奈良田の里温泉 女帝の湯 (2020/11/3)
日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中65湯目
一日の自由時間を得たので山梨県南巨摩郡の温泉へ入浴しに来た。西山温泉 蓬莱館 (2020/11/3) 、奈良田温泉 白根館 (2020/11/3) に寄ったあとは、奈良田の里温泉 女帝の湯に入浴した。女帝とは 1,300 年前の天皇、孝謙天皇のこと。奈良田集落の一番高い所にある奈良法王神社は孝謙天皇の館があった場所に建てられたとされている。女帝の湯はそのすぐ隣にある。
温泉は、強烈な個性を持つ白根館と、長期湯治向きの蓬莱湯の中間くらいの泉質。利用者も少なく静かで、調度良く香る湯の湛えられた総檜の浴槽で浸かっていると大変心地良く、うっかり寝てしまう。奈良田に来たら白根館には入浴すると思うが、続けて女帝の湯でも入浴すると南アルプスの長い帰り道がより豊かになるだろう。
施設・温泉概要
所在地: 山梨県南巨摩郡早川町奈良田486
Web: 奈良田の里温泉|山梨県早川町
日帰り入浴: 可 9:00-18:00 (受付17:30まで), 7月〜9月 9:00-19:00 (受付18:30まで)
宿泊: 不可
源泉名: 奈良田の里温泉
湧出地: 山梨県南巨摩郡早川町奈良田居平263番地湧出
湧出量: 6.6 ℓ/分 (動力揚湯)
泉温: 41.3 ℃
pH: 8.8
成分総計: 1,714.9 mg/kg
泉質: ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
旧泉質名: 食塩泉 / 含重曹食塩泉
一番良い浴槽の温泉利用方法:
加温 | 加水 | 循環 | 消毒 |
---|---|---|---|
無 | 無 | 無 | 無 |
公式ページ 女帝の湯 によると自噴とのことだが、温泉分析書上には動力揚湯と記述されている。分析書は平成31年で最近のものなので、現在は動力揚湯と思ってよさそうだ。
隣には孝謙天皇の宮殿があったとされる
奈良田 (ならだ) の里温泉は山梨県南巨摩 (みなみこま) 郡の最奥、奈良田地区にある温泉。山梨県南西部を走る国道57号の下部 (しもべ) 温泉附近から山梨県道37号に入り、ほとんど一本道で集落も少ない山道をひたすら走って35kmの先にある。まさに秘境の名に相応しい土地。往復70kmの区間、ガソリンスタンドも無いのでバイクの場合は燃料を確保してからでないと途中でガス欠になりかねない。1軒、入口近くにローカルなものがあるが、営業時間の制限が大きそうだ。奈良田地区は小さい集落だが2つの温泉があって、斜面の下にあるのが奈良田温泉「白根館」、上にあるのが、ここ奈良田の里温泉「女帝の湯」である。道路の3km手前には西山温泉の「元湯 蓬莱館」「慶雲閣」がある。
奈良田温泉のある奈良田集落には、奈良時代の天平 (てんぴょう) の時の女帝、孝謙天皇 (奈良王) が滞在して8年間住んだという伝説が残され、孝謙天皇にまつわる温泉の話が語り継がれている。
⬑ 孝謙天皇が御衣を洗った温泉が奈良田の里温泉の泉源
秘境の霊場 女帝の湯
奈良田の里温泉第四十六代孝謙天皇は女帝であった。生来健康にすぐれず、神仏に快癒を祈願されていた。
ある時、夢に老翁が現われて「甲斐の国巨摩郡早川庄湯島郷に効験あらたかな霊場がある」との信託があった。
天平宝字二年 (七五八) 五月、吉野を出発された女帝主従一行は御勅使川に沿ってさかのぼり、ドノコヤ峠を越え奈良田にむかわれた。
奈良田に滞在された女帝は温泉に入浴されること二旬にして病は全快されたが、この地をこよなく愛され、八年間ここに御遷居された。
女帝、孝謙天皇が病をいやされ、御衣を洗われたといわれる霊泉が奈良田の里温泉の泉源になっている。泉質-ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉 (アルカリ性低張性高温泉)
効能-神経痛、リウマチ、皮膚病、婦人病
読み方をメモしておく: 天平宝字 (てんぴょうほうじ)。御勅使川 (みだいがわ)。
⬑ 神社の建つ場所には孝謙天皇の館があったとされる
奈良法王神社
当神社のご祭神は孝謙天皇を祭る
別に奈良法王 (伝不詳) なりとも言ふ。人皇第四十六代孝謙天皇天平宝字二年 (七五八年) 五月より八年間この地にご遷居なされしと伝えられる奈良法王遺蹟並びに、奈良田七不思議などすべて天皇にまつわるものである延暦三年 ここ宮殿の跡に神殿創立させるものなり 現本殿は寛政元年再建せるものなり。
ご神木の樅樹令八百五十七年は昭和二十七年の台風により折損して今はなし。
⬑ 奈良田集落の一番高い所に建つ奈良法王神社
⬑ の境内に流れる御符水
⬑ ここで湧いているわけではなく、山から引いている
御符水
これは「御符水」と云って、奈良田の七不思議の一つで源水は山の中にあり、それを導水して「お手洗い池」用にしたものである。第四十六代孝謙天皇 (天平宝字二年) この地にご遷居の折「ご膳水」とし、また「硯水」として、ご使用になられた水で、どんな干天にも、水の干ることなく、またどんな降雨続きでも、濁ることなく、そしてこの水を飲むと諸病に効能があると云う。孝謙天皇御遷居縁起鈔によると、「斯地ニ七不思議ト唱フルアリ曰ク、第一御符水ト称シテ皇居ノ脇ニ御硯井アリ諸病ニ功アリ呑者ハ病即消滅スル」と云われている。
孝謙天皇御遷居縁起鈔は、奈良田の外良寺 (ういろじ) の住職「志村孝学」が1891年 (明治24年) に発刊したもの [1]。外良寺の住職が発刊した資料には、より古い「外良寺略縁起」もあって、これらが奈良田の言い伝えに関する情報源となっている。
いま外良寺は観光客向けの駐車場の後ろにあるが、かつてはもっと低い位置にあったらしい。しかし1960年 (昭和35年) に西山ダム (奈良田湖) の建設に伴って水没し、現在の場所に移設された。
⬑ 左下に外良寺、坂を上って上部に奈良田の里温泉と奈良法王神社
⬑ 奈良田の里温泉の看板から階段を上る
⬑ 温泉は18:00まで入浴できる
⬑ 受付で入浴料金を払って入る
⬑ 学校のような公民館のような雰囲気の館内
⬑ 渡り廊下を通って浴場へ
⬑ 左が女湯、右が男湯
⬑ 木造の落ち着いた脱衣場
⬑ 飲泉の蛇口は故障中。残念
⬑ 2016年頃は○○総選挙というのが流行っていたような気がする
素朴な浴槽と優しい湯で寝られる
浴室は大きな窓があって外の光が差し込み明るい。山中の谷を見下ろす景色は南会津の 2019/7/15 深沢温泉むら湯 を思い起こさせた。浴室壁、浴槽は共に総檜で風情がある。浴場内には先客が独りいたが途中からは完全一人占めになって快適だった。
⬑ 明るくも落ち着いた浴室
浴槽は2つあって窓の下に隣接している。入口から見て右手側がかなり温めの大きな浴槽で38℃くらい。8人は同時に浸かれそうだ。左手側にはもう少し温かい39℃くらいの浴槽があって、大きさは6人分くらい。
⬑ 手前の浴槽が温い 奥が少しあたたかい
温かい方の浴槽では湯口から常に新しい湯が注がれている。浴槽の縁の上に乗った木の升の底に塩ビパイプが頭を出していて、升から溢れた湯が浴槽に流れ込む。
⬑ 総檜の浴槽
⬑ 実に素朴な湯口
⬑ 静かにトロトロと湯が投入される
温泉の使い方は、加温無し、加水無し、循環無し、塩素消毒無しで素晴らしい。湯口から注がれた湯は、あたたかい浴槽を満たしたあと、溢れて温い浴槽に流れ込んでオーバーフローする。無駄の無い使い方にも好感が持てる。当然、底面吸入や湯口以外からの注入も無い。
⬑ 湯に浸かりながら浴室入口側を見る
⬑ 湯口の前から浴槽全体を見渡す
湯は無色透明。浴槽の底の檜の木目まではっきりと見える。よく見ると数ミリ程度の大きさで白黄色の湯の華が浮遊していた。すぐ近くの西山温泉の蓬莱湯で見たものと似ている。むしろ白根館と蓬莱湯の中間くらいの印象か。同じ奈良田の白根館よりも、3km離れた西山温泉の方に湯の感じが近いので面白いと思った。
湯口から湯を汲んで飲んでみると、ほとんど無味だがあ、ごく微かに土っぽいような食塩泉のような塩味があった。少し量を増やして飲むと弱いタマゴ味があって、飲み込むと鼻からタマゴ臭が抜けた。
匂いはほとんど無臭。ごくごく微かに土っぽい臭い、仄かな鉱物油臭があったかもしれない。
⬑ 湯を真上から撮った
肌の感触は少しツルツルし、柔らかい。温度が温めなのもあると思うが、優しい湯で疲れにくい。
他の入浴客も全く来ないし、静かな浴室でゆったりと浸かっている内に寝てしまった。
奈良田温泉 白根館と西山温泉 蓬莱湯の間を埋める泉質
温泉分析書は脱衣場の壁に掲示されていた。高い所に古い掲示、目線の高さに紙の新しい掲示。
⬑ 昭和54年の分析書
⬑ 禁忌症・適応症の掲示
⬑ 平成31年の分析書
⬑ 浴用の温泉分析書別表 飲用は無かった
新しい分析書について書く。以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。
源泉名: 奈良田の里温泉
湧出地: 山梨県南巨摩郡早川町奈良田居平263番地湧出
分析年月日: 平成31年2月25日
湧出量 測定不能 (動力揚湯)
pH 8.8
泉温: 41.3 ℃ (調査における気温5.0℃)
泉質 ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 (低張性・アルカリ性・温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1714.9 mg/kg
成分総計 1714.9 mg/kg
温泉の成分は以下の通り:
(1) 陽イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
水素イオン (H+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
リチウムイオン (Li+) | 2.20 | 0.32 | 1.25 |
ナトリウムイオン (Na+) | 557.80 | 24.26 | 94.84 |
カリウムイオン (K+) | 12.50 | 0.32 | 1.25 |
アンモニウムイオン (NH4+) | 9.00 | 0.50 | 1.95 |
マグネシウムイオン (Mg2+) | 0.30 | 0.02 | 0.08 |
カルシウムイオン (Ca2+) | 3.00 | 0.15 | 0.59 |
ストロンチウムイオン (Sr2+) | 0.40 | 0.01 | 0.04 |
アルミニウムイオン (Al3+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
マンガンイオン (Mn2+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
鉄 (II) イオン (Fe2+) | 0.10 | 0.00 | 0.00 |
鉄 (III) イオン (Fe3+) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
陽イオン計 | 585 | 25.6 | 100.00 |
(2) 陰イオン
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリバル [mval/kg] | ミリバル% [mval%] |
---|---|---|---|
フッ素イオン (F-) | 10.30 | 0.54 | 2.11 |
塩素イオン (Cl-) | 595.10 | 16.79 | 65.69 |
臭素イオン (Br-) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
ヨウ化物イオン (I-) | 0.10 | 0.00 | 0.00 |
水酸イオン (OH-) | 0.10 | 0.01 | 0.04 |
硫化水素イオン (HS-) | 1.70 | 0.05 | 0.20 |
硫化物イオン (S2-) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
チオ硫酸イオン (S2O32-) | 0.10 | 0.00 | 0.00 |
硫酸水素イオン (HSO4-) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
硫酸イオン (SO42-) | 2.00 | 0.04 | 0.16 |
リン酸水素イオン (HPO42-) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
炭酸水素イオン (HCO3-) | 434.90 | 7.13 | 27.90 |
炭酸イオン (CO32-) | 30.00 | 1.00 | 3.91 |
メタ亜砒酸イオン (AsO2-) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
メタホウ酸イオン (BO2) | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
陰イオン計 | 1074 | 25.6 | 100.00 |
(3) 遊離成分
非解離成分:成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
メタ亜砒酸 (HAsO2) | 0.00 | 0.00 |
メタケイ酸 (H2SiO3) | 33.40 | 0.43 |
メタホウ酸 (HBO2) | 21.90 | 0.50 |
非解離成分計 | 55.30 | 0.93 |
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
遊離二酸化炭素 (CO2) | 0.00 | 0.00 |
遊離硫化水素 (H2S) | 0.00 | 0.00 |
溶存ガス成分計 | 0.00 | 0.00 |
(4) その他の微量成分
成分 | ミリグラム [mg/kg] | ミリモル [mmol/kg] |
---|---|---|
総砒素 (As) | 0.01未満 | -- |
総水銀 (Hg) | 0.00046 | 0.00 |
銅イオン (Cu) | 0.05未満 | -- |
クロム (Cr) | 0.01未満 | -- |
鉛イオン (Pb) | 0.01未満 | -- |
カドミウムイオン (Cd) | 0.003未満 | -- |
微量成分計 | 0.00 | 0.00 |
下記にも掲載しました。
奈良田の里温泉 - 湯花草子
陽イオンは大半がナトリウムイオンで、残りをリチウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオンで分け合う配分。白根館ではアンモニウムイオンが 16.5 mg/kg 含まれてアンモニア臭が感じられたが、こちらでは 9.0 mg/kg でも匂いは感じられなかった。また、白根館と同様にリチウムイオン、ストロンチウムイオンが少し多く気になる。
陰イオンは塩素イオン 65.7 %、炭酸水素イオン 27.9 %、炭酸イオン 3.91 % でほとんど。硫化水素イオンが 1.70 mg/kg がやや主張しているが、白根館と比べるとおとなしい成分構成のようだ。フッ素 10.3 mg/kg は少し個性的。
火山系のアルカリ泉や、古代海水系の場合、メタけい酸が多くなるのだが、ここでは 33.4 mg/kg しか無く多くはないようだ。逆に珍しく、温泉の成因を教えてくれそうだ。メタほう酸は 21.9 mg/kg も含まれて多め。