荒湯温泉 (2020/7/24)
日帰り, 1回目, 晴れ, 2020年度中16湯目
高清水新堤自然公園キャンプ場 でテント泊をした翌日は鬼首の野湯へ出掛けた。まず初めに宮城県鬼首温泉郷付近にある荒湯地獄の野湯で入浴した。ちなみに現在は地獄から湧く温泉としか言いようが無いが、かつては荒湯温泉といい旅館が数棟あったらしい。行ってみたところ、先人の入浴跡があったものの埋もれかけていたので手で掘り返して入浴した。湯加減ほどよく、火山から湧き出したて一番の湯を全身に浴びてこの上無い幸せだった。
注意: 荒湯地獄の湯は現在も活動中の火口内部に位置し、高濃度で吸うと死に至る硫化水素ガスが吹き出し、沸騰する熱湯が大量に流れる、噴気地帯の中にあります。危険性を十分理解した上で自己責任で立ち入って下さい。明るく見通しが効き、風の強い日の訪問をおすすめします。逆に霧が出ている日の入浴は、硫化水素ガスが滞留するため絶対にやめましょう。ガスの危険性については、草津町の Web ページから 草津白根山の火山ガスについて を一読しておくと良いです。また、2010年にはすぐ近くの鬼首地熱発電所で噴気口が爆発し死亡事故も発生している[1][2]ので、噴気の勢いがやけに強いとか、地震とか、危険を感じたらすぐに逃げて下さい。
施設・温泉概要
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首荒湯地獄
泉質: 酸性泉?
温泉の利用方法: 野湯
荒湯地獄
宮城県の北西部、宮城、山形、秋田の3県の県境近くには鬼首温泉という温泉地帯があって、荒雄岳を中心とした直径13kmほどのカルデラ「鬼首カルデラ」内部のあちこちから温泉が湧き出している。カルデラの東端より少し内側、国見峠から鬼首地熱発電所へ向う途中に荒湯地獄という有名な噴気地帯があり、その北部では自噴する温泉が川になっていて下流で入浴することができる。
荒湯地獄は宮城県道249号線から鬼首地熱発電所に向う道の途中にある。看板などは無いが、近付くと山中に白い山肌と噴気が見えてくるので誰でも簡単に分かる。地獄の手前に着くと道路脇に砂地のスペースがあって、車ごと入ることが可能。私はオフロードバイクなので何の躊躇いも感じなかった。
地獄の入口には一応、ガス危険を警告する看板があるが進入を禁止するつもりは無いようだ。白い砂山を登ると荒寥とした地獄の風景が広がった。噴気のシュゴーッという凶暴な音と風の音だけが聴こえてくる。
↑ 看板の跡?
地獄は道路より低いところにあり、俯瞰することができる。この窪地は火山噴火により上部山体が吹き飛ばされてできた小さな爆裂火口痕である、と言いたいところだが、実はかつて硫黄鉱山があって露天掘りの跡らしい。爆裂火口痕も間違いんだけど。
↑ 荒湯地獄を高いところから眺めた
草木の一本も無い砂地を降りると、地面は渇いた川のようになっていて、歩くと薄っすらと足跡が付いた。降りるときは、噴気地帯にガスが滞留していたり、地面が泥状の「ぼっけ」になっていたら危険なため慎重に。
↑ 荒湯地獄に降りる
↑ 荒湯地獄に降りた
降りたはいいものの、温泉が見つからない。時々、足元から湯が湧いていて小さな湯溜りを作っているが、入浴できる温度でも量でも無さそうだ。高い所を移動しながら、ちょっと地獄内を回ってみたりした。
↑ 斜面側で噴気が上がっている
↑ 黄色いです
↑ 湯溜り ポコポコと温泉が自噴している
↑ 噴気も近かったので眺めただけ
単独行なのであまり近付きすぎてトラブルになっても良くないと思い、地獄はここまで。こんな素敵な場所を野放しで開放してくれているなんて、鬼首の人達はなんて寛大なんだろう。このままずっと残しておいてほしい。
↑ 渇いた谷
さて、地獄谷を歩き回って気持ちが満たされたところで、何か忘れている気がする。そういえば温泉に入っていなかった。改めて見回してみると、下流の方にある粘土の谷の先に何かを感じる。湯気こそ見えないが、温泉の気配がする。
谷の底は渇いているが、時々湿って少し水が染み出しているところもある。ここも、硫化ガスが溜っていないか気を付けて歩いていく。前方には濛々とした湯気が見え始めた。
↑ 硫黄の付着により黄色くなった噴気跡
荒湯温泉
ほんの1、2分ほど歩いて谷の終わりが見えてきたころに、温泉の源泉を見つけた。ボコボコと激しい音を立てながら大量の熱湯が岩の下から湧き出している。
↑ 飛沫を上げて湧く温泉 熱そう
これより先は温泉の川になり、狭い谷の底を流れている。火傷を恐れて谷の上を高巻きした。
↑ 下流に回り込んだ 源泉は湯気の先
↑ 熱いので適温の場所を探しながら川を下る
↑ 結構下ってきたがまだ熱い
↑ ブルーシートが散乱している
ブルーシートが散らかる理由は想像に難くない。前の人が作った浴槽が壊れていたら、それは放置して、新しい浴槽を作るからだ。気持ちはわかるが素敵な源泉地帯にゴミが増えるのはいただけない。今度来たら1枚でも持ち帰ろうと思った。
傾な 斜を下ると、少し大きな浴槽として作られているところがあり、適温だったのでここで浸かることにした。岩肌のすぐ下で、たぶん先人達も一番入っている場所だ。ここより下に行くと隣の沢が合流してきて急激に水温が下がるようなので、ここが最適な場所なのだろう。
↑ 砂が溜まって浅くなっていたので、入浴しながら掘った
↑ 上流からは温泉が絶え間なく流れ込む
湯の温度は43度くらいでやや熱め。岩肌や浴槽底の土も熱を持っている他。空も晴れていたので日光と温泉の同時攻撃で背中が熱かった。
↑ 入浴中目線 浅く見えるが肩近くまで浸かった
浴槽の中で動くと灰色の砂が舞い上がって浴槽が濁る。少し待っていると透き通ってやや白濁した半透明の湯になった。流れてくる源泉は無色透明で湯の華も見当たらない。
匂いは浴槽部分で無臭。源泉付近でもあまり匂いは無いが、少し硫化水素臭がある。
↑ 源泉湧出地付近でカップに温泉を汲んだ
飲んでみると、弱めながら明確な酸味が感じられた。硫化水素系の刺激的な味はほとんど無く、素朴な酸性泉と感じた。
とにかく新鮮な温泉がどんどん注がれて幸せだった。ロケーションも良く、この後が無ければ何時間も滞在したかった。
なお、火山の野湯に入浴していると必ず寄ってくる小蠅みたいな虫は、ここでもそこそこ多かった。
荒湯について
荒湯温泉の開湯は約400年前で、1586年 (天正14年) に遊佐友治十五世の組長門 (文献によっては遊佐忠右衛門十四世の組長門と書いてある) なる人物が荒雄岳に登った際、噴気を頼りに温泉を見つけ、掘削し 1602年 (慶長6年)、姥湯旅館を始めた。その後、明治の頃には下瀧湯、新瀧湯の3棟があったようだ。その後、1930年頃までは姥の湯、瀧の湯ともに営業していたようだが、1960年頃の資料ではすっかり消え失せている。今回入浴した付近に、姥湯などがあったのだろうか。
また、同じ明治期には片山地獄方面まで跨って荒湯硫黄鉱山で採掘が行なわれていた。荒湯地獄は硫黄鉱山の採掘の跡である。
温泉は、地下水が荒雄岳内部の火山ガスと接触することで成分が取り込まれ、また熱せられて湧き出している。
周辺の温泉
鬼首村では昔から多くの温泉が知られていたが、その中で特に荒湯・神滝・轟・宮沢・蟹沢の5つが有名だった。ここでは、現在の鬼首地域の温泉を簡単にまとめてみる。
野湯については入浴できるか不明。自己責任で社会的ルールも守りつつ、くれぐれも事故の無いよう気を付けて行ってきて下さい。
施設の情報については、あくまで参考情報程度にとどめ、正確な情報は公式ページ等をご確認下さい。
鬼首温泉 旅館元湯 (宮沢温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢32-1
Web: 旅館元湯【旅館】
日帰り入浴: 可 9:00-17:00
宿泊: 可
源泉名: 元湯1号
湧出地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢32-1
泉温: 93.2 ℃
pH: 8.3
成分総計: 1021.0 mg/kg
泉質 ナトリウム-塩化物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
旅館かむろ荘 (宮沢温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢24
Web: 無し (ドメイン切れ…) Internet Archive
日帰り入浴: 可 10:00-15:00
宿泊: 可
源泉名: かむろの湯
湧出地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢24
泉温: 98.1 ℃
pH: 8.8
成分総計: 987.6. mg/kg
泉質 アルカリ性単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
大新館 (宮沢温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字宮沢22
Web: 大新館
日帰り入浴: 可 8:00-20:00
宿泊: 可
源泉名: 源泉情報無し
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
宮沢上流の源泉
文献に温泉マークがあるが詳細不明。
吹上温泉 峯雲閣 (吹上温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字吹上16
Web: 無し
日帰り入浴: 可 10:00-13:00
宿泊: 可
源泉名: 吹上げの湯
湧出地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字吹上24-2, 24-3
泉温: 82.8 ℃
pH: 8.84
成分総計: 895.1 mg/kg
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
すぱ鬼首の湯 (たぶん吹上温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字本宮原23-89
Web: すぱ鬼首の湯
日帰り入浴: 可 10:00-18:00 (受付17:30まで)
宿泊: 不可
源泉名: 白土源泉・通産省源泉・本宮原1号源泉混合泉
pH: 8.3
泉質 アルカリ性単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
ホテルオニコウベ (吹上温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字大清水26-17
Web: ホテルオニコウベ
日帰り入浴: 可 10:00-16:00
宿泊: 可
源泉名: 白土源泉・通産省源泉・本宮原1号源泉混合泉
泉質 アルカリ性単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温有り, 加水有り, 循環有り, 塩素系薬剤による消毒有り
吹上沢地獄谷遊歩道 (吹上温泉)
吹上沢に沿って複数の源泉。
Web: 地獄谷遊歩道 - 大崎市ウェブサイト Osaki City Official Website
せんとう 目の湯 (轟温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首轟8-1
Web: 無し
日帰り入浴: 可 10:00-20:00 (受付19:30まで)
宿泊: 不可
源泉名: 目の湯動力泉
pH: 8.0
成分総計: 760.5 mg/kg
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
とどろき旅館 (轟温泉)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字轟1
Web: とどろき旅館
日帰り入浴: 可 10:00-14:00
宿泊: 可
源泉名: 新とどろき3号
湧出地:
泉温: 77.2 ℃
pH: 7.8
成分総計: 843.5 mg/kg
泉質 単純物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
神滝 (みたき) 温泉 (休業)
所在地: 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首字蟹沢19-1
Web: 無し
日帰り入浴: 可 10:00-14:00
宿泊: 可
源泉名: 神滝3号
泉温: 64.4 ℃
pH: 6.6
成分総計: 1830 mg/kg
泉質 ナトリウム-塩化物泉 (低張性・弱アルカリ性・高温泉)
温泉使用方法: 加温無し, 加水無し, 循環無し, 消毒無し
蟹沢の温泉
文献に温泉マークがあるが詳細不明。
神滝 (みたき) 温泉 (源泉) (神瀧温泉)
神滝温泉旅館の西を流れる大深沢上流にある源泉。現在は設備が荒廃しパイプから湯が溢れている。
赤澤温泉 (赤澤温泉)
かつて温泉旅館があったらしい。インターネット上では名前を伏せて入湯記録がある。
雌釜、雄釜間歇温泉
特別天然記念物の間歇泉。現在は自噴を停止しているらしい。
Web:
片山地獄 (片山温泉)
鬼首の火山活動の中心地で、鬼首地熱発電所内にあり関係者以外は入れないため、現在は見ることも叶わない。広大な地獄地帯の内側には、血の池地獄の湯と呼ばれる野湯など、複数の温泉があって以前の入湯記録がインターネット上に見つけられる。文献によると、1953年まで稼動していた鬼首硫黄鉱山[3]の鉱山浴場という温泉施設さえあったようだ。
奥の院地獄
荒湯地獄と片山地獄の間にもう一つ地獄があって、入浴できる場所がある。道路からは見えていないので知っていないと辿り着けない。野湯経験が無いと危険なので詳しい場所は伏せておく。
寒風沢温泉
鬼首村の東南部、花淵山と矢楯岳の中間、寒風澤の荒雄川に合流する地點より湧出す (玉造郡誌)
荒雄川の沿岸に寒風澤の溫泉あるも、明治四十三年の大水害に全部流失せられ、今は全く廢湯せり (宮城縣鑛泉誌)
花淵山と矢楯岳の中間なのか、寒風澤の荒雄川に合流する所なのか、どっちだかよくわからないが、寒風沢温泉という湯があったものの、1910年 (明治43年) の大水害による土砂崩れで埋没してしまった。
濁澤温泉
36℃程度の温泉が湧いているらしい。
その他
江合川沿いにぬるい湯があちこち湧いているが、面倒なので省略する。
参考
- 宮城県鬼首環状地内における地質構造と地熱との関係 - 国立国会図書館デジタルコレクション
- 宮城県鉱泉誌 (永沢小兵衛, 1891) - 国立国会図書館デジタルコレクション
- 陸羽東線玉造の温泉誌 (梅森三郎, 1918) - 国立国会図書館デジタルコレクション
- 玉造郡誌 (宮城県玉造郡教育会, 1929) - 国立国会図書館デジタルコレクション
- 日本温泉案内. 東部篇 (大日本雄弁会講談社, 1930)- 国立国会図書館デジタルコレクション
- 荒湯(鳴子町)