塩原温泉 源美の宿 会津屋 (2020/10/3)

宿泊, 1回目, 曇り後雨後曇り, 2020年度中57湯目

塩原温泉郷の古町温泉にある「会津屋」に宿泊した。1階の洞窟風呂には昔から自噴する源泉の跡が洞窟として残されており、岸壁から滲み出す黄金色の温泉成分は実に壮観である。会津屋では日帰り入浴を受け付けておらず、2本の独自源泉を味わうには宿泊が必要。

湯は源泉より直接引いており、加温無し、加水無し、循環無し、消毒無しのとても新鮮な状態で使用されている。弱い塩味と土の香りがする温泉にじっくりと浸かることができた。

今回は宿泊で訪問したが、全部書くと文章量が多くなりすぎて終わらないので、いつも通り、温泉についてのみ書く。

施設・温泉概要

所在地: 栃木県那須塩原市塩原733
Web: 那須 塩原温泉 美肌美人の湯 | 源美の宿 会津屋 公式サイト
日帰り入浴: 不可
宿泊: 可 8,000円〜

源泉名: 会津屋源泉、会津屋岩風呂源泉混合泉
湧出地: 栃木県那須塩原市塩原925番地5
湧出量: 68.9 ℓ/分 (自然湧出)
泉温: 66.9 ℃
pH: 6.3
成分総計: 1794 mg/kg
泉質: ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 (低張性・中性・低温泉)
旧泉質名: 含重曹食塩泉

一番良い浴槽の温泉利用方法:

加温 加水 循環 消毒

温泉

栃木県北部に位置する塩原温泉郷には、塩原温泉十一湯と呼び、大網温泉、福渡 (ふくわた) 温泉、塩釜温泉、塩の湯温泉、畑下温泉、門前温泉、古町温泉、中塩原温泉、上塩原温泉、新湯温泉、元湯温泉で11の温泉地が存在している。この中でも最も温泉施設が多いのが古町温泉で、塩原温泉旅館組合のページによると現在は11の施設がある [1]。今回宿泊した「源美の宿 会津屋」もこの古町温泉にある。

古町温泉は1674年 (延宝2年) には温泉開発が行われていた [2] ……とのことだが、出典は不明。明治時代には5つの源泉が自噴しており「不動湯」「旭の湯」「中の湯」「角の湯」「御所の湯」等があった。温泉宿は「角屋」「中会津屋」「上会津屋」「米屋」「加治屋」「萬屋」「那須屋」「楓川樓」が存在した [3]。中会津屋の場所に、現在の会津屋がある。向かいに建つ上会津屋だけは当時の名前を残している。会津屋1階の洞窟風呂には剥き出しの岸壁に洞窟が口を開けており、旅館従業員に訊いたところ、人為的に掘ったものではなくかつての自噴痕だという。過去の不動湯源泉は「箒川の西岸岩窟より湧出す、上に不動の像を刻す」と書いてあるので、昔、洞窟で湧いていた温泉は不動湯と呼ばれていたのかもしれない。


⬑ 玄関は温泉街のある旧街道側


⬑ 崖下に洞窟風呂、崖中ほどに岩風呂 (美肌美人の湯)、崖上に客室


⬑ 1階が洞窟風呂、3階が美肌美人の湯


⬑ 日本自然療法協会というところから日本四大美人の湯の認定を受けたらしい。Twitterならあった。他の美人の湯は不明だ。


⬑ エレベーターで6階まで上がってきた


⬑ 左手に客室

部屋や食事については省略。

1階洞窟風呂には天然の洞窟・自噴・滲み出し有り

1階洞窟風呂と3階美肌美人の湯は時間による男女入替制になっており、夕方 (23:30) まで洞窟風呂が男湯だった。さっそく向かう。


⬑ 入口には飮泉所


⬑ 熱い源泉がチョロチョロと流れ出し、析出物を作っている 期待が高まる


⬑ 和モダン系の綺麗な脱衣場


⬑ 脱衣場奥から。正面が入口、左側に浴室


⬑ 浴室入口の前に湯の使い方についての説明があった

以下、書き起し。

美肌美人の湯
「会津屋」のお湯の特徴

●沸かさない
57℃と66℃の二ヶ所の源泉から直接お風呂にひいております。温度調整で適温に維持、大自然の温もりをそのままお肌で感じてください。

●足さない
湯量はたっぷりございまあす。水道水を足していない100%天然温泉です。

●循環させない
豊富な湯量があるため湯船から流しっぱなし。よくある循環式による塩素殺菌処理等を全くしておりません。ですから肌に安心でやさしいお湯です。

●敷地内の源泉です。(一ヶ所は自噴源泉)
敷地内に二ヶ所ある性質の違う源泉から直接お風呂に使用。いわゆる源泉から分けてもらうもらい湯ではありません。

●すぐれた効能
弱酸性で保温力に優れており、美肌美人の湯として認定されております。また、細菌類がなく飲料にも適しております。

2本の源泉を合わせて温度調整しており、加温無し、加水無し、循環無し、塩素消毒無しで湯を使用していることが書いてあった。2本の源泉ともに湯船へ直接引いているとのこと。尊い。


⬑ 紹介文の下には水飮み場もあった これで無限に入浴できる


⬑ ドアの向こうに浴室


⬑ 堆積岩の壁から滲みだすオレンジ色の湧出物が浮くことがあるらしい!!

浴室内は蒸して湯気に満ちており、全体がよく見えなかった。目が慣れてくると、手前には15人以上が足を伸ばして入浴できそうな大きな浴槽、その奥は垂直な岸壁になっていた。岩肌はじっとりと濡れて黒っぽく見える。壁の一部は抉れて 2m×3m 程の大きさの洞窟が開いていた。

⬑ 浴室の奥には洞窟

帰り際にフロントの人に訊いてみたが、洞窟はかつて温泉が自噴していた跡だという。現在は湯の流れを感じないが、温泉の成分がじわじわと滲み出し、壁に黄金色の流れを描いている。触ってみると柔らかく、生っぽい。


⬑ 黄金色の染み出しが模様を描いていた


⬑ 洗い場側から洞窟風呂の浴室 神殿のようだ


⬑ 洗い場側の壁からも黄金が滲み出している

湯口は洞窟に向かって手前の右手側にある。水面から2m弱くらいの高さまで岩が積まれており、その上部から源泉が注がれている。湯はパイプで浴室の外側から引かれているようだ。パイプを辿っていくと2本の黒いホースが通されていた。それぞれを異なる源泉が流れており、太いパイプの内部で混合しているそうだ。


⬑ 洞窟の手前に湯口


⬑ 高く積まれた岩の上から温泉を流下している


⬑ パイプから注がれる湯は60℃近くあり素手では触れられない


⬑ 浴室入口側で2本のホースが通っている

浴槽に入って右手に、浴槽底から3mくらいの高さまで岩が積まれている。その上にパイプが渡されて湯が注がれる。下の方にももう一本出ている。パイプを根本に辿っていくと2本の源泉が挿入されている。黒い太いパイプの途中で混合しているとのこと。

パイプ以外にも、湯口下の岩の水面付近からも湯が注がれていた。これが自噴泉かもしれない。


⬑ 手前の隙間っぽい場所からも温泉が流れ出していた

湯口には、湯の流れる部分に焦茶色の析出物が張り付き丸っこくコーティングされていた。その周囲にはトゲ状、もしくはそれがさらに成長した大粒の白い析出物。


⬑ びっしりと析出物

湯の色は無色透明で、薄暗い浴室の中でも湯船の底が見えた。水中では時々白い湯の華が浮遊していたが、湯口付近では見当たらない。


⬑ 湯は透明で浴槽底が見えた

脱衣場に設置された紙コップを使い、湯口から湯を汲んで飲んでみた。弱い芒硝の塩味があり、少し土気と鉱物油味、石膏味。薄味で美味しく抵抗無く飲めるのでコップ何杯分も飲んだ。匂いも同様の印象で、弱く食塩スープの香りと石膏臭。肌触りは滑らかでツルツル感有り。身体によく馴染み気がつくと長湯している。


⬑ 湯口下に座って入浴中目線

3階美肌美人の湯は圧倒的存在感の析出物

翌朝、男女浴槽が入れ替わって、美肌美人の湯にやってきた。個人的には朝に洞窟風呂に入れた方が良かった。エレベーターで3階に降りると暖簾がかかっていて脱衣場。


⬑ 洞窟風呂と比べると盛り上がりに欠ける入口


⬑ 脱衣場も洞窟風呂と比べて少し小さい


⬑ 美肌・美人の湯 認定書が掲示されていた


⬑ 手前が洗い場、右手に露天風呂、中央に浴槽


⬑ 壁側から浴室全体を眺める


⬑ 壁側は人工的な石積みだった


⬑ ささやかな露天風呂もある


⬑ 外は上会津屋が見える

この通り美肌美人の湯の浴室はやや俗っぽく面白みに欠けると思われたが、湯口がすごかった。壁際の石積みには巨大な析出物が形成され、その大きさは水面上の高さ2m、幅1m、奥行50cm程もある。表面にはバスケットボール大のコブが並んでいる。上部から下に流れるにつれコブは大きくなって幾何模様を思わせた。


⬑ 人工的な浴室に異質な巨大析出物。底部は壁側から大きく迫り出して水面で途切れ、屋根のようになっていた


⬑ 湯の流れは黒か焦茶色にこってりと染められていた


⬑ 下部は不思議な半球が形成されていた


⬑ 浴室が作られてからできたのか、元からここに有ったのか…。今も成長しているのだろう


⬑ 頂上部ではパイプから湯が注がれている


⬑ ちなみにパイプは露天風呂の横を通って来ていた


⬑ 湯口下から浴室入口側


⬑ 湯口下から壁側

3階 美肌美人の湯では、1階 洞窟風呂と異なり「美肌美人の湯源泉」のみを使用している。こちらの湯の方が素朴な泉質のように感じたが、気分以上の違いは感じられなかった。


⬑ 湯は無色透明

6階露天風呂は崖の上

最後に6階露天風呂。貸切露天としても利用できるが、予約が無い時は普通の男女別浴槽になっている。6階露天風呂は、1階、3階の浴槽を越えるものでは無かったので写真だけとする。


⬑ 6階の端に浴場入口


⬑ 男女別に分かれていた


⬑ 建物内部では6階だけど、外は崖の上の地上なので普通に木が見える


⬑ 浴槽とシャワー2基があるだけ


⬑ 湯口からはやや温い湯が注がれていた


⬑ 光の反射で白く濁って見えるが、無色透明の湯

温泉の成分

温泉分析書の掲示はあるにはあったものの、陽イオンしか示されていなかった。ただし公式サイトを見ると会津屋源泉・会津屋岩風呂源泉混合泉の成分表だけ掲示されている [4]


⬑ 「洞窟風呂の自噴泉 (会津屋源泉)」「美肌美人の湯源泉 (会津屋岩風呂源泉)」の2本を使用


⬑ 温泉成分・禁忌症・適応症等掲示に分析表が載っていたが、残念なことに陰イオンの記載が無し フロントの人にも訊いてみたがいまいち分かっていなそうだった

以下は自前のプログラムに分析書のデータを入力して、自動計算したもの。本物の分析書とは計算精度等の理由によりやや値が異なる場合があるかもしれない。

源泉名: 会津屋源泉・会津屋岩風呂源泉混合泉
湧出地: 栃木県那須塩原市塩原925番地5
分析年月日:

湧出量 0 記載無し
pH 6.3
泉温: 65.5 ℃ (気温18.0℃)
泉質 ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 (低張性・中性・高温泉)
溶存物質合計 (ガス性のものを除く) 1723.4 mg/kg
成分総計 1794 mg/kg

温泉の成分は以下の通り:

(1) 陽イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
水素イオン (H+)0.000.000.00
ナトリウムイオン (Na+)309.5013.4664.25
カリウムイオン (K+)43.601.125.35
マグネシウムイオン (Mg2+)29.402.4211.55
カルシウムイオン (Ca2+)78.203.9018.62
ストロンチウムイオン (Sr2+)------
アルミニウムイオン (Al3+)0.000.000.00
マンガンイオン (Mn2+)0.500.020.10
鉄 (II) イオン (Fe2+)0.800.030.14
鉄 (III) イオン (Fe3+)0.000.000.00
亜鉛イオン (Zn2+)0.000.000.00
陽イオン計46220.9100.00
(2) 陰イオン
成分ミリグラム [mg/kg]ミリバル [mval/kg]ミリバル% [mval%]
フッ素イオン (F-)0.300.020.10
塩素イオン (Cl-)453.6012.7963.04
臭素イオン (Br-)1.100.010.05
水酸イオン (OH-)0.000.000.00
硫化水素イオン (HS-)0.000.000.00
硫化物イオン (S2-)0.000.000.00
チオ硫酸イオン (S2O32-)0.000.000.00
硫酸水素イオン (HSO4-)0.000.000.00
硫酸イオン (SO42-)27.900.582.86
亜硝酸イオン (HNO2-)0.000.000.00
硝酸イオン (NO3-)0.000.000.00
リン酸水素イオン (HPO42-)0.000.000.00
リン酸イオン (PO42-)0.000.000.00
炭酸水素イオン (HCO3-)420.706.8933.96
炭酸イオン (CO32-)0.000.000.00
メタ亜砒酸イオン (AsO2-)0.000.000.00
メタケイ酸イオン (HSiO3-)0.000.000.00
メタホウ酸イオン (BO2)0.000.000.00
陰イオン計90420.3100.00
(3) 遊離成分
非解離成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
メタ亜砒酸 (HAsO2)0.100.00
メタケイ酸 (H2SiO3)340.004.35
メタホウ酸 (HBO2)17.700.40
非解離成分計357.804.75
溶存ガス成分:
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
遊離二酸化炭素 (CO2)70.601.60
遊離硫化水素 (H2S)0.000.00
溶存ガス成分計70.601.60
(4) その他の微量成分
成分ミリグラム [mg/kg]ミリモル [mmol/kg]
総砒素 (As)----
総水銀 (Hg)0.000.00
銅イオン (Cu)0.05未満--
クロム (Cr)0.000.00
鉛イオン (Pb)0.000.00
カドミウムイオン (Cd)0.000.00
亜鉛イオン (Zn)0.01未満--
微量成分計0.000.00

下記にも掲載しました。
会津屋源泉・会津屋岩風呂源泉混合泉 - 湯花草子

成分は食塩 (ナトリウム塩化物) が三分の二、残り三分の一で塩化土類や重曹を含んでいる。泉質の上ではナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉だが、アルカリ土類金属 (マグネシウム、カルシウム) 泉も十分量が含まれている。他には、メタけい酸 340 mg/kg が大変印象的な数字だ。全国でも有数の含有量と思って良いだろう。


  1. 塩原温泉郷公式ページ(塩原温泉旅館組合/塩原温泉観光協会)・栃木県・那須塩原市 ↩︎

  2. 古町温泉 | 温泉の歴史ジャパン ↩︎

  3. 塩原温泉誌 - 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎

  4. 会津屋「洞窟風呂」-温泉成分分析表 ↩︎