって繁栄していた [1]。温泉は湯之浦川沿いにあったと思われる。

吹上温泉では、過去の火山活動によって地下に残された熱か、近隣のマグマによって地下水が温められ、温泉として湧出するとされている [2]

温泉街の少し北を流れる伊作川の上流部辺りを地図で見ると、谷が鹿児島市内がある東北東方向に一直線に延びているのがわかり、その地下には伊作断層と呼ばれる断層がある。吹上温泉は伊作断層の延長上にあり、基盤岩に走る亀裂を通って、温泉が地上まで上がってきているのだろう。

吹上温泉みどり荘は 1932年 (昭和7年) の開湯。古い温泉街の 200m 南に位置するみどり荘敷地内で掘削・動力揚湯により自家源泉2本を汲み上げている [3][4]

現在は露天風呂で自家源泉 (吹上23号) を利用。内湯では市営の共通源泉 (吹上21号) と混合して使用している。

みどり池に囲んで建つ秘湯感ある宿

吹上温泉があるのは鹿児島市の南西 15km、日置市の南西部。薩摩半島の西岸近くで、少し行くと吹上浜の美しい砂丘が広がっているが、温泉のあたりに海の気配はあまり無い。吹上温泉の小さい町から少し坂を上るとみどり荘である。

みどり荘は隣接するみどり池を取り囲むようにして細長く建っている。みどり池の色は、温泉成分が混じっているのかもしれない。


⬑ 左端から右端まで全てがみどり荘の建物


⬑ 立派な門をくぐる


⬑ 立看板も良い感じ


⬑ 日帰り入浴は平日10:00-19:30。休日は10:00-15:00と短い


⬑ 日帰りなら券売機を使う。旅館では少し珍しいかも


⬑ 宴会場の前を通る


⬑ 薄緑色の池に鮮明な紅葉

以下は宿泊客向けの説明。みどり池を囲むように男女別の大浴場と露天風呂が配置され、大浴場には家族湯が入っている。


⬑ 入浴は夜23時まで、朝は6時から

なおいつも通り、宿泊の話は全くしないで温泉についてだけ書いていく。

レトロ感ある大浴場

大浴場、家族風呂、露天風呂、の順番で紹介する。入浴した順番とは異なるので突然朝になったり夜に戻ったりする。まずは男湯の大浴場から。


⬑ 男湯へ


⬑ 脱衣場は湯治場のような雰囲気があって気持ちが高まる


⬑ 一浴にして百薬に優る


⬑ 大浴場と家族湯は自家源泉と町営の共同源泉の混合

大浴槽は歴史あるもので、ちゃんと調べていないが、昭和初期の創業当初の姿を改修しつつ残していると思われる。浴室床と浴槽は方形の石を並べてある。浴槽は横一列に細長く、12人くらいは一度に入浴できるだろう。浴室奥側は一面の大きな窓になっており、みどり池を眺めることができる。写真では真っ暗で何も見えないが。


⬑ 味わいある内湯浴室


⬑ 上の写真の反対側


⬑ 浴室入口はレトロな木製サッシ窓

湯口はなぜか2つあって、浴槽の右端には岩の湯口。


⬑ 岩の中には塩ビパイプが通されている

中央には樽を横にしたような謎の円い形状の湯口。


⬑ 湯口の上には飲泉用 (多分) の柄杓


⬑ 入浴中目線

家族湯つばき

次に男湯隣の家族風呂。大浴場をそのまま小さくしたような出で立ちで、浴槽は石造りの2〜3人サイズ。温度は大浴場よりも少し高く、42℃くらい。冬はいきなり入ると少し熱く感じる。


⬑ つばき湯という名が付けられている


⬑ 家族湯の温泉は自家源泉と共同源泉の混合


⬑ 内湯大浴場のコンパクト版といった感じ


⬑ 湯口は程良く変色している


⬑ 入浴しながら湯口を見る


⬑ 入浴しながら入口側を見る

家族湯はぎ

女湯側にも家族湯がある。これは早朝に入浴した。つばき湯と同じ構造だが、湯口の形が少し異なる。明るい時間に入浴すると窓からみどり池が見える。木々や鳥を眺めながら浸かると和む。


⬑ 「はぎ」という名前らしい


⬑ 小さな脱衣場


⬑ 温泉に入る前にかけ湯をしましょう


⬑ 浴槽と窓の光景


⬑ 石組みの中の塩ビパイプから湯を投入する湯口


⬑ 黒い沈澱物は湯の華


⬑ 入浴中目線

緑がかった池を眺めて浸かる露天風呂

最後に、みどり荘の目玉とも言える男湯露天風呂。池のほとりに脱衣場と浴槽があって趣深い。源泉はみどり荘の自家源泉を使っている。


⬑ みどり池や紅葉と調和のとれた浴槽、脱衣場


⬑ とてもワクワク感のある写真が撮れた


⬑ 素朴ながら上品にまとまった浴槽


⬑ 浴槽の横には謎の水槽があるが、流れているのは冷水だった

湯口は浴槽の角にあり石材で覆われている。無色透明な湯が絶えず放出されて、ドバドバというわけではないが湯量は十分そう。湯の勢いを抑えるためか、湯口の前にはなぜか四角い石が置かれていた。

当然のように掛け流しで、浴槽内の吸入や注入は無い。湯口から注がれた湯は、反対側の切込みからオーバーフローする。

浴槽の温度は41℃程度で少し温めに感じ、浸かりやすい。湯口から出る湯はかなり熱く、手に掬うにはけっこう我慢する必要がある。飲泉するときは大人しく柄杓を使うのが良いだろう。


⬑ 上には寝そべる蛙の像


⬑ アップで湯口


⬑ 必要なんだろうけど、金属の手すりがちょっと雰囲気を乱していて惜しい


⬑ 入浴中目線


⬑ 湯口横から池を眺める位置で浸かるのがおすすめ

女湯の露天風呂は静か

女湯の露天風呂も撮ってもらった。みどり池をぐるりと回り込んだ先にあって少し遠い。道中、足下が泥になっているところがあるので靴を履いていった方が良いかもしれない。


⬑ 女湯も構造は大体おなじ


⬑ みどり池は見えなそうだ


⬑ 湯口と…


⬑ こっちにも蛙がいた

黒い湯の華が浮遊して硫化水素臭あり

湯の色は無色透明。光の加減で青みがかって見えるが、浴槽の底は濁り無くはっきりとしている。これがレイリー散乱か。湯の華はほとんど無いが、探してみると時々水中を泳いでいるものが見つけられる。1-2mm サイズで黒いもの、白いものの他、5mm 以上の薄皮上のものがあるようだ。黒い湯の華は珍しく、みどり荘のアピールポイントの一つにもなっている。

飲んでみると地下水の味に続いて、弱い硫黄と思われる苦味がある。あまり硫化水素の毒感は無く、単純に苦かった。匂いはわずかなタマゴ臭。普段はふわりと香る程度だが、ずっと意識していると、少し強めに硫化水素的な刺激臭を感知したこともあった。肌触りはやや滑りがあるくらい。

露天風呂とそれ以外では使っている源泉が異なるとのことだが、体感できる違いは無かった。露天風呂の方が、気持ち硫黄の苦みがはっきりしていたかもしれない。


⬑ コップに汲んでみた

温泉の成分

温泉分析書は吹上21号源泉と吹上23号源泉のものが掲示されていた。いずれも分析依頼者はみどり荘になっているので、どちらも自家源泉だろうか。ということは、内湯で混合している市営の共通源泉はまた別のものか?


⬑ 平成24年 吹上21号


⬑ 吹上21号の温泉分析書別表


⬑ 平成24年 吹上23号


⬑ 吹上23号の温泉分析書別表


⬑ 意外 (?) にも飲用許可は無い


⬑ 食堂横に昭和38年の古い温泉分析書が掲示されていた

以下は自前のプログラムに上記の分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

吹上21号

源泉名: 吹上21号
湧出地: 鹿児島県日置市吹上町湯之浦910-2
分析年月日: 平成24年3月5日

湧出量 記載無し (吸上ポンプ)
pH 9.0
泉温: 36.4 ℃ (気温 15 ℃)
泉質 含硫黄-アルカリ性単純温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 318.3 mg/kg
成分総計 318.6 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
リチウムイオン (Li+)0.300.041.04
ナトリウムイオン (Na+)68.502.9877.81
カリウムイオン (K+)1.700.041.04
アンモニウムイオン (NH4+)1.000.061.57
マグネシウムイオン (Mg2+)1.700.143.66
カルシウムイオン (Ca2+)7.100.359.14
ストロンチウムイオン (Sr2+)0.200.000.00
マンガンイオン (Mn2+)0.200.010.26
鉄 (II) イオン (Fe2+)5.900.215.48
陽イオン計86.63.83100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)7.700.419.69
塩素イオン (Cl-)18.600.5212.29
水酸イオン (OH-)0.200.010.24
硫化水素イオン (HS-)12.100.378.75
チオ硫酸イオン (S2O32-)1.400.030.47
硫酸イオン (SO42-)33.500.7016.55
炭酸水素イオン (HCO3-)103.701.7040.19
炭酸イオン (CO32-)15.000.5011.82
陰イオン計1924.23100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)36.200.46
メタホウ酸 (HBO2)3.300.08
非解離成分計39.500.54
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)0.200.00
遊離硫化水素 (H2S)0.100.00
溶存ガス成分計0.300.00
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.005 mg/kg 未満--
総水銀 (Hg)0.5 μg/kg 未満--
銅イオン (Cu)0.05未満--
鉛イオン (Pb)0.01 mg/kg 未満--
カドミウムイオン (Cd)0.005 mg/kg 未満--
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。
吹上21号 - 湯花草子

吹上23号

源泉名: 吹上23号
湧出地: 鹿児島県日置市吹上町湯之浦910
分析年月日: 平成24年3月5日

湧出量 記載無し (水中ポンプ)
pH 9.0
泉温: 59.6 ℃ (気温15℃)
泉質 含硫黄-アルカリ性単純温泉 (低張性・アルカリ性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 359.8 mg/kg
成分総計 360.1 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
リチウムイオン (Li+)0.300.041.03
ナトリウムイオン (Na+)82.303.5892.27
カリウムイオン (K+)2.500.061.55
アンモニウムイオン (NH4+)1.300.071.80
カルシウムイオン (Ca2+)2.600.133.35
陽イオン計89.03.88100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)12.000.6312.19
塩素イオン (Cl-)30.700.8716.83
水酸イオン (OH-)0.200.010.19
硫化水素イオン (HS-)30.100.9117.60
チオ硫酸イオン (S2O32-)1.000.020.39
硫酸イオン (SO42-)0.400.010.19
炭酸水素イオン (HCO3-)123.302.0239.07
炭酸イオン (CO32-)21.000.7013.54
陰イオン計2195.17100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタケイ酸 (H2SiO3)45.300.58
メタホウ酸 (HBO2)6.800.16
非解離成分計52.100.74
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)0..2--
遊離硫化水素 (H2S)0.300.01
溶存ガス成分計0.300.01
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)0.005 mg/kg 未満--
総水銀 (Hg)0.5 μg/kg 未満--
銅イオン (Cu)0.05未満--
鉛イオン (Pb)0.01 mg/kg 未満--
カドミウムイオン (Cd)0.005 mg/kg 未満--
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。
吹上23号 - 湯花草子

吹上21号と23号を比較してみると、23号の方が泉温が高い。成分総計などは大体同じであまり多くない。

大きく異なるのは硫化水素イオン、硫酸イオン。吹上23号では硫化水素イオンが 30 mg/kg も含まれるのに対し、硫酸イオンは 0.4 mg/kg しかない。一方で吹上21号は硫化水素イオンが 12 mg/kg でやや控えめ、硫酸イオンは 34 mg/kg 含まれて絶対値は小さいものの 100 倍になっている。

また、陽イオンにも違いがあって、吹上21号ではナトリウムイオン 78 mval% にカルシウムイオン 9.1 mval% が続く。鉄イオンが 5.9 mg/kg (5.5 mval%) も含まれていて、黒い湯の華はこの鉄成分と硫化水素イオンが結合したものと思われる。反面、吹上23号はナトリウムイオンが 93 mval% で支配的。鉄イオンは含まれていない。

いずれも硫化水素が地下水に溶け込んだものが湧出していると思われるが、その地下水の成分がやや異なっているのだろう。


⬑ レジオネラ菌の検査済証書


⬑ レジオネラ菌の試験結果


  1. 鹿児島県温泉誌 - 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎

  2. 南九州の地質・地質構造と温泉, 温泉科学 ↩︎

  3. ご挨拶|吹上温泉 みどり荘 ↩︎

  4. お風呂|吹上温泉 みどり荘 ↩︎