硫黄取りの湯 (2020/7/25)

日帰り, 1回目, 曇り, 2020年度中20湯目

秋田焼山を玉川温泉側より登り、後生掛温泉方面に降りてきた。焼山北西部の噴気地帯の最下部、湯ノ沢の源流部では温泉が自噴して硫黄取りの湯と呼ばれている。

これまで訪れた中で一番綺麗で快適な野湯だった。白濁した美しい湯に浸かって焼山の景色を眺めていると、あっという間に時間が過ぎてしまった。一日中入浴しても飽きないのではないかと感じるほど素晴らしい温泉だった。

施設・温泉概要

所在地: 秋田県鹿角市八幡平
泉質: 酸性泉

温泉の利用方法: 野湯

焼山登山道

白く神々しい湯沼に別れを告げて登山道を下る。周りは低い植物が生えるのみで何も無い荒寥とした風景が広がっている。私の他には誰もおらず、風の音だけが聴こえる。


↑ 道は薄い霧に覆われている

少し下ると、左側に噴気地帯が見えるようになった。湯沼の裏の高いところからずっと下まで広がっている。これを下り切ったところに温泉が湧いているのだろう。


↑ 登山道は噴気地帯に沿って続いている


↑ どんどん下っていく

この沢にも硫黄鉱山があったらしい。焼山にはいくつもの鉱山があったのだが、湯の沢には又一鉱山があったそうで、硫黄取りの湯も当時は「一の湯」と呼ばれていたそうだ[1][2]

蒸の湯から西に入る事約一里半にして又「一の湯」がある常に強烈な硫黄泉で皮膚病又は傷所等を癒しには持って來いである此湯に浴せんとする人は直き上の干沼から泥硫黄を掘る爲めに設けられた阿部藤助の又一鑛山の事務所に頼むが一番である地は約四千尺の高所にあり千山萬岳を足元に瞰むの展望、朝嵐夕陽の淸澄、雲煙雨霧の變化等正に日本アルプス山中の諸溫泉に比すべきものであらう。

ちなみに、硫黄取りの湯には関係無いが、上の文章の続きには次のように書かれている。鹿湯は現在の玉川温泉のことだ。砂子沢温泉は、国土地理院地図に温泉マークがあるのが気になるが、昭和初期頃に無くなったようだ。

之より燒山の險を越ゆれば仙北郡に入りて鹿湯がある轟々と地を動かして湧出る熱湯は幅二間餘の小川をなして流れ笹葺きの小屋から眞裸で飛び出した浴客は其の湯の川に浸りて天日の下に浴を探るの光景は正に人文以前の原始的光景でなければならない以上の外鹿角の溫泉として特種なるものに 砂子澤冷泉 がある、小坂町より湯川方面に入る事一里、普通の錢湯の如く燃料を以て溫度を伏し入浴するのであるが皮膚病に特効があると稱せられ相當の入浴者があり夫れが爲め旗宿が二軒存在して居る。


↑ 向かい側に建物の残骸? 又一鉱山か宮川鉱山の施設だったと思われる

さらに下ると、右側から白い沢が合流してくるのが見えてきた。せっかくなので横から合流してきた沢も覗いてみよう。


↑ 白く濁った川を辿る


↑ 川を渡って右岸には普通に踏み跡があった


↑ 謎の石積みも鉱山施設の跡らしい

石積みを過ぎてすぐ、1分も歩かないうちに源泉と思われる一帯に着いた。山側の斜面の下から温泉が湧出している。


↑ 川底には湯の華が沈み白い


↑ 大まかに手前、奥の2箇所から湧出


↑ 澄んだ温泉が湧きだしていて熱い

源泉は熱いが、わずかな距離で冷水と混じり溫度が下がってしまっていた。入浴に適した溫度、湯量ではないようだ。どうせすぐに硫黄取りの湯があるので、ここでは飮泉のみとした。


↑ いただきます!!

色は無色澄明。味はそこそこ強い酸味で、強酸泉にあるクリーム系の味覚がある。pHは2〜3といったところだろう。飮みやすくは無いので、カップ一杯の湯でも飲み干すのに時間がかかった。匂いは弱いが刺激的な硫化水素臭があった。

少し戻っていよいよ硫黄取りの湯へ。どうでもいいが、温泉を汲んで浮かれていたら足を踏み外して沢に落ちた。


↑ 左がさっきの沢、中央の九十九折りが通ってきた道、右の沢は湯沼の裏まで続く

右の沢も上がってみたかったが、次回の宿題にする。

硫黄取りの湯

先程の源泉から少し歩くとすぐに、実に立派な野湯が現われた。6人は入浴できる広い浴槽で、少し泥が積もっているものの深さも初めから十分。温度は場所により異なるが41℃〜46℃で、好みの水温を選ぶことができる。浴槽の脇の道はよく渇いていて荷物の置場にも困らない。さらにはスコップ、サンダルが置かれアメニティ? までも充実している。今までに会った野湯の中で最も快適だ。

初めは下流側の中央しか十分な深さが無かったが、せっかくスコップがあったので掘り返して深さを確保しながら入浴した。


↑ 上流側から浴槽 奥側に掘り返した跡

浴槽は瓢箪型のようになっているが、上流側から流入した湯は瓢箪のくびれで川に出ていってしまっていた。このままでは下流側の湯は入れ替わらず新鮮でない。そのため、一度泥で湯が濁ってしまった場合もなかなか元に戻らない。そこでくびれ辺りの穴を埋めると共に、下流に逃げ道を開け、浴槽全体に新鮮な湯が供給されるようにした。


↑ 川側を少し埋めて湯を堰き止めた


↑ 入浴中の壮大な景色


↑ 麓側は雲で見えず

湯の色は無色透明で、浴槽は白濁してやや緑がかっていた。入浴すると浴槽底に積もった鉱泥が舞い上がり濁る。しばらくじっと入浴していると、水面近くは透明に戻った。匂いはザラリとしたタイプの硫化水素臭で、弱い刺激臭。


↑ 下流側から


↑ 浴槽のお湯


↑ 湯の底に積もった泥

湯舟の底には大量の鉱泥が沈んでおり、素手で容易に広い上げることができる。自然のものしか入っておらず清潔感のある泥だ。温泉施設の泥はどうしてもゴミが混じってしまうため、きれいな泥は野湯の恩恵だ。興奮して全身に塗ったくって写真を撮って遊んだが、見苦しいので掲載はしない。


↑ 登山道を流れる源泉

湧き出す温泉の溫度は70℃程。湯ノ沢の右岸の斜面下から湧出し、登山道を横切って浴槽に注がれている。湯は浅く広く流れていて、湯量は見た目より多い印象。瓢箪型になっている浴槽の上流側を掘って浸かってみたが、46℃はあったのでゆっくり入浴していられる感じではなかった。

湧き出した直後の温泉は無色透明で透き通っている。湧き出し口の底には泥が溜まり白くなっていた。


↑ 源泉部に接近


↑ 湯はあちこちから流れ出している

例の如く、カップで湯を汲もうとしたが、流れが浅いのでうまく汲めず。少量での飮泉になってしまったが、少し上流の沢で飲んだ湯と大きな差は感じられなかった。はっきりとした酸性でクリーミーな味がある。

ずっと入浴していたかったが、後の工程もあるので名残りを惜しみつつ湯を後にした。1時間半ほども入浴していたようだ。まだ全然、浸かり足りない。


↑ 美しい浴槽


↑ 湯は白濁してわずかに緑がかっている


↑ 青白く輝く酸性の川

今度は、ここでゆっくりできる旅程を立てて再訪しよう。


  1. 秋田焼山 - Wikipedia ↩︎

  2. 鹿角 - 国立国会図書館デジタルコレクション ↩︎