旧神瀧温泉 (2020/7/24)
日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中18湯目
奥の院地獄の湯に入浴後は、国土地理院地図上で神滝温泉の裏手にある源泉が気になり、訪ねてみることにした。直線距離は1km強だが、廃道と化した山道で夏の藪をひたすら掻き分けることとなり、ひたすら辛かった。なんとか源泉には到達できたもののパイプから湯が流れ出すのみで、体力切れと群がる虻のストレスでテンションが上がらず入浴しなかった。浴びればよかったなあ、また機会があったら浴びに行ってみたい。温泉を溜める浴槽になるものを持参すると良いだろう。
施設・温泉概要
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首上蟹沢
源泉名: 神滝1号泉・神滝2号泉・神滝3号泉・新神滝温泉のどれか
湧出地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首上蟹沢
泉質 ナトリウム-塩化物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉の利用方法: 利用無し パイプ放流
旧神瀧温泉への道のり
鳴子温泉を国道108号のバイパスでない方の道で登り、鳴子ダムを過ぎ、バイパスと合流する手前に上蟹沢の集落がある。看板等一切無いが、集落の高いところに神滝温泉 (みたき) の建物が見える。よくわからない場合には、バイパスを走り、江合川を渡った先を右折し、深い沢を渡った先で見える、貫禄のある建物が神滝温泉である。人が住んでいる気配はあったが、既に営業はしていなかった。
今回目指す神瀧温泉は、今ある神滝温泉とは異なり、もっと沢の奥にある。紛らわしいので区別して、蟹沢にある方を神滝温泉と表記し、奥の温泉を神瀧温泉と呼ぶことにする。
今ある神滝温泉は、昭和30年代末にどこかから移転してきたらしい[1]。それが神瀧温泉からなのか、蟹澤温泉からなのかは、インターネットで調べただけでは判らなかった。たぶん郷土史を読めば分かるだろう。「神滝3号泉」という源泉を使っていたそうなので、古の神瀧温泉の末裔なのかもしれない。源泉は東北大震災以降、お湯が出なくなり休止中らしい[2]。
なお蟹澤温泉も現在は旅館が無いが、荒雄川 (江合川) 左岸断崖の中腹から湧出していたらしい。当時は旅館から200段以上の階段を降りると、川にコンクリートで作った浴槽があったそうだ[3][4]。
↑ 上蟹沢の一番高いところにあるのが神滝温泉
目的地へは神滝温泉の裏から入っていくはず。神滝温泉の前に停めるのも気が引けたので、バイクは大深沢にかかる橋のたもとに入れておいた。橋の名前は控え忘れた。
徒歩で神滝温泉の軒先を通り、奥の方に行くと早くも道が草木に覆われ始める。
↑ 神滝温泉の軒先をかすめる
↑ さっきの画像から少し進んだところ かろうじて道の存在が認識できる
入口は少し藪漕ぎになったが、中に入ってみると茂みは低く、ダブルトラックの形跡まで見える。その気になればバイクでも通れそうと思いながら歩いた。
↑ 車が通っていたかもしれない
数分くらい歩くと、貯水タンクらしき物体が現われ、前方の道は針金で遮られている。つい突撃してしまったが、そっちはハズレで行き止まりである。そして多分入ってはいけないところだ。この手前で左側に折れ、沢沿いを行くのだが…ここからが本番であった。
↑ 貯水タンク?
道はほとんど完全に廃道と化しており、全体が身長を越える藪に覆われている。藪にはトゲのある植物が混じっていて、手を引っ掻いたり、ジャケットに引っ掛ったりしてくる。胸より上は山側から延びてきた太い木の枝に遮られ、下を潜るか、上を乗り越えるかしないと進むことができない。枝に打たれて怯むと、足元が一部崩落し崖のようになっていて足が外れる。加えて精神的に嫌なのは、草木には濃密な蜘蛛の巣が形成され、触れると異常にベタつくことだ。ネットというよりはメッシュとでも呼ぶべき密度だった。
でも正直トゲが一番辛かった。当然のように何箇所も腫れて出血した。
↑ いちおう草の密度で道はわかる 稀にピンクのテープが下がっている
↑ どこを通ったのかわからない
藪を漕ぐこと30分、ようやく抜け出すと、山側から降りてくる道と合流した。もっと時間が経ったような気もしたが、アップダウンも無くて1kmなので、こんなものだろうか。引っ掻き傷が少し腫れている。終盤はアプにも付き纏われてストレス過大だった。
合流した道を覗いてみると東北電力の道案内看板があった。奥羽幹線は秋田県羽後 (うご) 市の羽後変電所から宮城県加美町の宮城変電所を結ぶ275kV送電線だ。送電線は大深沢のもっと上流を跨いでいるが、沢が深いので、人間は神瀧温泉まで迂回して鉄塔間を移動したのだろう。
↑ 羽後側がNO168, 宮城側がNO169
神瀧温泉の湯
東北電力の看板からさらに進むと、ほどなくして泥の積もった平場が現われた。
↑ 壊れた小屋? とパイプ
↑ パイプに先は無く、足元に湯を垂れ流している
↑ 温泉設備が崩壊している
↑ 左に回り込んでみた
ポンプとモーターが露出している。これがもしかして神滝3号泉の源泉設備だったりするのだろうか?
↑ 寺田ポンプ制作所のセルプラポンプと富士電機の三相モーター
↑ MLH6097M
↑ 少し進むと低くなったところにコンクリートの小屋
トンネルの緊急避難坑を思わせる謎のコンクリート小屋があったりもしたが、アプに追われていて覗く余裕が無かった。
ポンプの広場からさらに5mほど進むと、今度は溝に垂れ流しの源泉パイプが見つかった。地面から突き出したパイプから熱い温泉がドバドバと吐かれている。吐き出された湯はそのまま滝となって沢に流れ込み、せっかく湧出したのに直ちに自然に帰っていく。
↑ パイプから温泉がドバドバ
↑ 右から左へ、滝になって流れる
↑ 流れ込む先は、下を流れる大深沢
沢の水がやや白濁しているのは、付近の温泉湧出のせいか、あるいは上流の片山地獄の硫黄成分か。
なお先に続く道も沢に落ちてから対岸を登るようになっている。国土地理院地図によると、登った先には神社があるらしい。一度下には降りて対岸までは行ったものの、登りが思ったより大変そうだったので、面倒になって戻ってきた。今思えば行けばよかったと思うが、この時は藪漕ぎで体力を奪われ、探求心が萎えていた。
沢は少しジャンプすると渡れるくらいの幅があり、何本かロープが渡されていた。でも手が届くのは1本だけ。
さて、温泉のパイプに戻ってきた。
入浴はしなかったのだが、飮泉はやった。味は無味だが、金気が感じられることもあった。匂いは感じられず無臭。色は無色透明。湯の流れは鮮やかな茶色に着色されていた。温度は46℃くらいで、直接浴びたら熱いが、浴槽に入れたらちょうど良い温度になりそうだった。
↑ 神瀧温泉の源泉
帰途のことを考えるのは憂鬱だったが、実際に戻ってみると確かに、頭を木にぶつけたり、手がメッシュ蜘蛛の巣でネバーッとなったり、崖から足を少し踏み外したりもしたものの、割とあっさりと藪を抜け、時間もそれほどかからなかった。一回分け入ってしまえば随分と楽になるものだ。
今度、春などにまた来て入浴を試みたい。
神瀧温泉について
インターネットで探していたところ、2004年には神瀧温泉の旅館跡の廃屋や、他の源泉パイプが見つけられたらしい[5]が、現在は無い。また今埋もれかかっているパイプも当時はもっと根元の方まで地面から出ていた模様[6]。あと10年もすれば埋もれてしまいそうだ。
道も随分と楽そうだが、もっと昔、大正時代には馬でも来ることができて女性に賑っていたらしい。温泉も神瀧温泉と、さらに沢の上流に新神瀧温泉があった。
かかる地形であるから此の地に三ツの瀧がある。開湯の祝儀として、大塲里正が南に向って鑛泉の湧出するは、瑞祥にして神護の開運であるとの祝意を籠めての命名である。何如にも明治の初年に高橋六右衛門が發見し、其の親戚に浴塲を營ましめてあったが、其子孫に至り、親戚協議の末、譲興せられたのは三十七年頃である。當時は駄馬の路さへなく、谷川向ひの小山に馬を繋ぎ、危橋を渡り石を踏んで來浴せしも今は山を啓き路を築き、椽先より馬上の人となるも自由自在。
陸羽東線玉造の温泉誌 - 国立国会図書館デジタルコレクション
馬が通れるように道を開く前は以下のように表現されており、やはり近寄り難い場所だったようだ。
大深澤の渓流 (ながれ) に沿ひたる岩石 (いは) より涌出づ、道路 (みち) 險悪 (けはしく) 往來 (ゆきき) に容易ならず、境界 (とち) また極めて狹隘 (せまく) 僻遠にして四方山を以て掩はれ白晝 (ひる) 瞑々 (くらく)、寂として鳥聲 (とりのこゑ) を聽かず、而して屋前の谿流 (ながれ) は迅雷 (うみなり) 怒り、大鯨 (くぢら) 吼え、乍ちにして松濤 (まつかぜ) 起り、乍ちにして時雨至る、その幽邃奇觀眞に俗眼を踊ろかつ
周辺の温泉
鬼首村では昔から多くの温泉が知られていたが、その中で特に荒湯・神滝・轟・宮沢・蟹沢の5つが有名だった。ここでは、現在の鬼首地域の温泉を簡単にまとめてみる。
野湯については入浴できるか不明。自己責任で社会的ルールも守りつつ、くれぐれも事故の無いよう気を付けて行ってきて下さい。
施設の情報については、あくまで参考情報程度にとどめ、正確な情報は公式ページ等をご確認下さい。
鬼首温泉 旅館元湯 (宮沢温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢32-1
Web: 旅館元湯【旅館】
日帰り入浴: 可 9:00-17:00
宿泊: 可
源泉名: 元湯1号
湧出地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢32-1
泉温: 93.2 ℃
pH: 8.3
成分総計: 1021.0 mg/kg
泉質 ナトリウム-塩化物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
旅館かむろ荘 (宮沢温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢24
Web: 無し (ドメイン切れ…) Internet Archive
日帰り入浴: 可 10:00-15:00
宿泊: 可
源泉名: かむろの湯
湧出地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢24
泉温: 98.1 ℃
pH: 8.8
成分総計: 987.6. mg/kg
泉質 アルカリ性単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
大新館 (宮沢温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢22
Web: 大新館
日帰り入浴: 可 8:00-20:00
宿泊: 可
源泉名: 源泉情報無し
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
宮沢上流の源泉
文献に温泉マークがあるが詳細不明。
吹上温泉 峯雲閣 (吹上温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字吹上16
Web: 無し
日帰り入浴: 可 10:00-13:00
宿泊: 可
源泉名: 吹上げの湯
湧出地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字吹上24-2, 24-3
泉温: 82.8 ℃
pH: 8.84
成分総計: 895.1 mg/kg
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
すぱ鬼首の湯 (たぶん吹上温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字本宮原23-89
Web: すぱ鬼首の湯
日帰り入浴: 可 10:00-18:00 (受付17:30まで)
宿泊: 不可
源泉名: 白土源泉・通産省源泉・本宮原1号源泉混合泉
pH: 8.3
泉質 アルカリ性単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
ホテルオニコウベ (吹上温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字大清水26-17
Web: ホテルオニコウベ
日帰り入浴: 可 10:00-16:00
宿泊: 可
源泉名: 白土源泉・通産省源泉・本宮原1号源泉混合泉
泉質 アルカリ性単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温有り, 加水有り, 循環有り, 塩素系薬剤による消毒有り
吹上沢地獄谷遊歩道 (吹上温泉)
吹上沢に沿って複数の源泉。
Web: 地獄谷遊歩道 - 大崎市ウェブサイト Osaki City Official Website
せんとう 目の湯 (轟温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首轟8-1
Web: 無し
日帰り入浴: 可 10:00-20:00 (受付19:30まで)
宿泊: 不可
源泉名: 目の湯動力泉
pH: 8.0
成分総計: 760.5 mg/kg
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
とどろき旅館 (轟温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字轟1
Web: とどろき旅館
日帰り入浴: 可 10:00-14:00
宿泊: 可
源泉名: 新とどろき3号
湧出地:
泉温: 77.2 ℃
pH: 7.8
成分総計: 843.5 mg/kg
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
神滝 (みたき) 温泉 (閉館)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字蟹沢19-1
Web: 無し
日帰り入浴: 可 10:00-14:00
宿泊: 可
源泉名: 神滝3号
泉温: 64.4 ℃
pH: 6.6
成分総計: 1830 mg/kg
泉質 ナトリウム-塩化物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
蟹沢の温泉
文献に温泉マークがあるが詳細不明。
赤澤温泉 (赤澤温泉)
かつて温泉旅館があったらしい。インターネット上では名前を伏せて入湯記録がある。
雌釜、雄釜間歇温泉
特別天然記念物の間歇泉。現在は自噴を停止しているらしい。
Web:
片山地獄 (片山温泉)
鬼首の火山活動の中心地で、鬼首地熱発電所内にあり関係者以外は入れないため、現在は見ることも叶わない。広大な地獄地帯の内側には、血の池地獄の湯と呼ばれる野湯など、複数の温泉があって以前の入湯記録がインターネット上に見つけられる。文献によると、1953年まで稼動していた鬼首硫黄鉱山の鉱山浴場という温泉施設さえあったようだ。
荒湯温泉
荒湯地獄から少し下ったところ、荒雄川の源流部と言われるところで、沸騰する湯が湧いている。昭和初期頃まではいくつかの旅館が存在していた。
過去の訪問: 荒湯温泉 (2020/7/25)
奥の院地獄
荒湯地獄と片山地獄の間にもう一つ地獄があって、入浴できる場所がある。道路からは見えていないので知っていないと辿り着けない。野湯経験が無いと危険なので詳しい場所は伏せておく。
過去の訪問: 奥の院地獄の湯 (2020/7/25)
寒風沢温泉
鬼首村の東南部、花淵山と矢楯岳の中間、寒風澤の荒雄川に合流する地點より湧出す (玉造郡誌)
荒雄川の沿岸に寒風澤の溫泉あるも、明治四十三年の大水害に全部流失せられ、今は全く廢湯せり (宮城縣鑛泉誌)
花淵山と矢楯岳の中間なのか、寒風澤の荒雄川に合流する所なのか、どっちだかよくわからないが、寒風沢温泉という湯があったものの、1910年 (明治43年) の大水害による土砂崩れで埋没してしまった。
濁澤温泉
36℃程度の温泉が湧いているらしい。
その他
江合川沿いにぬるい湯があちこち湧いているが、面倒なので省略する。