2019/10/28 国見温泉石塚旅館
晴れ 日帰り 1回目
岩手県雫石町、秋田駒ヶ岳南側の山中にある温泉。山中といっても国道46号線、岩手県側266号線とちゃんと舗装された道路を走るだけなので車さえあれば到達は容易である。背後には駒ケ岳への登山口がある。夏期のみの営業で、5月中旬~11月初旬は休みらしい。
秋田駒ケ岳周辺には数多くの火山性温泉があり、
乳頭温泉郷や水沢温泉郷が有名である。岩手県側には国見温泉より少し東側に道の駅 雫石あねっこがあり、日帰り入浴が可能。
国見温泉には石塚旅館を含め3件の入浴施設が存在しており、源泉は2本ある。手前から、国見山荘 (源泉: 国見温泉 町営緑の湯)、石塚旅館、森山荘 (源泉: 薬師の湯)。一番有名なのは石塚旅館のようだ。
エメラルドグリーンの湯で有名
国見温泉は大変有名な温泉である。その理由は極めて鮮やかなエメラルドグリーンの湯の色である。その派手さ故にバスクリンのよう、と言われている。
なおバスクリンは水に反応して蛍光色を発する物質を含んでいるため色がつくらしい。国見温泉の湯はそれ自体に色は無く、バスクリンとは原理が異なる。
「バスクリン」に黄色202号の(1)「フルオレセインナトリウム」という色素が配合されており、この成分は粉末の状態ではオレンジ色で、水に溶かすと、緑色の、強い蛍光色を発生する性質を持っています。そのため「バスクリン」は、お湯に溶かすと黄緑色に変化します。
https://www.bathclin.co.jp/support/zatsugaku/orange_green/
施設は大型の山小屋のような感じ。あるいは少し前のスキー場のロッジを思わせる。実際にはスキー場の施設としての機能は無く、先述の通り冬期は閉鎖される。写真では意外とおしゃれな感じに写っている。
日帰り入浴も受け付けており、平日は09:00〜16:00、土日祝祭日は10:00〜16:00で入浴できる。
国見温泉の開湯は元禄 (1688年〜) 以前とされているそうだ。
国見温泉 発見年代は不明であるが、元禄 (一六八八〜)以前といわれている。温泉地内に祀られている薬師菩薩の石仏に文化五年 (一八〇八) の年号が刻まれていることから、文化年代 (一八〇四〜) にはその名が知られていたものと思われる。この温泉は、その効能を知る人たちには湯治場として、また秋田街道を行き来する旅人には、一刻、旅の疲れを癒やすところとして利用されていた。
文政九年 (一八二六) の記録によれば、この温泉は一度浴して十病を去り、十度浴して百病治ると伝えられた名湯で、旧暦四月より七月下旬まで入浴する人で賑わう。湯の味は苦く混じって塩をはやしており、天候によって湯の色が変わる。天気のよい朝は白く、日中は黄色、夕暮れには藍色となる。雨天の日には黒く、人の体も黒く染まると言われ、女人や魚にも効き目があるが鳥類は忌むといわれている。
館内には3つの浴場
施設には男女別の小さい内湯と1つの混浴露天風呂、さらに館内の少し離れた位置に薬師の湯という男女の別の大きな内湯がある。どれも同じ、薬師の湯源泉を利用している。
館内右手の廊下の先にあるのは前者。
右手手前の戸から出ると少し外を歩いて混浴露天風呂に着く。奥に見えるのが男女別の内湯。
内湯は鮮度が良い
残念ながら男湯の中の写真は無い。
小さい内湯は3人位が入浴できるサイズ。この湯が一番熱く、一番透き通っていた。温度は42℃位で、見通しは15cm程度。この湯が一番鮮度が良いように感じた。次いで薬師の湯、露天風呂と思った。
男湯の内湯の中には裏口があり、開けると10メートル少し向こうに混浴露天風呂が見え、裸のまま歩いていける。冬は中で十分温まってから全裸でダッシュするのがベストだと想像される。
露天風呂から振り返ってみると、内湯は上の写真の感じの小屋になっている。温泉成分が流れ込んだ溝は、湯の花と苔でやばい色になっていた。
露天風呂は色が鮮やか
湯の色を楽しむならば露天風呂が一番である。日の光が当たり、鮮やかで圧倒的なエメラルドグリーンに輝いていた。内湯は露天風呂と比較すると黒緑の色合いだった。浴槽は長方形型で、10人程が入浴できそうなサイズで結構大きい。
混浴露天風呂の裏手は荒れ地になっていて、20メートル程離れて源泉が見える。源泉からは樋が伸びていて、一方はこちら側石塚旅館に伸び、他方は守山層の方角に続いていた。
ブルーシートの下を除くと次の感じ。
源泉は掘削自噴らしいのだが、なぜか詳しい情報を見つけられなかった。
薬師の湯は湯膜あり
薬師の湯は湯膜が一番はっきりと見られ、湯の水面をわずかに白っぽい膜が覆っていた。この湯膜はなかなか強く、少し波に流されたくらいでは消えることは無かった。浴槽は扇形で、10人以上入浴できそうだった。
湯膜ができるのは浴槽サイズが大きいのと、利用者が少ないためと思われる。
残念ながら浴室内の写真は無い。
硫黄の個性が効いた湯
湯の色は鮮やかなエメラルドグリーンで半透明。見通しは15cm程度のため、浴槽の底は見えない。底には白い拘泥が厚く積もっていた。本記事のトップ画像の上部、少し白い部分は浴槽中段の足場である。
これだけの色なのに、湯口から出る湯は透明。
エメラルドグリーンになるのは湯の花によるものではなく、湯自体が色付いているわけでもないらしい。その理由については後述。
味は、硫黄系の毒の味であり、ひどく不味い。この類の味は硫黄泉に多いのだが、温泉によってその味のキツさは変わる。国見温泉の湯はそれらの中でも不味い方だと思う。同じく激マズな塩原元湯大出館の塩化物泉と比較するとやや飲みやすい印象で、少しはまろやかかもしれないが、そのまろやかさを頼りにたくさん飲んでいたら吐きそうになった。程々に飲むべきだ。
匂いは硫化水素の刺激臭だった。
湯の感触はすこしギシギシした。
エメラルドグリーンの理由
さて、いよいよ温泉が黄緑色になる理由について。
簡単に言うと多硫化イオン (化合物?) の黄色と炭酸カルシウム溶液の散乱による青色が混ざったためとのこと。
多硫化イオンの黄色
掲示によると、まず火山ガスの1つである硫化水素 (H2S) が水 (H2O) に溶け込むことにより、硫化水素イオン (HS) とオキソニウムイオン (H3O) が発生する。
次に、この温泉が地面から湧き出し浴槽に注がれるまでの過程で (圧力、温度の急低下のため?) 硫黄 (S) が析出する。
そして硫化水素イオン (HS) と八硫黄 (S8) がさらに反応することで多硫化イオン (Sx) と水素イオン (H) が発生するとのこと。この多硫化イオンが黄色いのだそうだ。
昔はこの多硫化イオンで黄色を出していた「六一0ハップ」、「草津温泉ハップ」という入浴剤があったらしいが、現在は販売していないとのこと。
多硫化イオンの黄色というのは、かつて販売されていた「六一0ハップ」や「草津温泉ハップ」などの液体入浴剤の原液の色です。
岐阜発!温泉博物館 | 岐阜県温泉協会公式サイト
石灰硫黄合剤という農薬が現在もあり、実はこれが「六一0ハップ」とほとんど同じ成分らしい。
炭酸カルシウムの青色
上記、温泉が浴槽に注がれる過程で硫黄が生じると書いたが、同時に炭酸カルシウム (CaCO3) も析出するそうだ。炭酸カルシウム自体は白色だが、その微粒子が光の波長よりも十分に小さい場合にレイリー散乱が起きる。すると湯に入射した光のうち青い成分は散乱、つまり青い光が微粒子に当たって周囲に広がることで、我々の目に入ってきて青く見えるということ。
火山性の重曹硫化水素泉
源泉名は国見温泉 (薬師の湯)。分析年月日は2014.12.1。湧出量は記載無し、pH7.0、泉温49.0℃、溶存物質 (ガス性のものを除く) は4084mg/kg、成分総計は4433mg/kg。泉質は含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩泉 (硫化水素型) (低張性中性高温泉)。
陽イオンは
ナトリウムイオン (Na) 851.5mg/kg 37.04mval 78.62mval%、
マグネシウムイオン (Mg) 77.7mg/kg 6.39mval 13.56mval%、
カルシウムイオン (Ca) 57.2mg/kg 2.85mval 6.05mval%、
カリウムイオン (K) 28.5mg/kg 0.73mval 1.55mval%、
ストロンチウムイオン (Sr) 2.7mg/kg 0.06mval 0.13mval%、
以下略、
計 1018mg/kg 47.11mval。
陰イオンは
炭酸水素イオン (HCO3) 2507mg/kg 41.09mval 78.12mval%、
塩素イオン (Cl) 198.5mg/kg 5.60mval 10.65mval%、
硫酸イオン (SO4) 220.0mg/kg 4.58mval 8.71mval%、
硫化水素イオン (HS) 40.8mg/kg 1.23mval 2.34mval%、
炭酸イオン (CO3) 1.9mg/kg 0.06mval 0.11mval%、
チオ硫酸イオン (S2O3) 1.9mg/kg 0.03mval 0.06mval%、
以下略、
計 2970mg/kg 52.60mval。
遊離成分で非解離成分は、
メタケイ酸 (H2SiO3) 63.6mg/kg 0.81mmol、
メタホウ酸 (HBO2) 31.7mg/kg 0.72mmol、
以下略、
計 95.3mg/kg 1.53mmol。
溶存ガス成分は、
遊離二酸化炭素 (CO2) 303.0mg/kg 6.88mmol、
遊離硫化水素 (H2S) 46.1mg/kg 1.35mmol、
以下略、
計 349.1mg/kg 8.23mmol。
これは…硫黄イオンが無ければ重曹泉のような泉質である。他には火山性の成分はかなり強く、陰イオンの硫酸イオン、硫化水素イオンが多い。遊離成分の多さも特徴的で、メタケイ酸、メタホウ酸、遊離二酸化炭素、遊離硫化水素ともに多めである。
温泉分析書の泉質名には記されていないが、硫化水素型にあたると思われるので、上記では勝手に硫化水素型と書いておいた。
鉄分の多い他の温泉に入って国見温泉に入ると、白いタオルが黒く染まるほか、爪も黒くなってしまうらしい。付近の鉄分が多めの温泉だと、乳頭温泉郷の鶴の湯や妙乃湯になるのだろうか。